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小説挑戦

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第十八話(不朽のモウカ) 

【投稿版】不朽のモウカ

「ふれいむへいず?」

 助けた女の子が聞きなれないだからなのか言葉を反芻させた。
 普通なら無理もないことだ。俺もウェパルに出会っていなければ絶対に無縁だった存在だろう。
 無縁でありたかった存在でもあるし。
 しかし、彼女はさも自分はそんな言葉は知らんと言う感じだが、肝心の彼女もフレイムヘイズになってしまっている。もしかして現状を全く把握出来ていないのだろうか。

「済まぬ。この子はまだ契約を終えたばかりなのだ」

 ひどくしがれた聞きづらい声が聞こえた。
 声が聞こえた先は彼女の耳にある骨董品のような耳飾りからだった。ということはつまり、この声の主が彼女が契約した``紅世の王``ということになるのだろう。
 ウェルが「うーん」と言いながら心当たりを探っていると、急に声をあげた。
 
「あ、分かった。このしわがれた感の激しい声は、いけ好かないあの老人よね。モウカ、こいつは``盾篭``フルカスよ。間違いない」
「へえ、どんな``紅世の王``なんだ? あと、ウェルはいけ好かない奴があまりに多いのでいけ好かない発言は参考にならない」
「ふんむ、我が印象などお主が決めることだ。それよりも先に」
「悠長にしゃべってる場合じゃない、か。呑気に自己紹介してる場合でもないしね。いくら『嵐の夜』で他の奴らがここに近づけなくても、教授なら難なく出来そうだし」

 ここにはかの大嫌いな教授がいて、俺の命は今この瞬間にもすり減ろうとしているのに。現実にはすでに精神はガリガリに削り取られてしまっているけど。
 嵐を引き連れて、教授の気配を辿り、ようやく行き着いたらこんな鉄臭い機械だらけの部屋の中。見知った顔がいたので、強力な風圧の不意打ちで彼女を襲うとしていた輩は吹き飛ばすことが出来たが、フレイムヘイズとなったものはあの程度じゃ死にはしないだろう。
 俺の攻撃は所詮、相手に怯ませる程度の物でダメージを与えることなんて出来るはずもないのだから。
 助けた女の子、俺の記憶が正しければこの子がおっちゃんの話していたリーズという子のはずだ。まあ、おっちゃんはもうこの子のことを覚えていないはずだが。

「ウェル」
「うん、モウカ。やっぱりここが出口みたいだね」

 教授の忌み嫌われる理由はかなりの数があるが、その一つが逃げ足の速さである。彼がこれほどまでにフレイムヘイズやはては``紅世の徒``にでさえ嫌われているにも関わらず生きてこられたのは単に力だ強いというだけではない。
 強いというだけの者はいつか滅びが来てしまう物であり。それは史実が物を言っている。
 つまり、どんな状況下でも自分だけは生き残れる、逃げ切れるというのが彼の本当の強みであるのではないかと俺は睨んでいる。そういった意味では方向性では実に嫌だが俺と全く一緒。
 教授の『逃げる時』の心理を探った結果、俺ならこうすると思ってある程度の目星をつけていた。勿論、それはあくまで俺の推測であり実際にはどうなのか分からないため、教授ととりあえずで危険を承知で出向かう必要があった。
 虎穴に入らずんばというやつだ。
 そして、今回に限っては見事に成功した。
 俺が考えた教授の逃げ道であり得る可能性はいくつかあった。
 一つは、そもそもこの場にいない。
 逃げるも何もこの場にいなければ危険に身を晒す必要がない。その場合、この自在法の自在式が未知数でどうやって保持しているのか分からないが、相手が教授だからということで低い可能性ではあるものの考慮に入れた。実はこの可能性が一番どうしようもない場合だったが結果はそんなことはなかったので安心した。
 二つ、移転系の自在法による脱出。
 俺をこの場所へと強制転移させたのと同じ理屈だ。
 自由自在に瞬間移動できる自在法など存在しているとは思えないので(自在法はそこまで便利なものじゃないし、出来てしまえばすでに噂になっているはずだ)、特定地から特定地に移動出来る類の物。この場合は教授に移転系の自在法を使わせ、抜け出せない森の自在法の制御をやめさせるのが目的となる。手段は撃退とほぼ変わらないので、俺にとってはハイリスクとなる。
 そして三つ目、

「出口のない迷宮なんて無い。つまり、教授自身が出口である可能性。教授のいる場所が逃げ道の可能性」
「さすが、モウカだね! 逃げる事に関してはあの教授さえも右に出れないんじゃない?」
「それは褒めてないよな!」
「うむ、仲がいいな、お主ら」
「まあね。二百年以上一緒だし」
「に、二百年……!?」

 新人さんは驚きの声を上げた。
 驚くのも無理は無いと思うけどね。外見は自分と変わらないのにとか思っていそうだ。でも、ほんとうのところは二百歳も年上なんだよ。フレイムヘイズに年齢は関係ないけどさ。
 そんなことは置いといてだ、つまりここが出口である可能性を俺は疑っていた。それ以上にそうであって欲しいと思っていた。それならば戦闘にならずに逃げれる可能性だってあるのだ。
 わざわざ教授を倒して、なんていう死地に足を踏み入れる必要なんて無いのだから。
 そして、それはほぼ理想の形で現実となった。
 俺が入ってきたのとは違うドアがこの部屋にはあった。
 それがおそらく、出口なのであろう。
 だけど、

「複数個あるとか、なんなんだよ。鬼畜というか意味不明というか」
「うん、さすが教授だよね」

 色や形、大きさの全く違うドアが、壁に地面に天井にとたくさん形振り構わず存在している。これはダミーとでも言うべきなのか、間違い探しだと言いたいのか、それとも全てが本物だというのか、それが分かるのは教授のみというのか。
 猪口才な仕掛けというか……ああ、違うな。これはちゃちとかそんな表現の仕方じゃない。うざい。とてもうざい仕掛けだぞ。
 そんなことを思っているとそれに輪をかけるように、

「んんんんんー? 今、強制的に作ったフレイムヘイズの他に妙ぉーな虫が一匹巻き込まれてますねー? むむむー? おかしいですねぇ。あなたは『我学の結晶エクセレント12934─不変の森』からは出られないはずなのに、なぁーぜここにいるのですかねぇ」
「ききき教授! さっきから観測を邪魔しているこの風と雨もこのフレイムヘイズがひはひ!(いたい!」
「そぉーんなのは、とっっっくに分かっていますよー?」

 苛つ声が聞こえてきた。
 もう二度とこの声は聞きたくないな。今日限りで金輪際一生付き合いたくないな。
 教授がこうやって動き出したということは俺たちに時間はあまり残されていないということだ。下手すれば、このまま戦闘になるということも十分に考えられる。多少の時間稼ぎ程度の戦闘なら生き残ることは出来るだろうが、辛い戦いになるのは眼に見えている。
 早く逃げる算段を思いつかなければならない。
 逃げ道は複数あるドアのどれか出ることは間違いないだろう。
 ただ、一つ一つチェックするような猶予はないし、させてくれるとも思えないしな。
 この中のどれが本物か……いや、ここは教授の心理を紐解いて、逃げる際に同した方がいいかを考えるべきか。うぐぐ……いや、待てよ。

「これがフレイムヘイズの力、か」
「この世の不思議たる異能の力だよ。存分に扱ってくれよ」
「にしても、この雨風は何とかならないか? 視界が悪くてね」
「これこそが異能の力の自在法さ。誰が発現させたか分からないけど、撹乱と奇襲には向いてるね」

 俺が停滞し行動を起こしかねていたとき、二つの声が上がった。
 声の方向を見ると、そこには一人のフレイムヘイズがいる。というか、この空間には何人もフレイムヘイズがいるのだが、まともに意識を保っているのが僅かしかいないため、協力は無理だと諦めていた。
 しかし、これならば、

(協力を求めず、上手く教授のもとに導かせれば囮になるよな)
(こういう時のモウカって一切躊躇いないよね。『大戦』の時といい、今回といい)

 生きるためには手段を選んではいられないということさ。どこかで見た事あるような人物だが、背に腹は代えられないという奴だ。
 『嵐の夜』の細かい制御はもはやお手の物で、彼らの前に風邪も雨もない一本道を創り上げて見せる。その道は教授へと繋がるデッドロードだ。同業者を犠牲にするのは心が痛い、ああ、すごく痛いが俺が生き残るためには仕方ないだろう。
 運がよければ彼らだって生き残れるさ。
 得てしてフレイムヘイズは生まれた瞬間から持つものと持たないものに別れる。それは人間の才能なんかと変わらず、最初から強い奴は存在する。俺は残念ながら最初も現在も弱いままだけどね。フレイムヘイズだから才能がないというよりは器が小さかったのかな。ウェルが言うには大きい方なんじゃないとか慰めてくれるんだけど。ぶっきらぼうで適当な言い方だから信用はできない。
 しかし、彼らは才能ゼロの俺とは違って、どことなく強者の風格がある。
 こういったものに特に敏感な俺が言うのだから間違いない。上手くいけば、彼らだけでも教授を撃破することが出来るだろう。
 デビュー戦が教授というのには同情をせざるを得ないけど。応援してるよ。その方が逃げる時間を稼いでもらえるし。
 そうこうしていると、戦闘が始まったようだ。
 ようやく巡り巡ってきたチャンスだ。逃すわけにはいかない。

「よし、逃げるとしよう」
「でも、まだどのドアが逃げ道か分かってないよ?」
「それがもう目星はついたんだな、これが」
「うむ、それは本当か」

 フルカスが驚愕の声を上げた。
 当然のことだろう。
 俺がまさか味方を犠牲にしている間も、全くそちらへ意識を逸らさず逃げることだけを考えているなどとウェル以外には分かりっこないのだから。
 
「本当だよ」

 俺がもしこのような状況で逃げ道を確保する場合どうするか。
 まず間違い無く一つの手段ではなくあらゆる手段の逃げ道を用意しておくだろう。一つ潰れても二つ目で逃げれるように。二つ潰れても三つ目で確実に逃げ切れるように。複数個の逃げ場所を用意しておくだろう。
 教授が同じような発想をするとは一概には言えないが、考え方としては十分に妥当だろう。だとすれば、この大量のドアは実は、

「全てが出口だったりする」

 一番近くにあった地面に喰い込むように設置されているドアを開けた。





◆  ◆  ◆





「まさか、俺が他のフレイムヘイズにフレイムヘイズとしての心得を諭す日が来るとは」
「感慨深いものだね。一人一党のフレイムヘイズの中で異質であると断言できるモウカがね」

 フレイムヘイズはとてつもない個性的な方々ばかりだ、と言ってるわけではないのだが、確たるものを皆持って、使命やら復讐やらの戦いに身を晒している。特に復讐なんてものは完全に私事である。そればかりか、これは自分の問題だと言い、他人が関わることをよしとしない奴も多い。だから一人で一党になってしまう。
 そんな彼らだけど、俺はその中でもやっぱり違うというか。本当の意味で一人一党だよね。
 ある種彼らは復讐者、使命を背負う者という概念では一緒くたにすることが可能ではあるが、俺はそのどちらとも外れてしまっている。
 契約した理由はと問われれば、もっとたくさん生きたいからと答え。
 なんで戦うのかと問われれば、別に戦いたくないし、戦っても逃げるだけと事実を告げる。
 本来のフレイムヘイズとしてはダメダメというよりは、お前は本当にフレイムヘイズなのかと問われるレベルの外れっぷりだ。
 そんな俺が新人のフレイムヘイズ語って聞かせる時が来るなど、誰が予測できただろうか。
 どこからかお前が語るなという言葉も飛んできそうだ。

「それでも説明を求められれば答えるまでだけどね。でも、その前に自己紹介しょうか。俺の名前はモウカね。初めましてではないと思うけど。それで『不朽の逃げ手』としての相方は」
「よろしく。``晴嵐の根``ウェパル、ウェルって読んで貰って構わないから」
「私はリーズ・コロナーロって言いま──」
「あ、いい忘れたけど、もう丁寧に話す必要ないよ。どうせ、それは素じゃないんでしょ?」

 ウェルの少し刺のある言い方だった。
 彼女からすれば意外と珍しい反応だったが、その理由はどうやら『私を利用しようとするなんていい度胸じゃない』という子供っぽいというか、すごくウェルらしい理由だと納得する。
 俺はどっちでも構わないんだけどな。どうせ、これから一緒に旅をするわけでもないし。
 フレイムヘイズが徒党を組むなんてのは滅多にない話だ。それこそかつてのようにフレイムヘイズが皆集まって、何かをしなければならないような事態に陥らない限りは。そんな事態はもう二度とごめんだが。
 例外として、フレイムヘイズも組織のようなものを作りシステマチックになれば別の話だが、なんてったってフレイムヘイズだしな。そんなことは夢物語に過ぎないだろう。

「別に……好き好んで利用したり、媚を売ってたわけじゃない」
「利用されること自体は別にいいんだけどね。死ぬわけじゃなければ。ま、そんなことはどうでもいいじゃないか。自己紹介頼むよ」
「あっさりしてるわね。でも、その方が私としてもやりやすいわ。何故かご存知のようだけど、私はリーズ・コロナーロ。よく分からないんだけど『堅槍の放ち手』って言うらしいわよ」
「すでに知られていようだが我は``盾篭``フルカス。この子に力を与えし者」
「リーズにフルカスね。まあ今日の説明だけで、お別れだと思うがよろしく。じゃあ早速だけど、何から話したらいいものかな」

 新人には教えるべきものが多い。
 成り立てのフレイムヘイズは、フレイムヘイズの何たるかをその契約者たる``紅世の王``に教わる。俺も珍しく例外に漏れずそうだったが(色々欠けていた部分は多かったにせよ)、フルカスから、

『お主らの名は遠き``紅世``にも響いておる。是非にお主らからその多き経験則を含め、ご教授を願いたい。『大戦』の立役者よ』

 と、是非教えてくれと言われたので、俺としてもなんとなく後輩を持つというのは悪い気分じゃなかったので引き受けた。我ながら慣れないことだなとは思ったけどね。
 ……て、え、待てよ。
 なんだよ、その大戦の立役者って!?
 初耳だぞ。
 俺はどうやらフルカスとは少し詳しい話をしなくちゃいけないらしい。
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