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小説挑戦


リリカルの愛し方

リリカルの愛し方(旧題『ありのままに』)

続編希望が多数あったありのままにのリメイク版です。
なんというか、続きから書こうと思ったのですが、うむむ……当時の未熟な部分を沢山見せられて、正直つらかった。
なら、色々と修正しつつ書きなおそうと思った結果、リメイクという形になりました。

とはいえ、原型をあまり留めない形になっているかと思います。
まあ一部の猫なのはだとか、小出ししようかなとは思いますが、基本的には違うお話と捉えても問題ありません。
この作品を一言言うなら、『可愛らしさを求める!』これに尽きると思ってください。

では、生まれ変わったこの作品のプロローグをどうぞ!




 薄暗いその部屋は到底病院とは思えぬ空間だった。背後には複雑な機器が並び、得体の知れない液体の入った大きいカプセルのような装置がある。生体研究所と言われたほうがまだ納得できる場所だった。
 その空間、その部屋では部屋の雰囲気に似つかわしくない、おぎゃーおぎゃーと元気な産声が響き渡っている。
 へその緒を切ったばかりの生まれたての赤ちゃんと、顔色を少し悪くしながらも笑って赤ちゃんを抱いている白髪の女性、さらには紫の髪をした悪そうな目付きをしている男性が居た。

「あ、あまり無理をするんじゃないぞ」

 身体を起こして赤ちゃんの顔を覗き込もうとする女性に、彼女の夫と思しき男が慌てて心配の声をかけた。顔の悪さから考えつかないような優しい声。

「大丈夫よ。それより見て、ほらこんなに可愛いわ」

 白い布で包まれた赤ちゃんをゆりかごのようにゆったりと左右に揺らしながら、我が子を自慢するように女性は言った。元気に泣いてた赤ちゃんはそれだけで泣き声が尻窄まり、やがてすやすやと眠りに入った。
 可愛らしい天使のような寝顔。男の子だなんて信じられない。

「ああ、そうだね。まさしく君の子だよ」
「わたしとあなたの、でしょ」
「う、ううむ。そうだったかな」

 男は気恥ずかし気に頬を掻きながら、もう一度息子をしげしげと眺める。

「私に似なくてよかったよ」

 しばらくの沈黙が訪れてから、出た発言はネガティブなもの。
 女性は男の言葉に深いため息をついてから、鋭い視線を送る。
 男はその視線の意味をすぐに理解して、慌てて言い訳を言い始めた。

「だってそうじゃないか。私の顔に似てしまったら、極悪人面だぞ? それでも我が子なら可愛いが、親としては複雑だ。私の場合は顔だけじゃなくて実際に極悪人なのだが……」
「もう、そんなことばかり。目なんてあなたそっくりよ?」
「……一番似てほしくなかった部分なのだがな」
「鋭い目付きってカッコイイと思うのに」
「それは君だからじゃないか」
「どういう意味よ?」

 ジト目で男を軽く見つめた。
 男はその視線に狼狽えながら目を逸らすも、長く見つめられると、勘弁したと言わんばかりに喋り始めた。

「他意はないよ。ただ私を相手に選ぶって趣味が、な」
「何よ。悪いって言いたいの? 自分の奥さんの趣味に対して?」

 連続のジト目攻撃。
 男はため息とともに諦めた。

「全く、君には敵わないな」

 男はやれやれと手を肩まで上げて呆れた風を装うが、顔がニヤついていて、満更でもなさそうだった。女性もそれに合わせて微笑みながら、愛しの子の頭を優しく撫でる。
 
「本当は」
「ん、どうした?」
「本当はね。他の子もわたしがお腹を痛めて産んであげたかったのだけど」

 そう言って女性は背後にあるカプセルポッドへと目を向ける。そこにはまだ赤子にも満たない未熟な子供が入っていた。それも一つではなく幾つも。
 見るからに怪しすぎるそれは、やはりこの場所がただの部屋ではないことを証明していた。あらゆる世界の治安を護っている管理局に見つかれば、何らかの法に引っかかりかねない。ラボ──研究所と呼ばれる類のもので違いなかった。

「それはさすがに仕方ないさ」
「分かってるわよ。でも……わたしたちの子供には違いないわ」

 自分たちの血は混じっていなくても。お腹を痛めて産んだ子供ではなくても。
 言葉には確かな強さがあった。

「それでどうするんだい。ここで育てるには少し自由が足りなくなってしまうのだが」
「事が収まるまでは平穏に。予定通りにしましょ。あなたと離れ離れになるのは寂しいし、この子も寂しがると思うけど」

 女性の言葉に、男もそうだなと俯き加減に頷き、私も寂しいよと切なげに音を零した。
 でも、と女性は言うと笑いながら男に向かって言う。

「あなたの子供だから。きっと欲望に忠実よ? 彼が望めば、ここに戻ってくるのも早くなるんじゃない?」

 膨大な知識を備え、誰よりも優れた技術を誇り、誰よりも底なしの欲望を持つ、偉大な科学者の遺伝子を受け継ぐのだ。
 そんな子供が事が終わるまで、ただ流されるままに生きるとは到底思えない。
 女性の考えてることが分かったのか、男はやはり苦笑しながら言った。

「私に似てほしくはないんだがな」


◆  ◆  ◆


 高町なのはの数年前の記憶。
 現在よりもさらに幼かった頃の記憶は殆どがあやふやで、あまりいい思いでもあったようには思えないが、その記憶だけは脳に焼き付いたように忘れられない。
 なのははその頃の記憶だけを頼りに、入学したばかりの市立聖祥大学付属小学校の教室の中をぐるっと見渡す。
 教室には小学校一年生が使うに適したサイズの小さなタイプの机や椅子が三十個ほど綺麗に並んでおり、なのはと同じように入学したばかりの生徒がちょこんと可愛らしく大人しく座っている。室内は皆緊張しているからか、比較的静かだ。
 中には、幼稚園や保育園から知り合いだったり、ご近所さんのよしみで顔見知りだったりするのか、仲良く隣り合って喋っている人も見かける。それとは逆に、本を読んでいたり、なのはのように周りを興味深げに見回しているものもいる。

(うーん、やっぱりいないなぁ)

 なのはの目的の人物は見当たらなかった。
 あの彼は、あまり特徴のない風貌だった。
 髪の色は黒と実に多いありがちな髪色であるし、顔はやや釣り上がった目が特徴的だっただけで、それ以外の目立つ特徴的なものはなかった。それに数年も経ってしまえば容貌は多少なりと変わってしまうものでもある。服装は……皆制服、論外だ。
 顔を見てみれば、一発で分る自信がなのはには合ったが、その自信も今となってはやや傾き加減。無くなりつつあった。
 だが、この教室ではないという可能性は非常に高いものだ。というよりは、同じ教室で一緒の学校生活を送る確率のほうが低いのは、まだ算数も習っていないなのはでも分かる。
 それでも、と気持ちははやる。
 出来ることなら一緒に学びたい気持ちも大きいし、何よりもあの日の感謝の気持を伝えたい。
 孤独だったなのはを救ってくれた感謝を。

(ありがとうって伝えたい。それだけなのに)

 聖祥に入る可能性が高いと言ったのはなのはの父と母だった。
 ここ海鳴市に住んでいるとしたら、聖祥は私立校とはいえ実に教育環境の整った場所。実際に学校に通わせている父兄の評価も非常に高く、信頼の置ける学校だ。多少なりとお金があるのならば、公立ではなくここに通わせているだろうというのが、父と母の見解だった。
 なのはには言っていることの半分もあまり理解できなかったが、ようするに聖祥に入ればお礼ができるの? と聞けば、二人は笑顔で頷いた。
 兄姉と続けて通っていた小学校だけに、入学試験のある私立なのに入学は意外にも容易くすることが出来た事になのはは一安心も、肝心の人が見つけられないんじゃ本末転倒だった。
 期待に胸を抱き目を輝かせるなのはに入学式直前まで父母は、いないかもしれないと言い聞かせていたが全く聞く素振りを見せず、いざその場面になれば落胆はかなりのものだった。
 桜咲き心弾む入学も、一気に暗転。周りの和やかで、新しい環境への期待入り交じる緊張と暖かな空間の中で、なのはは一人落ち込んでいた。
 ここで諦めるほど潔い性格ではないが、期待してた分の反動は大きかった。
 その帰道、仲良く父と母に手を繋いで歩いているのに、心の中は晴れやかではなかった。
 まだ再会できないと決まったわけじゃない。
 クラスが違っているんだとすれば、明日にでも確認すればいい。学年が違うんだとしても、クラスと同様だ。少し──いや、結構年上のクラスを覗くには勇気がいるが、感謝の気持ちを伝えるほうが重要だ。怖い上級生が何だっていうんだ。それに最悪は、姉か兄に着いて来てもらえば……
 年下かもしれない。
 あの時の雰囲気から、自分よりも年齢が低いとは思えないが、無くはない。それなら一年間待てばいい。二年だって、三年だって……六年生になってだって待ち続けてやる。
 そもそも学校が違えば?
 うん、大丈夫。同じ街に住んでるならやりようはいくらだってあるはず。
 幸い、自分の家は地元では雑誌に載せられるほどの有名な喫茶店。家のお手伝いがてらお客さんをチェックしていれば、当たる可能性はある。
 それに、毎日の公園と駅チェックは忘れていない。

(にゃはは! 待っててね、絶対見つけてみせるから!)
 
 打ちひしがれたなのははどこへいったのか。
 逃げたなら絶対に追いかけて捕まえる。
 顔の表情からはそう読み取れるほど、燃えていた。
 地面を向いてしょぼくれてた顔は、正面の道を捉え、前を向いた。
 それが天命だったのかもしれない。
 見上げた先、学校の正門に、一組の親子が居た。
 黒く長い髪を腰ほどまでに流した女性と手を繋いでいるのは、同じく黒色の髪の男の子。その男の子がちらっと名残惜しそうに、学校の校舎を見ると、なのはと目があった。
 やや釣り上がったのが特徴的な目。
 なのははそれだけで、繋いでいた手を離し、走りだした。目があったのは錯覚だったかもしれない、それでもあの目は間違いない、あの時の男の子だ。やっぱり見ただけで自分はすぐに分かった。
 走るといつもすぐに転んでしまうなのはは、この時ばかりは転ばずに黒髪の男の子の前まで走り切った。ハァハァと息を切らしているなのはを男の子は不思議そうに目を細めて見る。彼の母親と思われる女性は、小首を傾げながらも微笑む。

「どうしたの?」

 優しい声。
 見た目通り朗らかな彼の母親と思われる女性の問いかけに、なのはは「あ、あの!」と声を詰まらしながらも、男の子の方を真剣に見て必死に答えた。

「わたしを覚えてますか!?」

 覚えているはず。
 自分は未だに鮮明にあの日のことを覚えているのだから。
 なのはは男の子の回答に、胸をドキドキしながら待つと、男の子は一拍おいてから、何かをひらめいたようにポンと手を叩くと

「ううん、ぜんぜん!」

 なのはは次の日、学校に姿を現さなかった。
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