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小説挑戦


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不朽のモウカ─第七話─

 結局のところ、大戦などと大事に巻き込まれてもモウカのやる事は変わらなかった。

 マティルダに借りを返さなければいけないのだが、彼はそんなことお構い無しに逃げた。そして、隠れた。隠れても存在の力のせいですぐに見つけ出され、攻撃されては必死に避け小規模の自在法を使用し逃げ延びる。

 一騎打ちなら彼はそうやって逃げ延び、複数相手のときは『嵐の夜』を発動させた。

 なるべく自信のあらゆるエネルギーは使わず、効率よく逃げようとした。時には味方をまるで盾にするかのように動いたが、復讐に燃えるフレイムヘイズは盾にされた事など気付かず、突っ込んでいく。

 モウカはその後、機を見計らい、盾にされたフレイムヘイズが危なくなったら助ける。恩を着せ、次は自分を助けさせるという行動を繰り返した。

 余裕がある限りそれを繰り返し、なるべく恩を作り、自分の身を護る盾を増やそうとしたのだ。

 もし、この戦いを客観的に全てを把握するものがいれば、外道と呼ばれ、罵られるようなやり方だった。


(こうでもしないと生きられないしなぁ。別に外道でも言いし)

(生きるのに意地汚くかな。私の仲のモウカのイメージが壊れそう)


 しかし、このやり方も所詮は余裕があればこそ出来るものだった。

 戦いが混戦になったり、大物と当たるようになると盾とか外道とかモウカは考える事など出来ず。慌てて、無理矢理に自在法を発生させ逃げに徹した。

 それでも幾度かはヤられそうになる。


(ああもう! なんでこんな目にあわなくちゃいけないんだよ! 普通に生きたいだけなのに! 少しハラハラした生活が後れればいいだけなのに!)

(今出来てるよ?)

(こんな危機感はいらないの!)


 攻撃を右によければ、右から新たな敵が出てくる。慌てて軌道修正し上に逃げれば、大群が。再び攻撃が飛んできて避けたと思いきや、謎の変化を遂げ追撃してくる。怪我を覚悟で、致命傷だけを避けるようにかわす。

 これが、これ以上のことが幾度と無く、止まることなくモウカに降りかかる。

 モウカにとって災厄であり最悪な状況だった。

 早くも後悔が彼の心の中で渦巻く。借りだとか恩義だとか、誠実な事などそもそも自分には合わなかった。これをいい教訓にして、今後はそういうのを控えよう。モウカにそこまで考えさせるほどに追い詰められていた。

 だが、全ては後の祭りであり、何にせよこの状況を打破しない限りは生き残らない限りはその教訓も活きる事は無い。

 モウカはそのことは十二分に理解している、生きているからこそ出来る事があり、やりたいことができる。何度も死んだ男の言葉は以外にも重く、真実味があった。

 ウェパルはその良き理解者──と言えるわけでは無いが、ただそんなモウカを面白く見、共に多少の時をモウカと生きようと考えている。ウェパルにとってはその共にの期間すらも短い時間かもしれないが、出来るだけ多いほうが面白いなと思える程度には、モウカの事を想っている。

 なんだかんだで良いパートナーであった。

 モウカはそんなウェパルの心情を知ってか知らずか、生き延びる為に逃げ惑う。必死に生にしがみつこうとして、死から逃げる。

 多少の傷を負いながらも命だけは失わないよう逃げる。

 片腕ぐらいなら失ってもいいから命だけはと逃げ狂う。

 何が何でもまだ生きるんだと悪足掻きをするかのように逃げ走る。

 逃げる、逃げる。どうやってでも、なんとしてでも、絶対に確実に逃げる。

──死という絶対の恐怖から。

 モウカの頭にはまともに戦うという考えは存在せず、ただ逃げることだけを考え続けていた。

 逃げに徹してるモウカでさえ戦乱の嵐に巻き込まれている現状、戦いは困難を極めていた。乱戦となってしまえば、有利なのは量で勝る``紅世の徒``である。フレイムヘイズ陣は苦戦を強いられていた。

 しかし、その状況でも華々しい活躍を魅せているのが、``炎髪灼眼の討ち手``マティルダと``万条の仕手``ヴェルヘルミナだった。

 先陣を切り己が騎士を率いて戦場を荒らすように戦っているマティルダ。そのすぐ横で後ろで前で縦横無尽に舞う様に戦うヴェルヘルミナの両者はまさに欧州最強のフレイムヘイズの名に勝る活躍ぶりだ。

 もちろん、それに負けず劣らずの周りの名のあるフレイムヘイズたちも共に戦場を駆ける。最前線だけを見れば、フレイムヘイズが圧倒しているといっても過言では無い。

 だが、その勢いも所詮は初手までだった。その後は少しずつ押し込まれていってしまう。その結果少数であるフレイムヘイズが大群に飲まれていってしまう。つまりは絶対的不利な乱戦へと持ち込まれてしまう。

 強いフレイムヘイズはそんなのお構い無しに力を振るい、敵に猛威を振るうが、弱いフレイムヘイズたちはたまったものじゃない。次々と無残にもヤられていく。

 これはモウカにとっても例外じゃなかった。単体の力では、敵に勝つ手段を持っていない上に、戦うという志を持たずもてるような力もなく、いつも逃げ腰のモウカには押し込まれた状況では成す術がなかった。

 だからこそいつも通りに、自分が生き残る為に、自身の最高の自在法である『嵐の夜』を用いて、撤退を試みる。乱戦のため自身のみの自在法の範囲にしても意味はあまり無いため、なるべく戦場を覆うようにして発動させる。

 いわばモウカにとっての最終手段である。


(こ、これで俺だけはなんとか逃げれるかな?)

(あくまで自分の為、という辺りモウカらしいね)


 モウカの思惑とは違い、この発動により弱きものは自在法に乗じて一時撤退。強きものは自在法範囲外へ一旦出て、奇襲をかけようとする。

 これによりフレイムヘイズ兵団は完全に崩れることなく、再び三度と戦う事ができた。

 しかし、それでも徐々にフレイムヘイズ兵団の兵の数は減っていく一方であり、アシズを討滅することはおろか、戦線をひっくり返す事すらも出来ないままでいた。

 このままでは『都喰らい』をさせてしまうのも時間の問題だった。





「状況は変わらず芳しくありませんね」

「元より厳しい戦。焦りは禁物でありますぞ」


 フレイムヘイズ兵団の本陣では、戦況をずっと見つめるゾフィーの姿があった。見るだけではなく、ドゥニやアレックスの戦況報告を聞きながら、目と耳で戦況を解析していた。


「前線で変わらず``炎髪灼眼の討ち手``が暴れています。そのおかげで戦線は崩壊せずに保たれています」

「ここから見てもあの``不朽の逃げ手``の自在法も確認できるし、案外大丈夫なんじゃないか?」

「彼の自在法をすでに何回見ました?」

「少なくとも三回は大規模で」

「ふむ、まずいですぞ」


 ゾフィーと契約する``紅世の王``タケミカヅチは懸念を抱く。


「ええ、そうでしょうね。そろそろ見破られても可笑しくない」


 ゾフィーが彼を前線へと送ったのにはいくつか理由がある。一つは、将来的に有望であると思われる彼に、多少死の可能性があっても経験を積ますこと。戦いが長期に渡るのを予想しているゾフィーは、この戦いを通してただ消耗するのではなく次世代の力もつけようとしていた。


(もし、潰れてしまっても。確かにもったいないかもしれないけども、所詮それまでだったってことよね。もちろん、この期待に答えてくれないことこまるんですけどね)


 そしてもう一つの理由が、今モウカがしている様に、『嵐の夜』による戦線回復の為の一時的撤退。ゾフィーはその働きに期待して、彼を前線に送ったがその方針がまさにものの見事に的中した結果となる。

 もちろん、ゾフィーはまだモウカが極度の逃げ性である事を知らない為、自分の思惑を知った上で理解した上でのこの行動だと思っている。それ故に、モウカへの評価は右肩上がりである。


「ちょっと仕事しすぎね。彼を一旦戻したほうがいいかしら?」

「ふむ。今後も必要になる力ですからな。今使い潰してはそれこそ勿体無いですぞ」

「都合よく新しい自在法でも作ってくれればいいのに」

「ははは、彼も大変ですね」

「``肝っ玉母さん(ムッタークラージェ)``に目をつけられた時点で、結末は決まってたな。かわいそーにな」


 ドゥニとアレックスが、今は最前線で顔を引きつりながら頑張っているであろう彼を思い出しながら同情する。二人は彼と直接しゃべったことは無いが、彼が気絶しているときに顔だけは見ている。まだ名も知れていないような──つまりは、まだ長く生きていない若くて新人で素人のフレイムヘイズの姿。フレイムヘイズの見た目は生きた年の参考にはならないが、彼は見た目も若かった。

 ほんの少しだけ、本陣が和やかになった。

 ずっと張り詰めた緊張感というのも戦場では大切、または戦場ならではというべきではあるが、ずっとそのままでは身体が心が疲れてしまう。何時如何なる時でも、時には気持ちを軽くする時間は大切だ。

 和やかになってもすぐに緊張感を取り戻す。

 この切り替えもまた戦場では必要とされるものだった。


「では、さっそくモウカさんにはこちらに戻って頂きましょう。多少前線は厳しくなりますが……その分カールに働いてもらいましょう。先程から戦いたくてうずうずしてるみたいですしね」

「はい、ではそのように遠話の使える自在師に」

「俺もその切り替えの間は前線に出るな」

「よろしく頼みますぞ」


 ドゥニとアレックスが本陣より出て行く。

 戦況は確実に動く。これがフレイムヘイズ側にとって有利になるか、不利になるかは今はまだ知らぬところ。ただ、このままの状態であればフレイムヘイズ兵団の敗走は確実に起こりえること。

 ゾフィーはこの有利となるタイミングを見測らなければならない。今のところはゾフィーの采配と、前線のフレイムヘイズ(主にマティルダやヴェルヘルミナ)の活躍により不利な戦況を一時的にとはいえほぼ五分までにもち直したりもした。

 この武功は非常に高いもの。彼女以外が大将をやっていたらすでにフレイムヘイズの負けは決まっていたかもしれないほどに。しかし、かといって未だに戦いは終わってはいない。


「本当の戦いはこれからね。はあ、早くいつも通りの生活に戻りたいわ。戦い戦いって別に私はそこまで望んでいないもの」

「ゾフィー・サバリッシュ君が望もうが望むまいがこれが現実、確り気を持つのですぞ」

「分かってますよ」


 ゾフィーにはどうもこの戦いに嫌な物を感じていた。もし、今のまま均衡を保てばあるいは敵は引いてくれるのでは無いか、と世迷いごとを考えたいほどの不安だった。

 その不安はこの戦いが最悪の結果と成りかねないのではないか、という気持ちである。指揮官なら誰でも思うことではあるが、ゾフィーはどうもこのイメージを払拭できないでいる。何か、心に引っかかるものがあるとでも言うのだろうか。

 これは彼女の長年の経験から来るものなのか、それとも誰もが感じる正常な気持ちなのか。

 ゾフィーは遠くを見つめながら一言呟く。


「長い戦いになります。でも、絶対に負けるわけにはいかない」











 長い均衡状態が両陣営に訪れた。その均衡は優に十もの時が経つ。

 フレイムヘイズ兵団はすでに疲労困憊状態であり、かなりの数の討ち手らが死んでいってしまっていた。同じく、``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``も結構な数の兵を失ったが、大群と言えるほどの数は保ってあり、時間が経つにつれやはりフレイムヘイズたちは追い込まれていった。

 モウカは何とかこの十年を生き延びる事に成功した。それもやっとの思いでだ。

 失ったものは大きい。彼の盾となり死んだものが数多くいた。見た目の上ではモウカが盾にしたとは誰もわからないが、本人だけは分かっている。自分のせいで死んだという事を。

 最初の頃は葛藤はあった。いいのかと。これで本当にいいのかと。相手の命を犠牲にして自分だけが助かり、今も抜け抜けと生きていて。

 だが、繰り返すうちに割り切る事にした。

 それは味方の些細な彼への言葉が、彼をその事から割り切らせる結果へともたらした。


「お前のおかげで助かったよ」


 モウカにとっては予想外の言葉。自分を助ける為に使った自在法で自分以外のフレイムヘイズも助かり、彼に救われたというものがいた事実。いや、これ自体は予想の範囲内であり、この恩義を利用しようとさえしていたのだ。

 だが、それを改めて言葉によって伝えられた教えられたという事実がモウカの大きな支えとなった。利用したという罪悪感、犠牲にしてしまったという罪深さから多少なりとも彼を救ったことになった。

 そして、十年の時。初戦の出陣からゾフィーの指令によりあまり表立って活動してなかったとはいえ、その時は彼が戦場に慣れるのに十分な時であった。


「あー、本当に何度死んだかと思ったよ」

「最後の方はほとんど自分で何もしてなかったよね?」

「助けてもらっちゃったね。でも、それ以前に助けてたから貸し借りなし。序盤の自分に感謝」

「あの時はまだ余裕だったもんね」


 
 気が付けば、回りに助けられ支えられ救われて、モウカは激戦を生き残る事ができていた。その影──戦闘面においてはマティルダたちの活躍が大きい。彼は今更ながら、マティルダと知り合いになった事を自身の幸運であったと理解した。

 借りが増えたということもであるが、モウカはそこには全く触れなかった。


「だけど、まだ戦いは終わっていない」

「そうだね。もうかなり長く戦ってるけど、決着はついてないよ」


 終わりの見えない戦い。否、確実に終わりは近づいている。フレイムヘイズ兵団の負けというあまりにもリアルすぎる結末が近寄ってきている。この線はあまりにも濃厚で、誰もが考え始めている事だった。

 モウカにだって分かっている。今すぐに逃げ出したいと心の中で嘆いている。

 大将たるゾフィーだって理解している。このままでは全滅だってありえる可能性も。

 その従者の役割を担っているドゥニやアレックスだってゾフィーの傍で知っていた。非常に危機的状況であることを。

 ヴェルヘルミナも前線でそれを感じていた。負ける気はしないが、勝てる気配もしない事を。

 マティルダは理解した上で未だ余裕を保っている。。誰よりも絶対的な契約している王との信頼とその力の自信があるからだ。

 カールは自信に満ち溢れていた。自分の力でこの状況を打破できると張り切っている。

 それぞれが各々が感じ考え理解していた。

 そして、ゾフィーが決断を下す。


「次の接触を『オストローデ攻防』の最終決戦と見定め。総戦力をかけて戦います!」


 その言葉を誰もが頷き、背中や顔に身体中に冷たい汗を流した。高まる緊張感。

 そしてその決戦は……














 フレイムヘイズの抵抗むなしく双方に多大な被害を残して『都喰らい』を成功させてしまう。

 だが未だ戦いは終わらず、次なる舞台へと動き始めた。
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