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小説挑戦


ボツ作品広場

第二話 (空気のやつ)

陰が薄いからか、忘れられやすいからか、空知大気には凡そ友達といえる人は少なかった。
 それでも決して零ではなく、小さいながらも彼もコミュニティを持っていた。

「にしても、大気の空気度というか影の薄さって異常よね。普通じゃ考えられなくない」
「でも、実際そうなんだし……」
「何弱気になってるの。そんなんだからあんたはいつまでも空気なんて呼ばれるのよ!」
「そんなんって、アリサは俺の何を知ってるのさ」
「何を? 何も知らないわよ! でも、これだけは分かるわよ。あんた昔から気弱で一人称が僕だったくせに、今は俺に変えて目立とうとしていることぐらいはね」
「うっ、なんでそんなことを」
「はあ、いつからこうやって一緒におしゃべりしているか忘れたの?」
「確か、お父さんが偉くなってからだから」
「一年よ、一年。私たちのたった四年という人生の四分の一を占める月日よ」


 大気は週に一度のバニングス邸でのお話会に来ていた。
 会と言っても、アリサと大気だけの──バニングス家と空知家だけのお話会である。ただの交流会という方が正しいかもしれない。
 大気とアリサはアリサの家でただ遊ぶだけである。
 バニングス家……つまり大気の父親の務めるグループの長とも言えるべき人の家との交流。
 いくら大気の父親がグループの中の会社の一つの社長といえども、それは数あるバニングスグループの一つに過ぎず、普通ならこうやってプライベートで一社長一家と一番お偉い人一家とが気軽に話すことなど無い。
 このお茶会はバニングスグループの長であるデビットの意向だった。





 デビットは大変多忙だ。
 本社ではなく日本のいくつもある分社の一社長ですら忙しくて中々家に帰れないのだから、その総取締役とも言えるデビットはさらに忙しかった。
 家に帰るのは多くて週一程度、少ないと月一すら無理な状態だった。
 その多忙な状態なせいで、愛しの可愛すぎる娘に会うことすらままならなかった。
 それはデビットにとっては悲しいことであり、またアリサにとっても辛いことであった。

 デビットは家に帰る度に、アリサに謝罪を言う。


「ごめんよ、アリサ。私が忙しいばかりに寂しい思いをさせて」
「ううん、気にしないでお父様。私は一人でも大丈夫だから」


 アリサはその言葉を聞くたびに、健気に微笑んでみせて、デビットの頭を撫でた。
 デビットにはその娘の姿が天使のようだった。
 天使に心を癒されたデビットはそっと天使の頭を撫で一緒に眠る。
 月にそう何度もない快眠をすることが出来た。

 デビットはアリサが心配で仕方がなかった。
 健気に自分の前では元気な振りをするアリサだったが、執事の鮫島の話からアリサに友達が出来ていないことを知り、アリサが傷ついているのを知っていたからだ。

 なんとかアリサに友だちができないものか。
 出来れば女の子友達がいい。
 男友達は……紳士的なやつなら許してやらないこともないが。

 デビットの辞書に変態紳士という言葉はなかった。普通はない。
 
 デビットはアリサの友達探しを始めた。
 アリサの通う私立聖祥大学付属幼稚園はあまり期待が出来ない。
 そもそもそこで友だちができるならこうやって苦悩することはないのだ。
 
 友達探しは難しい。
 忙しいデビットに公園で一処にアリサと遊び、地域の人と交流を深めるということはできない。
 階級の違いからも子供は近づくが、親がそれを拒もうとするのは眼に見えることだった。
 
 俗に言う会談デビューはダメ。
 次にデビットが目をつけたのが会社の関係者だった。
 まずは親類に目を当てたが、同じくらいの年齢の子どもを持つ者は少なく、居たとしても海鳴市とは離れた所に住んでいるため、候補にはならなかった。
 
 見つからない。全然見つからない。

 デビットは困惑した。
 一体どうすればいいのかと、どうすれば最善を選べるのかと。
 彼はいつだって最善を選んで生きてきた。
 彼のその目はいつだって先を見て、最善を見つけ出し、そうやって富を築いてきたのだ。
 しかし、娘のこととなるとどうも空回りしているようだった。
 いつも出るアイディアが思いつかない。最善が分からない。 

 そんなデビットの努力が、何らかの因果か叶ったのか、唐突に目的のもの出来た。
 思わぬ形で、最善に近い形で。
 それは顔を真赤にしながら照れてるのか怒ってるのか分からないアリサの独り言から知ることとなった。


『なんなのよ、あいつ! 何!? 忍者のつもりなの!?』


 アリサの親じゃなければ分からない様なアリサの態度だったが、デビットはすぐに察することが出来た。

 ああ、なにも私が与えなくてもアリサはもう自分で見つけることができるようになったのか。
 なんだか、嬉しいような、悲しいような、そんな気分だよ。

 『友達は作るものじゃない、勝手になってるものだ』という言葉を真に理解したデビットだった。


「そういえば大気君は遠見第一に通っているようだが、ふむ……あそこに通えるということは来年は十分にうちの行くところにも行けるだろうな」


 デビットに秘策あり。





◆  ◆  ◆





 空知大気は目の前の少女に圧倒されていた。
 常に、いつも、毎回圧倒されていた。

 圧倒されている理由は様々だが、その中の一つに彼女の美貌という物がある。

 日本人は黄色人種と言われ、黒髪黒目が基本的である。
 たまに、ちょっと変わった髪色や変わった瞳の色をしているものもいるが、さすがにアリサほどの異色さは放っていない。
 そう、アリサ・バニングスは完全には日本人ではない。
 もちろん国際色豊な血統をしているという訳でもない。
 紛れもなく彼女は外国人である。

 その白く透き通った肌、金色の長く綺麗な髪、若干五歳にしてすでに整っている顔、そのどれもが日本人離れしていている美しさだった。
 もちろん、外国人ならみんなこうというわけではなく、その外国人の中でもとりわけ彼女は輝いていた。

 大気はそんな彼女の容姿と、彼女の纏うギラギラの雰囲気に押されているのである。
 光ってる雰囲気? そんな甘いモノじゃない、するどいナイフのような、そうジャックナイフのような雰囲気だ。
 アリサを一目見ての大気の感想が「怖い」だったということからも、それは想像できるだろう。
 ただ、その怖いという発言を心の中にしまっとけばいいのに呟いてしまったのはよくなかった。
 その言葉を敏感に察知したアリサが、大気を一睨み、一言、


「なにか言ったかしら? 大気君?」


 アリサ怖い。君付けというのは恐怖でしかない。
 後にアリサの黒歴史となる出来事だった。

 されど大気は恐怖の他にもアリサに思うことがあった。
 それは存在感に対する畏敬の念である。

 アリサの圧倒的な威圧感にはビビったが、むしろちびるぐらいだったが、存在感も同時に感じさせた。
 というか、存在感なくして威圧感だけ感じたらそれは心霊現象だ。
 アリサ・バニングは幽霊ではない。

 大気はアリサに憧れを抱いた。


「……じゃあ、よんぶんのいちって何?」
「えっ、そんなのも知らないの?」
「幼稚園じゃ習わないよ」
「ええとね、四分の一っていうのはね、半分の半分ということよ」
「半分の半分?」
「そう、例えばケーキを四人で分けるとしたらどうやって分ける?」
「ショートケーキを四人で分けるって、随分貧乏なんだね。ひもじぃよ~お姉ちゃん」


 大気が小芝居らしく、泣く真似をしながらアリサに縋りつく。
 アリサの袖をくいくいと引っ張りながら涙目でみる。
 アリサはそんな大気の髪を優しくお姉さんらしく撫でながら、悲しそうに言う。


「ごめんね、お姉ちゃんの出稼ぎじゃこれが限界なのよ……じゃなくて! 丸くてデカイヤツを想像しなさいよっ!」
「アリサのそのノリノリなところ好きだよ」
「えっ」
「切り方、だっけ。まずは縦に半分に切って、次に横に半分にして四つに分ける」
「……そうよ。つまり四分の一っていうのは」
「分かった! ケーキの切り方か!」
「違うわよ! あ、間違ってないけどちょっと違うわ。切り方そのもので、四分の一はその四つに切り分けたケーキの一つのことを指すの」
「あーなるほど、分かったよ。教えてくれてありがとう、アリサ」
「別に大したことじゃないわ。いずれは大気も習うんだから、遅いか早いかだけよ」


 大気とアリサでは受けている教育が違う。
 アリサはゆくゆくはバニングスグループを背負って立つ人物になるのだから英才教育を受けていた。
 自身も引き継ぐ気は満々で、父のその期待に答えようと必死に勉学を幼いなりにも学んでいた。
 その為、ちょくちょく大気との会話では学力の違いからか、大気では理解出来ない事柄や言い表し方があった。
 その都度、大気は理解出来ないということを素直にアリサに告げ、アリサも懇切丁寧に教えていた。
 アリサは幼いから大気の理解できることと理解出来ないことの境が曖昧ながらも、理解出来ないことを侮蔑するでもなく、また自身が知っているということを高慢に自慢することもなく、むしろ分からないなら教えるという面倒見の良さ。まさに姉御肌だった。

 大気はそんなアリサにやはり憧れを抱く。
 自分の知らないことを知っている頭の良さという憧れが。
 さらには自分にも別け隔てもなく教えてくれる優しさという憧れ。

 そして何よりも、


「アリサって色々やたらと目立つよね?」
「それは何? 褒めてるの?」
「ええと……こういう時はなんていうんだっけ?」
「ノーコメント?」
「そうそう、ノーコメント!」
「へぇ~、大気のくせに私に皮肉を言うとはねぇ~」
「えっ? あれ?」
「大気、教育の時間よ!」
「ええと、洗剤だよ!」
「洗剤での拷問がいいってこと?」
「は、ははは、アリサの冗談って面白いねー」


 友達というよりもまるで姉弟のようだった。





◆  ◆  ◆





 アリサ・バニングスは一人公園にやってきていた。
 海鳴市の名所の一つでもある海の見える公園──『海鳴臨海公園』に一人でやってきた。
 理由は言うまでもなく、遊ぶためである。
 
 アリサが年相応の精神年齢でもなく、非常に大人びた少女ではあるが、それでもやはり少女である。公園で遊びたくなることはある。
 
 彼女は普段は広大な家で犬と戯れながら庭で遊んでいる。
 だが、そこにいては友達は出来ないのだ。
 聡い少女は父が今現在、自分のことで思い悩んでいることを察していた。ほとんど理由もなく、なんとなくではあるが感じ取っていた。

 大好きな父様。
 私が父様に迷惑をかけちゃダメ。
 だから、心配されないためにも友達を作らなくっちゃ。

 父様のためと気負いつつ一人で公園へと進む。
 背後に忍び寄る影──執事の鮫島が見守ってることも知らず。

 公園へと向かう途中、道行く人に興味の視線を受けつつ、それらを無視しつつ進む。
 アリサにとって興味の視線、異物を見るかのような視線はもう慣れっこだった。
 
 公園にたどり着く。
 砂場では子どもがトーテンポールを砂で作り、親は大人同士ベンチ寝転がりながら談笑、ちょっと髪の毛の寂しいおじさんは太極拳をしている。
 異様な光景に見えるかもしれないが、海鳴市ではよくあること。
 

「な、なんのよ、これ」


 アリサは公園に着くなり驚いた。
 公園のレベルの高さにあっけに取られたのだ。


「この中に混じれって言うの? ……そこはかとなく嫌だわ」


 どうしようか、もう帰ってしまおうか。というか、帰っていいよね? 
 アリサはいち早くこの公園から出て家に帰ってしまいたかった。
 だが、そこにジレンマが襲う。

 ここで帰ってしまったら父様の悩み事を解決できないと。
 安心して仕事をさせることができないと。

 父様のために。

 もう一度強く思い、そしてもう一回、公園に入って行こうとしたその時だった。


「で、できたー! トーテンポール一号!」
「よし、次は小田原城作ろうぜ!」
「いやいや、ここは名古屋城でしょ!」
「いや、ここは平山城でしょ!」
「「「どこだよ!?」」」


 アリサは頭を抱えた。
 そして一言、


「Ohh...Crazy!!」


 父様、私は屈してしまいました。
 東京都日野市にある、日野市民ですら知らない城の名前が出てくるハイレベルすぎる子とはお友達になれそうにないです。
 せ、せめて片倉城だったなら、まだなんとかなったかもしれないけど。

 アリサはそのハイレベルすぎる子たちからいち早く、逃げたくなった。
 決して学力で負けたからではない。
 城跡しか無いのにどうやって城を作るんだとか色々疑問はあったが何よりも、砂場でそんなハイレベルなものを作ろうとする子供とはうまくやっていける自信がないからだ。
 アリサが出来ることはせいぜい砂場で山を作って「トンネル開通」ぐらいである。
 平凡レベルと言えるだろう。平和な光景だ。

 アリサは思う。
 そもそもトーテンポールが作られた時点で見切るべきだったと。
 ついでにそのトーテンポールの高さは一m以上はあったわね、と回想する。

 アリサはトーテンポールを背にして走り出した。
 逃げたのだ、目の前の現実から。
 
 公園からしばらく息が切れるまで走った。
 

「ハァハァ、も、もう二度とあの公園には、ハァ……ハァい、行かないわ」
「え? なんで?」
「ハァ、ハァなんでって、決まってるでしょ! あんな奴らと一緒に砂遊びなんてでき、な……い?」
「うーん、確かにあの棒みたいのって顔が怖いから嫌だよね」


 え? なんで私の隣に男がいるの?

 アリサはあまりの出来事に、息切れすらも忘れてしまう。
 さっきまでずっと一人で走ってたはずなのに、ちゃんと信号を渡るときは東西南北を確認して渡ったのに、気づいたら隣に少年がいたのだ。
 当然ながら驚く。


「え?」
「うん?」
「なん……ですと?」


 執事も驚いた。
 ずっとアリサの後を静かに見守って、奇異の目線を送る奴らに睨みを効かしていたのに気づいたらアリサの隣を奪われている。


「ははは……やっぱり気づいてなかったんだ」





──これが敏腕執事の目すらも欺く少年とアリサの出会いだった





 ちなみに、大気はアリサに俺という一人称についてさんざん似合わないと言われたので結局戻したというエピソードがあった。
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