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小説挑戦

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第十三話 (空気のやつ) 

ボツ作品広場

「僕にはとてもじゃないが、魔法なんてものは理解出来ない」


 空知大気は自信を持って言った。
 この発言に嘘偽りなどなく、彼自身の本音であることが、その言葉に満ち溢れて滲み出る自信からも分かる。
 そう。大気は結局のところは魔法なんて不可思議で科学的に証明できないものを理解などしていなかったのだ。
 科学的根拠があれば理解できるかどうかはさておき、目の前で起きた変身や飛行などという現象を目の当たりにした今でも、正直どう考えればいいか悩んでいる。

 肯定。

 それは確実だろう。
 今となっては否定することのほうが難しいし、否定する理由もない。
 大気の本心としては、やはり面白いことがあったほうがこの先の人生がより面白く明るいものとなりやすいので、魔法を否定することはない。
 望んでいる、とさえ大気は言えるだろう。
 その望みは彼の境遇からの脱出の可能性という点の一言に尽きる。

 だから、大気が犬耳で額に宝石のようなものが埋め込まれているちょっと綺麗で気性の荒らそうなお姉さんに、


「アンタは、あのちびっ子の仲間かい!? それとも他の魔導師の使い回しかい!?」


 なんてえんらい形相で睨まれても、ガクガクブルブルと震えるだけで答えが出せるわけがなかった。
 そもそも何に答えればいいのか分からない。

 ちびっ子? 誰それ? 魔導師の使い回し? 意味分からん。

 理解出来ないし、答えられることもなかった。


「あ、アルフ、そんなに踏みつけたら、かわいそうだよ?」
「いいんだよ、フェイト。こいつらはアタシたちの敵なんだから」
「でも、まだ、そうと決まったわけじゃないし」


 今、自分がどんな状況なのかはいまいち把握出来ていなかったが、目の前の金髪の少女が自分のことを庇っていることだけは安易に理解できた。
 有里は対照的な儚気な、弱々しい雰囲気の金髪の少女。
 可愛いし、綺麗な女の子だった。

 年齢は僕と同じくらいかな。

 ようやく思考できたのが、目の前の少女に対することだった。
 なのはの言っていた身体的特徴に酷似している少女。
 今、大気はその少女のいるマンションの部屋にいる。というよりは、出入口のところでアルフと呼ばれたお姉さんに捕まったのだった。
 理由は簡単、インターホンを鳴らして、中から出てきたアルフに「アンタから魔力を感じる……まさかっ!」なんて展開で、部屋に力技で連れ込まれたのだ。

 女の子の家に行くのは三人目だ、と大気は全く関係ないことを思った。


「で、でもフェイトぉ……」
「アルフ、ダメだよ? さすがに全く関係ない一般人を巻き込んじゃ」
「うっ……でも! こいつから魔力を感じるし! ここだってつけてきたから分かったに決まってる! どうやってつけてきたかは分からないけど」


 サーチにも引っかからなかったし、アタシの鼻も利かなかったし。
 訝しげに大気を見ながら悔しそうにアルフは言った。

 サーチだとか鼻だとかよく分からない言葉が飛び交うが、一つだけ大気には分かっていることがあった。
 総じてこれらの発言は『自分を貶している』ということに。
 大気の耳は、脳は、アルフの言葉を『存在感ないからわかんなかったじゃねーか馬鹿野郎』と見事にダイナミック翻訳していた。
 もちろん、こんなことを言われて黙っている大気ではない。
 空気、空気、影薄い、存在感がない、存在がない、え? 誰それ? と言われ続けた大気だが、初対面の見ず知らずの人にいきなり言われる覚えはないのだ。
 いくら温厚で、人当たりが良く、優しい、といういかにも平凡そうな性格と特徴のない人の総評を貰っている大気でも怒る。


「離してよ! べ、別に僕はつけてきたわけじゃない! た、たまたま通りかかったところでこいつに無理矢理捕まったんだ!」


 慌てて口から出した言葉は嘘の数々だった。
 大気は自分の意志でフェイトと呼ばれていた金髪の少女の後を追ったストーカーである。
 自分の存在感の無さをこれでもかと有効活用した立派な犯罪者予備軍だった。


「ほら、アルフ。この子もこう言ってるんだから」
「ハッ! 見え透いた嘘を言うんじゃないよ、ガキ! フェイト、こいつの言ってることは嘘だよ。信じる必要ないって」
「……ッ」
「でも、証拠はないよ? サーチにも引っかからなかったし、私の後をつけている気配だってしなかったし」


 大気が過去に某剣士の後ろをとったという実績もあったことをフェイトが知っていれば、気配が頼りにならないことに気づけたかもしれないが、フェイトはそれを知らない。
 だから、大気の言葉(嘘)を信じることが出来た。

 こう簡単に信じられたら罪悪感が……

 庇ってくれたことは、信じてくれたことは嬉しかったが、騙してしまったことには後悔を覚えた。
 場の空気と、身の保身と怒りのせいで、なんとかアルフに罪をなすりつけたくて言った言葉だったが、今になって悔やみ始める。


「で、でもぉ……」
「ね? アルフ、謝ろ?」
「うっ……ちっ、悪かったね、疑って。でも、アタシは信じたわけじゃないから、あんたの顔は忘れないよ」
「ゴメン、ね? ウチのアルフが、ええと君は──」
「空知大気。たぶん、すぐに忘れられちゃうと思うけど、大気って呼んでいいから」

 
 自分で言ってて忘れられるという言葉はすごく胸が痛くなる言葉だったが、なるべく明るく言った。
 しかし、アルフは大気の顔を忘れないと言った。
 これは大気にとっては励みになる言葉だった。
 たとえその言葉の中には敵意やら、悪意やらが混じっていて、いい意味ではなくとも忘れないよう心がけてくれるというのは嬉しいことであった。

 もうどんな形であっても形振り構っていられない!
 
 
「さっきは庇ってくれてありがとうね。危うく食べられるところだったよ」
「誰があんたなんか食べるか」
「こーら、ダメだよ」


 フェイトはアルフの頭を優しく撫でながら宥めた。
 フェイトのその慈愛に満ちた表情は見ているだけで癒されるような光景だった。

 同じ金髪だけどアリサじゃこんなに癒されないよなぁ。
 アリサとは生まれが違うからかな、それとも環境?

 フェイトがどこの国の人だろうかを大気の中にある数少ないフェイトの情報を思い起こしながら考えると、フェイトの元を訪れた理由を思い出す。
 
 そうだ、此処に来たのはなのはが誰に襲われたのを特定することだった。

 自分らしくない積極的な行動をしてまでも突き止めようとしたのにも関わらず、目の前の光景で一瞬忘れていた。
 これじゃいけないと自分に鼓舞を入れ、フェイトを再び分析する。
 だが、

 うーん……確かに不可思議な点が多いし、怪しいんだけど、そんなに危険そうな子には見えない。
 むしろ、今にもやられちゃいそうな程に儚い感じがする。

 冷静にフェイトを見ていると、フェイトがなのはを倒すなんてことをするとは思えなかった。というよりは、これはなのはにも言えることだが、魔法を使って戦うという事自体が大気には想像できない。
 
 そもそも、魔法が使えない僕がなのはを倒した相手を特定することが無理だったんじゃ……

 全くの無意味の行動だったのかもしれない。
 目の前にはこれでもかと怪しい犬耳を生やしたアルフがいたが、付け耳でただの趣味ですと言われたら、それを信じるしか無いし。フェイトがなのはの言っていた容姿に似ていても実際に大気が見たわけじゃない。
 せっかく動いたのに無駄な時間を過ごして、無駄に敵意を向けられて、無駄に踏みつけられたということになる。
 
 大気はそう考えると急にやるせなくなってきた。


「ハハハ……バカみたいだよ」
「え?」

 
 ここで敵を突き止めて、なのはと和解しハッピーエンド。
 自分が魔法を使えるようになって、今度はなのはと共に……というまるで主人公的展開を夢に見た大気だったがその夢は実現せず。
 自分が主人公だと勝手に思って、珍しく自分からした行動は空回りで無駄な行動だった。
 本当にアホみたいで、バカみたいだった。


「なんでもない。とりあえず僕はもう帰るね。ええと、色々迷惑をかけてごめんなさい」
「あ、こっちこそ、ゴメンね。それと……」


 最後にもアルフにグチグチと言われながらも、別れの挨拶をしてフェイトの家を出た。
 親にはすでに連絡をとっていたので帰りが遅くなっても怒られることはないだろう。


「魔法か……使えたらやっぱり便利なんだろうなぁ」


 まるで夢を語るように口にしながら、帰路に着く。
 胸の中には最後に言ったフェイトの言葉に疑問を持ちながら。





◆  ◆  ◆





 高町なのはは魔法に魅了された少女であった。
 自分は平凡で周りの友達と比べると陳腐なもんだ。と、さすがにそこまで自信を卑下していないが、少なからず気に病んではいた。
 周りが特殊すぎるといえばその通りなのだが、その中にいるとどうしても自分と比べてしまう。
 自分が平凡なのは悪いことではない、と思っている。
 ただ自分の人生がそれで終わってしまうのをよくないとも思っていた。

 家族にとって良い子であれと、自分に言い聞かせて生きてきたなのはだが、その在り方に疑問をもつようになる年頃だった。

 そんな時に魔法に出会ったのである。
 自分を変えてくれるかも知れない可能性を秘めるそれは、奇しくもどこかの少年と同じような心算で魔法に手をつけた。
 魔法を使って楽しくないわけがない。
 けれども、どこか悲しい魔法の使い方だなとも思う。

 人を助けるために魔法を使う。

 なのはの魔法の在り方であり、これからの自身の人生を指し示すものであった。
 だが、その結果で被害が出てしまった現場を見ると物悲しくなる。
 人を助けるための魔法なのに助けられなかった。まして、それは自分が未然に防げるものだったはずなのに。
 なのはは自分で自分を追い込んでいく。

 魔法で私は人を救えている?
 でも、もしかしてその考えは私の独り善がり?
 実際は助けられてない?

 自分を責めていた時に、アリサにお茶会を誘われた。

 決心はあった。
 もう何があっても救ってみせると。
 ジュエルシードから人を助け、ユーノを助けてみせると。
 揺らぐことのない心だった。

 けれども、そこに一度疑問を持ち始めると、そうはいかなくなり。
 成り行きでジュエルシードを集めようとしてしまいそうになる。

 だから、魔法がアリサたちに露見したとき、ホッとした。
 本当は巻き込んじゃいけない、絶対に秘密にしなくちゃいけないと思ってたのに安心してしまった。
 いや、もしかしたら今すぐにでも話をしたかったのかもしれない。

 私魔法が使えるようになったよっ!

 この一言を言って自慢をしたかったのかもしれない。
 知って欲しかったのかもしれない。
 だから思わず口を滑らせ、ばらしてしまった。

 アリサとユーノが喧嘩をする。
 なのはの為だと喧嘩をする。
 なのははすぐに止めたかった。でも、止められなかった。

 自分のことを思ってくれる人がいて嬉しかったのかもしれない。


「ユーノ君、アリサちゃん、すずかちゃん、みんなありがとう」


 だから、お茶会の途中でジュエルシードが暴走しても、もうその心に迷いはなかった。
 初めて、清々しくジュエルシードと、魔法と向きあうことが出来た。


「あ、それと大気君もだった。こんな事言ったら、また大気君落ち込んじゃうよね」


 ごめんね、大気君と心で呟き、誰よりも人の目線を気にする少年に謝罪した。
 
 このジュエルシードを封印したら、みんなとちゃんと話し合う。
 私にはみんながいる。
 もう独りじゃない!

 だから、だろうか。
 なのははジュエルシード争奪戦の新たな乱入者に出会った。
 たぶんいつもの自分ならここでまた迷いが生じて、いじけていただろうという事が手に取るように分かる。
 しかし、今のなのははそんなことはなく、い意思を隠すことなく、思わぬ乱入者と対峙した。
 敵対ではない。
 まだ、敵と決まったわけじゃない。

 綺麗な目をした女の子。
 儚い雰囲気で、余裕で魔法を扱っているのにどこか必死になっているその姿。
 
 なのははその少女に言葉と魔法をぶつけたが、何も答えてくれはなかった。
 そして、戦いに負けてしまったのだった。
 でも、不思議と失望も絶望もなかった。
 少女が最後に言った「ごめんね」の言葉が、なのはに希望を持たせた。


「あの子には負けない、負けたくない! ……レイジングハート。私に魔法を教えてっ!」


 なのはの問いにキラリと光り『Alright』と答える赤い宝石に勇気をもらう。
 少女との再会を願う。が、その前に、


「怪我を治して、温泉行ってからでいいよね?」


 高町なのははまだ幼い小学三年生。
 まずは目先にある楽しいことを満喫したいお年頃だった。
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