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小説挑戦


【投稿版】不朽のモウカ

第四話(不朽のモウカ)

 いよいよもって、きな臭かった雰囲気を神聖ローマ帝国で感じていたのだが、やはりと納得するべきか、馬鹿なと驚くべきか、どちらにせよ静かに傍観あるいは逃避なんて出来る状態ではなくなった。
 ブロッケン山。意外にも俺たちの活動地点の近くにそびえる``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``の総本山がそこにはあった。
 オストローデという町がある。こちらは先の山よりもさらに俺たちの活動拠点に近い町。なにより、時々訪れる事すらもある町だった。何故か、その町での``紅世の徒``との遭遇率は高く幾度となく戦う羽目にはなった。
 こちらとしては戦う意思は無く、``紅世の徒``と出会うもしくは気配を察したときには撤退を繰り返していたが、これまた何故か追い掛け回された。敵は無駄にこちらへの敵対心が高かったようだ。それ以上にしつこいのが嫌だった。ただ``紅世の徒``の力も大した無かった為に、逃げるのは容易でありその度に嵐を起こしては逃亡する。
 嵐は街をも巻き込むことがしばしばあり、申し訳ないという気持ちでいっぱい。だけど、俺も生きるためにはしょうがないことだと吹っ切るより他ない。例え、俺が嵐を起こさなくても``紅世の徒``に殺されている可能性もあるのだから……
 こんな俺一人のためだけの我侭な理由は、人にとっては理不尽なことだろうと思う。
 今度、謝る機会があれば、謝りに行くべきかもしれない。
 でも、俺が「実はこの嵐は自分のせいなんです」と言ったところで信じてもらえるかどうかが問題。無理なのは百も承知だが。
 だけど、その機会は一生やって来なかった…… 
 何かがおかしい。何かがずれている。何かがこの町に起こっている。そう気づけたのは、自分の自在法に巻き込んでいる罪悪感から、せめて街の被害状況だけでも責任と知っておくべきかと思い、街に訪れたからだ。
 最初、自分が引き起こす嵐が原因で街を去っていく者が出てしまったのかと思った。実際にそういう人もいた様だ(これは実際に街の人に聞いた)。が、どう考えてもそれだけではない。人の存在がまるで過疎っているような感覚はある。存在の力が希薄とでも言うべきなのだろうか。そんな違和感を感じているのだが明確な答えは出てこない。
 どうするべきなのだろう。俺には出来る事など限られている以前に思いつきもしない。考えられる可能性すらも分からない。疑問はあるのに明確ではなく、あるはずの答えは全くの検討不能。手も足もでないとはこの事だ。

「何かが起きる兆しでは間違いないのだろうけど……」
「それを起こそうとしているのは間違いなく``紅世の王``なのも確かだよ。規模がこの都市とも言える街全体に及ぼすんだから。それ相応の力の持ち主だね」
「となるとやっぱり怪しいのは……」

 ``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``という結論に至るだろう。どんな事件が起きるかは分からないが、容疑者となりえる可能性を秘めている力を持つ``王``が巣くう軍団。
 この町で戦った事のある数ある``徒``はこの軍団所属でもあった。これはただの偶然とは言えないだろう。まして近くにはその軍団の総本山がある。
 たまたま通りかかっただけ、という可能性も否めないが、どうもそれだけだと腑に落ちない。この町で出会った``徒``の全てが軍団所属だったなんてことは偶然とは言えない。そして、それ以上に``王``との接触が無かったことも。
 こうは考えられないだろうか。何かしらをここで成そうとする巨大な``王``がいる。そしてそれを助力する``徒``がいて、その``徒``が駆けつけている時に俺と遭ってしまった。秘密を知られる可能性があった。また、あの軍団はフレイムヘイズを消す事を主としているのでしつこく追いかけ処分しようとしたが逃げられた。
 本来ならもっと上の力を持つ``王``が出てくる場面だが、それをやってしまうとそれこそ怪しまれる。フレイムヘイズに計画をばらさない為にもここに巨大な``王``は自らでは出てこなかった。よって出会うのは``徒``のみ、それも軍団の。

「面白いけど、もしそれが本当なら洒落にならない事を企んでるって事になるよ」
「しかも、少なくとも近場で引き起こされるから俺は巻き込まれると。冗談じゃない話だ」
「仮に``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``が敵だとしたら……うわ、``棺の織手``とか本当に洒落にならないよ」
「``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``については聞いたけど、その``棺の織手``ってのはそんなにやばいのか? というか名前的にフレイムヘイズ側っぽい感じだけど……」
「``王``と人の恋の代表例かな。愛は人をも狂わすって話を聞いたけど、古の``王``も例外じゃなかったってことよ」

 ウェルの言ってる事はあまり要領を得ないが、相当やばいというのはウェルの焦る口ぶりから分かった。何より愛に狂った``王``ってのは確かに厄介かもしれない。
 愛は人を強くする、とはある種の常識みたいなものだ。熱血漫画にありがちだが。
 一に愛を、二に友情を。心の力はそのまま自身の力へと変わり、``紅世の徒``はそれを顕著に表す。心の力は愛であれ欲望であれ、強く想う力。多くはその心の力とは反したように自身の力が弱いものが多いが、中には元の力が強くて目覚めるものもいる。今回がその例のような王らしい。
 やはり厄介な。

「やっぱり逃げちゃう?」
「……それが最善っぽ──」
『よもや我が『壮挙』を邪魔しようとする輩が現れようとは』






◆  ◆  ◆





 噂をすれば影がさす、何て事を身をもって経験したところだが、その言葉自体いつも間が悪いときに使われるような言葉だ。この場合も例外ではなく、間が悪いなんてレベルではなく最悪といえる状況。
 しかし、向こうからすれば飛んで火にいる夏の虫なのだろう。まんまと、と言う所か。
 遠話の自在法だろうか。いきなり現れた姿の見えない、巨大な存在の力の主であろう人物から声が聞こえてきた。
 重い。
 言葉をこんなに重く感じたのは初めてかもしれない。まさに圧倒的な存在とでも言い表すべきなのか。ただ幸いなのが目の前ではなく、どうやらある一定上の距離があること。そうでなければ遠話の自在法は使わない。

(これって……)
(うわっ……なんて言ってられる状況じゃないかな)
(噂をすれば何とやらか)
(なにそれ? そんなことよりどうするの? 力の差は──)
(分かってる!)

 これが``棺の織手``今まで遭った``王``の中では最も強いと思われる``王``。それほどまでに、これほどまでに距離が開いているのに感じさせる。
 一対一では勝てるわけが無い。
 元より戦いにおいて牽制以外の``攻撃``をしたことが無い俺にとっては勝つ手段など無い。どんな``紅世の徒``であっても。だが、そのおかげでこそ今の今まで逃げ切ることが出来た。逃げるための自在法は磨かれてきた。
 ただその一点のみ。それのみに時間を費やしたから。
 だが……

(これは……逃げ切れるのか?)
(相手の首領がわざわざ一人で来る、何て馬鹿なことはないよ。出て来たのはここが何より何らかの計画『壮挙』とやらに重要だからかな。でも、だからこそ)
(今は感じないだけで他にも敵がいる)

 逃げ切れるのか。いや、違う。俺の臨んだ物を手に入れるまでは死ねないんだ。逃げ切るきらないじゃない。別に逃げ切れなくても生きていればいい。となれば、降伏宣言は……駄目か。元よりこの軍団は『フレイムヘイズを倒すべく作られた』と言っても過言じゃないんだった。
 ならやはり、逃げるしかない。逃げきる他に無い。
 その為に編んだ自在式がある。その為に経験した戦いがある。その為の自在法を完成してきた。
 俺だからこそ逃げ切れる可能性がある。普通のフレイムヘイズなら……もっと早く危険を察知して逃げたかもしれないな。
 はは、鍛錬するところを絞りすぎたかもしれない。出会ったら逃げればいいや、ほどよいスリル感も楽しめるし丁度いいや、なんて言ってる場合じゃなかったわけだ。この危機を脱したらもっと他の事も鍛錬しなくちゃいけないかもしれないな。
 戦うという選択肢がない以上逃げるしかない。
 相手の様子を見る。ここからではそこに巨大な力を持つ``王``がいるという事しか確認が出来ない。ただ、そこからこちらに近づかないのは余裕なのか、なんらかの意味があるのか。もしかしたら、この間にも着々と包囲されているのかもしれない。

「猶予は無い、か」
「逃げるなら早めだね。空もなんだか暗くなってきたし」

 暗い? いや、これはどちらかと言うと黒いじゃないか。

「蝿の大群?」
「ううん、違うよ。よく感じてこれは……」

 その蝿の大群に存在の力のような物を感じる。いや、虫自体も存在の力が存在しているのだから感じるのは当たり前だが、本来フレイムヘイズはそこを感じることはできない(仮に出来てしまったらこの世に存在する有象無象をすべて認知する事になる)。
 よってこの感覚は……なんらかの自在法。
 だが所詮は蝿の群れ。どんな自在法かは知らないが、直接的な攻撃の類でないのは確かだろう。これがもし、蝿ではない黒くてガサガサ動くあの黒い魔物なら恐ろしい精神攻撃だったが、蝿だけなら羽音が鬱陶しいだけだ。耳栓をすればいいだけだ。今は無いから相当鬱陶しいが。
 だが、この程度なら逃げ切れるだろう。
 さらに研ぎ澄まし存在の力の流れを読み取る。うん、確かに極小で無数の虫の存在の力だけ──じゃない……

(気付いた?)
(何とか)
(これは多分``燐子``だと思う)
(こ、こんな数の``燐子``て、ありえるのか?)
(何らかの自在法の一つと考えるべきだね)

 逃げ切れる可能性がまた低下したようだ。しかし、逃げ切らなければならない。
 逃走路はどう通るべきか。とりあえず、正面の方にいるであろう巨大な王に出くわさない為にも正面からの逃走は不可能。普通に考えるなら背後への逃走だがあまりにも安直で単純すぎる。
 単純すぎるが故に敵が裏をかこうとしていたのならば逃げられるだろうが、可能性は低い。敵がこちらに話しかけてきた時点で、退路を塞ぐために迂回し先回りされてても不思議では無い。
 ならば……一番意表をつけ、隙を狙える場所がいいだろう。

(上か……)
(あえて難しいところを突破するということかな。悪くないよ。むしろそれがいいかも)

 敵の上空に構える自在法の効果範囲はどれ程のものかは分からない。そのためどれほど遠く逃げればいいかは分からない。それなら、

「全てを巻き込んで逃げるほか無い」
『ふむ……作戦会議は終わったのか?』

 全くもって余裕ぶっている。だが当然だろう。力も上、数も上で、経験も上で負ける要素は無い。だが、俺には巻ける自信がある。
 尻尾を巻いて逃げる自信がある。可能性がある。ああ、しがみつくさ。フレイムヘイズらしくない生にしがみつくさ。

「ウェル!」
「うん、大丈夫!」

 さあ見せてやろう。俺がフレイムヘイズになって以来、ずっと磨きに磨いてきた自在法を。
 俺のこの力は。この自在法は全て……


「理不尽な死から逃げるためなんだからな!」
「自在法『嵐の夜』発動。命一杯の力を振り絞ってこの町の全てを巻き込んで逃げるよ!」

 その時、町に海色の光が満ち、やがて嘗て無いほどの大嵐が訪れた。





◆  ◆  ◆





 その日。歴史上でも前例が無いほどの嵐がオストローデに襲い掛かったのを、フレイムヘイズたちは感知した。同時に、この嵐が自在法であると理解し警戒をした。
 自在法を使った者の色は海の色。今まで見たことのない色から、新たな巨大な``王``がこちらに来た事を悟った。それは、敵か味方か。しかし、ただ見過ごすにはあまりにも大きすぎるその嵐(力)にフレイムヘイズたちは危機感を感じやがてオストローデに一人、また一人と集まっていく。
 されど、彼らがそこで見たものは嵐の後の残骸だけではなかった。
 異様な数のトーチの存在だった。いよいよもって不信感と警戒は高まる。まして、そこはフレイムヘイズに異様な敵対心を持つ``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``の総本山のお膝元と言ってもいい場所であった。
 不審は確信へと変わり、危機は焦燥へと変わる。
 やがて数多くのフレイムヘイズが終結し、``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``はその本章を明らかにする。
 頭領たる``棺の織手``アシズはやがて己が壮挙を語り。




 『大戦』が幕を開ける。

 


  暴挙を止める第一戦、一つの都市を防衛し、世界の崩壊を防ぐための大きな戦いのが始まった。
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