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小説挑戦


【投稿版】不朽のモウカ

第六話(不朽のモウカ)

 最前線では紅蓮の炎が巻き上げ、天に届かんばかりの雄たけびがこの遠く離れた本陣にまで聞こえてくる。敵味方が入り乱れ最前線は、嵐、まさに乱戦の様子だった。
 俺に分かるのはせいぜいその程度のことで、大戦、ましてやこのような大規模の戦いに巻き込まれるのが初めての経験のため全体の見通しがつかない。抗争程度なら、村で生きていた頃経験した事があるが、まるで規模が違った。
 現状はどちらに傾いてるのか。

「まずいわね。もともと数で圧倒されてるから、質でって思ってたのに乱戦にされたら意味がないじゃない」
「敵だって分かった上での乱戦でしょうな」

 まずいらしい。
 実感が沸かないというよりは、理解の範疇に入っていないというのが俺の現状だ。
 この様子じゃ俺は指揮官には向かないな。
 もっともだからといって、最前線で身体を張る事が向いているかといえば、それも違う。俺に最も似合っている事といえば、敵に背を向けて逃げ出すことぐらいなモノだと自負している。ただ、その時の逃げ足の速さは誰にも負ける気がしない、という筋金入りの逃げ腰。

「向こうが主力を出さないのに、こちらが出すという訳にはいかないわね」
「消耗戦と長期戦になりかねないこの戦いでの先出しは、負けを意味しますからな」
「だからと言って出し惜しみしたままでも、負けちゃうしね。違うか、出し惜しみする前に彼女なら突っ込みかねないわ」
「それすらも確りと統制化に入れるのが司令官の務めというものですぞ」
「あーやだやだ、なんでフレイムヘイズは皆一癖も二癖もあるのかしら。使いづらいったらありゃしないじゃない」

 非常に面倒だという事を、隠そうともしないサバリッシュさん。そのさばさばした性格と面倒見の良さそうな性格が『肝っ玉母さん(ムッタークラージェ)』と呼ばれるが所以なのか。こうやって、傍にいて心強いのもまた理由の一つかもしれない。
 にしても、そんなに現状は酷いのか。俺が見る限り、素人から見る分には十分に拮抗していて五分の戦いをしているように見えるが。
 いや、五分というのが駄目なのかもしれない。サバリッシュさんが言うにはこちらもあちらにも奥の手がまだ残されていると言った様子だが、そこが関係しているのかもしれない。

「ということなので、モウカさん」
「え? あ、はい」
「お願いしますね」
「……は?」

 何がどういう訳なのかさっぱり分からない。今までの流れの中に俺が必要とされるような会話があっただろうか。

 戦線──状況酷い。
 乱戦──もっとスマートに。
 奥の手──まだ出したくない。

 つまり、こちらとしては特に問題ない戦力でこの状況を打開したい、ということだろうか。そこで、俺にスポットが当たった? だけど、俺がサバリッシュさんに頼まれたのは撤退時の協力と牽制……。
 察するところ……

「撤退ですか?」
「近くも遠くも無い感じね。撤退ではなく、一時的な後退とでもいうのかしら」
「『嵐の夜』の使い道は意外にも広い。それはその自在法の効果範囲と応用性という事ですぞ」
「……分かりましたよ。一時的な停戦状態でも作ればいいんですね」

 乱戦全体を覆うとしたら、これはかなり広い範囲になりそうだ。それでなくても、空では蝿が舞い、空中で移動中も小さい規模の『嵐の夜』を展開しなくてはいけないというのに。
 『嵐の夜』自体には攻撃性は含まれない。だが、イメージとしてはハリケーンが襲い掛かってくるようなものと考えれば分かりやすいのではないだろうか。ハリケーンだからこそ蝿の群れなど屁でもないが、だからと言ってこの程度の攻撃性では徒に対する攻撃へとはなり得ない。
 人にとっては災害。脅威ではあるが、人とは似て非なる徒には無意味に近いもの。だが、中にはそれでも消え入ってしまうほどの弱い存在なら倒せる可能性もあるかもしれないが。自身の感覚としてはやはり攻撃手段では無い。
 あくまでも撤退、逃げの為の自在法。セーフティに安全にがもっとうだ。
 この自在法。実は集団戦においては、微妙に使える。本来の使い道は自分が逃げるためのものであり、敵味方無関係に能力の対象になってしまうが、撤退するだけなら『遠話』の自在法を使えば済むだけの話である。
 『嵐の夜』の付属効果として、存在の力の位置をそこはかとなく把握できるのも、また微妙に集団戦に使える理由だった。ただ、そこはかとなくである。おぼろげに、大体、おおよそ程度。一騎打ちならそれで十分だが、複数になるとやはり微妙だ。
 辛うじて敵味方の判別が出来る程度。それでも、それを使えば相手を奇襲できるが、噛み付いた相手が思わぬ強敵だったなんて事にもなりかねないので、手を出さずに大人しく撤退が安全だろう。
 撤退の為に相手に一当てという戦法もあるが……今回は後退だから、関係ないと決め付ける。
 もちろん『嵐の夜』自体にも欠点がある。それを見破られれば、こちらは逃げる手段をなくしあっという間にヤられてしまうだろう。だが、この短い回数でそれがばれるとは思わない。その程度の自信はある。
 しかし、これが幾度となく繰り返し、または相手にそういうのを見抜くの力を持つものがいれば、下手したら今回も危ない。
 ……考えれば考えるほど逃げたくなってきた。いつでも死と隣合わせとはまさにこのことなんだろう。

「もうすぐ、最前線だよ。どう気持ちは? やっぱり逃げたい?」

 ウェルが試すようとも挑発するようにも聞こえるふうに俺に尋ねる。
 なんだその質問、あまりにも無意味だ。まさに愚問。そんなの考えるまでも無い。俺の気持ちはいつもいつだって、この先変わるかもしれないが、本質的には決まっている。

「逃げれるもんならね。逃げたいさ。地の果てまで逃げて、適度な緊張感やスリル感を味わいつつ、リアルに飽きない様にね。でも、今回はそうはいかないでしょ?」

 無視すれば俺のこの座右の銘とも言える「逃避行」に、支障をきたすかもしれない。何れは壁となって、もしくは人生の決定だ──死という現実となって、現れるかもしれない。
 それなら、今駆除するべきだろう。俺一人では無理だ。だからこそ大戦を利用して、利用されて、この弊害を乗り越えなければならない。
 そして、それ以上に、

「命を助けてもらった人がこの大戦に参戦している以上、ただ観戦、傍観してるだけでは駄目でしょ。その為にも命を助けてもらったという大恩を少しでも返さなくてはね」

 はぁ……この大恩、この大戦だけでしっかり返しきれるだろうか。
 俺は今、そのことが何よりも気になりながら、大戦の最前線へと行き着く。
 さて、大きな恩も小さい恩返しから。塵も積もれば何とやらだし。
 渋々と、それでも面倒だなと思いながら『嵐の夜』を発動させ、味方に後退の旨を伝える。

『えー、皆さん。一時後退してください!』





◆  ◆  ◆





 この戦いにおける勝利条件は、最高の形で``とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)``の殲滅。ひいては、``棺の織手``の消滅。最低でも『都喰らい』の阻止という形。否、最終的に``棺の織手``をと討滅する事が出来れば、『都喰らい』を打ち破る事ができるので、アシズの消滅こそを最善とする。
 アシズは所謂敵の総大将であり、それの首を取ることは戦いの勝利を意味する。それは、本来であれば双方の総大将に適応されるものであるが、フレイムヘイズにとってはそれは敗北へとなり得ない。一党一派がフレイムヘイズの短所であると同時に長所でもあると言えるのかもしれない。
 逆に敗北条件。これは極めて単純。勝利条件を満たせなかった時が、フレイムヘイズの負けになる。この負けはこの戦いに挑んだほとんどのフレイムヘイズの死、長く見るならそれ以上のフレイムヘイズの死を意味する可能性もある。
 例えアシズ本人が、フレイムヘイズを倒す事なんかの為ではなく、愛しき人の為にと戦い壮挙を達成し勝ったとしても、それが徒の総意であるはずも無く。結果的に徒の士気を上げる事となる。
 そして「なんだ。俺たちでもフレイムヘイズに勝てるんじゃないか?」と、徒に思わせることが問題だった。
 そんな事を思わせてしまったら、最後。今の対立のバランスと均衡があっという間に崩れ去り、今度こそフレイムヘイズと``紅世の徒``の総決戦となるやも知れない。それも、フレイムヘイズの圧倒的不利な立場でだ。
 そこに平穏は存在せず、平和などありもせず、安全な場所は確保できず、安住の地を求める事すらできない。
 人にとってもフレイムヘイズにとっても。そして、そんな世界では何が起きても不思議じゃなくなる。挙句の果てには世界の滅亡と言うバッドエンドを迎える事だってあるかもしれないのだ。

「いや、そもそもこの『都喰らい』自体も、世界の滅亡の危機の可能性があるんだった」
「ん、今更だよ? こうやって普段は徒党を組まないフレイムヘイズが集まってるのは``棺の織手``の『都喰らい』の影響による世界の歪みに危機を感じてのこと何だからね」
「それはもちろん知ってるけど、ちょっと先読みしすぎた」

 そもそも難しい事を考える必要は無かった。この戦いは``棺の織手``を倒すための戦いなのだからその事だけを考えれば良い。単純にして明快。
 戦うといっても俺の役割はどちらかというと非戦闘要員だけども。

「ま、そんなの私にとってはどちらに転んでもいいんだけど」
「聞き捨てならない事を聞いた気がする」
「気のせい気のせい。世界平和って何だっけ? 偽善者による弱者の蹂躙だっけ?」
「あながち否定できないね」

 この戦いがどちらに転がるかは俺にとっては死活問題になりかねないが、世界平和という話については、そこまで重要では無い。自分の命が俺にとっての最優先事項である。
 尤もだからと言って、俺がこの戦いに積極的に参加できるかどうかは全くの別問題。自分で思うに、戦闘要員としては全くと言っていいほど使えない俺の存在は大したフレイムヘイズ側の利益にはならないだろう。そして、特別頭脳明晰の名軍師という訳でもあるはずが無いのは、自覚しているのでそちらの方面での活躍も無に等しい。
 それでもサバリッシュさんなら、使い道があると言って俺を利用するだろうが。
 利用されるのは大歓迎だ。使い走りは断固拒否だが。上手く使いこなしてくれるなら楽な事この上ない。死地に向かわされるのは御免こうむりたいが。
 言うならば俺は一般兵その1というレベル。大将であるサバリッシュさんにあれやれこれやれと言われれば、はいと一つ返事で答え命令に忠実に仕事を果たすのみ。それで、今後の自由が保障されるのであれば、ああ何て簡単な事だろう。
 色々と考えるのも時に必要になることは重々承知。だがそれは時と場合による。ケースバイケースである。戦いなんて戦略、策戦、策謀、謀略などが行き交う複雑なものに関わられるのであれば、それについて考える頭の位置よりは、身体を動かす胴のほうが楽というものだ。
 言われた事しかやらない、言われないとやらない。ああ、なんというゆとりだろうか。ゆとり最高!
 そんな事をブツブツと考えていると、かなりの時間が経過してしまったのだろうか。一時後退してから戦況が変わりつつあった。
 『嵐の夜』によって後退し、一時的に停戦状態へと陥り睨みあいの場と化していたのだが、お互いの陣がどよめき始める。
 サバリッシュさんの命令どおりにした後、元の本陣の場所にまで戻ったのに前線のどよめきがはっきりと音となって聞こえるのだからかなり大きな騒ぎとなっていた。
 やがてどよめきの理由が分かる。
 味方陣営には、紅蓮の騎馬を跨ぎ輝く可憐な姿と白きに舞う姫とでも言うべき姿が見え、敵陣には見えなくとも然りと大きな存在の力を感じる。いや、一人はよく見えるほど大きいのだが……。
 なんとしてもあの大きな存在の方とは戦いたくないものだ。いや、俺は非戦闘要員だから、敵と直接戦うなんて事は無いはず。なら大丈夫。この心配は杞憂に終わるはずだ。

「あのじゃじゃ馬娘、勝手に出て行ったわね」
「そのような者も確りと手中に収めるのも総大将たる務めと申し上げましたぞ?」
「分かってるわよ。嬉しい事に向こうも主力を出してくれたから、これで五分。だったらもう一押しで勝てると思わないかしら?」
「戦いはそんなに甘いものでは無いですぞ。それに後もう一押しとは……はっ、まさか!」
「違うわよ。あら、こんなところで奇遇ね、モウカさん」

 なるほど、この大戦ただでは勝たせてくれないようだ。
 サバリッシュさんは俺に仕事をしろと言ってきている。しかも、命を張ったお仕事である。なんとも自分向けじゃないお仕事だ。荒事は回避して平和を得たいのに。

(はあ、なんかサバリッシュさんは俺を便利屋か何かと勘違いしてないかな? 自分の私兵みたいな……)
(私兵なんじゃない。この展開は私的に面白いからいいけどね)
(他人事じゃないんだからウェルも協力頼むよ)
(分かってるよ。お互い、まだまだ長生きしたいもんねー)

 自身の内にいる相棒と声なき会話をする。ウェルはどこか楽しそうだ。彼女自身は戦闘が好きというよりは変化を好むと言った気質がある。そういった意味では俺とも気が合うのだが、何分彼女の場合はどんな変化でも良いという大雑把なもので、俺は自身の身の安全があればという前提がある。そこの違いを感じさせられた会話だった。
 だが、まあこれも運命というものなのか、何よりもこれで俺は彼女と同じ戦場に立つということだ。命を助けてもらった大恩を返すチャンスであるかもしれない。
 そう考えれば悪くないかもしれない。俺は命を狩られないように逃げ回り、彼女がピンチとなったら助ければ命の恩義の仮を返す事ができるだろう。それこそ、ヒーローも夢では無いかもしれない。ピンチは最大のチャンスとはよく言ったものだ。
 ……あー、やっぱりヒーローは危険極まりないポジションになりかねないので、ヒーローは願い下げだな。
 ということで、そんな訳で、

「マティルダさんと、えーと……ヴィルヘルミナさんお願いしますね」
「ふふ、借りを返すような仕事ぶりを期待してるわ」
「お互い全力を尽くすのであります」

 全く、この二人の豪傑、英傑と戦う事は一体光栄に思えばいいのか、それともこんな状況になってしまった事を悲観すればいいのか。俺には分からないよ。
 それにしても、この二人ってまるで龍虎並び立つという具合いに俺と存在感が違う。二人に挟まれたら俺なんて子猫ちゃんだ。なんで、こんな所にいるんだろうって思うよ。というか、こんな二人を最前線に出してなお勝ちきれない戦いって……
 いかんいかん、俺は今、生きることだけ考えなくては。
 勝つことよりも生き残ることを、ね。
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