FC2ブログ

小説挑戦


ボツ作品広場

第三話 (空気のやつ)

 大気は良くも悪くも純粋に近い子であった。
 それはひとえに両親の宝物のように、否我が家の宝だと言われて、決して甘やかされたわけではないが、大切に大事に育てられてきたからである。つまり両親の努力の賜物であった。
 そういう意味では純粋、というよりは歳相応に無垢な子という方が正しいかもしれない。
 無垢で無邪気なために、周りに影響されやすく、朝の読書の時間が作られたことから、今幼稚園ではちょっとした読書ブームであった。
 大気は自分があまり目立たないという認識を持っており、ならせめて周りに合わせて少しでも話題に付いて行きたいと思っている。

 みんながあれをやってるから自分もやりたい。
 みんながあれを持ってるから自分も欲しい。

 なんてことはない。普通に好奇心旺盛で、周りのあるものを欲しがる普通の子どもである。
 読書ブームということもあり、大気も自分の本を欲しがった。
 父親におねだりしたところ、読書ということであれば教育にも良い為、特に断る理由もなく買ってやるぞとむしろノリノリで答えた。
 しかし、そこに待ったの声がかかる。


「買ってやるってそんな簡単に言わないで。大気、どんな本が欲しいの?」
「ええと、特に決まってない」
「そう、なら一度図書館とか、幼稚園の図書室に行って興味の持った本を読まないとね?」
「なんで? 買えばいいじゃん」


 大気の何も考えなしの買えばいい発言に母親はやれやれといった表情をする。そして、そのまま父親に目線を向ける。
 大気は何のことだか、よく分からないがとりあえずいきなり本を買うというのは良くないということをなんとか理解し、じゃあどうすればいいかと考える。

 本は欲しい。みんな持ってるから。
 でも、ダメなんだよね。じゃあ、どうすればいいのかな?
 読みたい本ってお母さんは言ったけど……う~ん、あんまり思い浮かばない。

 大気は幼い頭をフル回転してどうすればいいか考えるが、いい案は思い浮かばない。
 思い悩み困った顔をしながら、どうすればいいのという意思を込めて父親と母親に向ける。
 

「そうねぇ……どういうのが大気のあってるかしら。図書館に行って探すと言ってもどう言うのがいいか分からなければ難しいし」
「分からん。俺は本は読まんからな。そもそも活字はあまり好かん。そもそも活字といえば新聞だが、あれはだめだな。事実と虚実が入り交じって──」
「はいはい、さて……あ、いいこと思いついた」


 にやりと母親は笑い、言った。


「同年代の子に聞けばいいんじゃない。そう、例えばアリサちゃんとか」


 父親と大気は二人してなるほどと感心する。
 哀しいかな父親とその息子は同レベルのようだった。


「全く誰に似たのかしら」


 母親の独り言は二人の耳には届かない。

 善は急げということで、早速アリサへと大気は電話する。
 大気はまだケータイは持っていなかったが、アリサはすでに持っており、そのケータイ番号も大気は知っていた。
 アリサ曰く「私のケータイ番号知ってるのあんたと父様だけなんだから感謝しなさい」とのこと。
 大気は思わずアリサって友達いないんだねとツッコミそうになったが、これはなにか危険だと第六感が働き、言うことはなかった。


『ふーん、それで大気が読書ね。意外』
「意外って、なんで?」
『いや、てっきり大気って考えるより先に行動が来るタイプだと思ってたわ』
「行動力があるってこと? 褒めないでよ、照れるじゃないか」
『……まあ、それでいいわ。それで私のオススメよね。そう……最近だったらハーバード大学の──』
「ストップ! 大学って、それ難しい本じゃないの?」
『大したことないわよ。結局正義の定義付けはないって結論だから』
「大学って正義について勉強したりするんだ」


 大気は内心驚いた。
 大学という雲の上のような存在に感じる学校なのだが、そんな学校で正義について勉強するという事実。
 きっと、あれは良い事で、これは悪い事ってのを決める学校なのかなと大気は思った。
 ちょっとだけ大学が可愛く見えた。


『あーでも、ページ数が多いから朝読書には向かないわね。それじゃ──』


 その後もよく分からない本のタイトルが次々に挙げられた。
 経済、心理学、法律、帝王学、広辞苑。
 大気は頭がパンクしそうになる中これだけは分かった。
 アリサと自分では超えられない壁が存在しているのだと。
 
 アリサからの情報収集に大気は失敗し、通話を終えた大気に母親はどうだったと聞かれたが、大気はただ首を横に振るのみだった。
 母親はその様子を見て自分の妙案が失敗したことから悔しそうにしながらも、また考える素振りをする。
 大気からすれば彼女以外の友達と言えるような人はあまりいなく。
 あまりいないためアリサにしたような誰かにおすすめを聞くという同じような手段を取ることができない。
 これもすべてあまり友達がいないのが原因のため、あまりいないことを悔やむ。

 せめて普通程度の存在感があったら。

 悲痛な叫びだった。


「そうか、友達がダメならネットとかで聞けばいいんだ!」


 大気はこの程度じゃへこたれない、強い子であった。
 慣れっ子とも言うが。

 すぐに父親が持っているパソコンの許可を父親に求める。
 もちろん快く承諾され、父親も一緒に探すこととなった。


「ええと、『本 オススメ』で検索っと」


 そう打つと約11億件の検索結果が出た。
 多すぎる為、大気は自分の年齢を打ち込み絞り込みを開始する。
 今度は約9千2百9十万もの検索結果が出た。
 

「うーん、検索結果が多いなぁ」
「そうだな。でも、とりあえず一番上ぐらいのは確認したほうがいいだろう。人気サイトってことだし」


 父親がマウスを動かし一番上のサイトのページを開く。
 そこにはいくつかのおすすめの本が掲示されているが、どれも絵本ばかりだった。
 
 先生は確か、絵本ではなく是非とも文字のある本をおすすめするとか言ってたよね。

 先生の言葉を思い返すと、絵本ではどうやらダメなようだった。
 となるとこのサイトではいささか物足りなかった。
 ネットはあまり頼りにならないかもしれないと大気は思ったので父親に意見を求めるように、顔を向けると父親がなにかブツブツしゃべっているのに気づく。


「BL出版……なんかすごく興味有るが、ちょっと見るのが怖いな。でも、タイトルは犬の物語だし普通の出版社なのか。いやいや、しかし……」


 どうやら考え事をしているようだったので、大気は空気を読んで触れずに、パソコンをシャットダウンした。
 
 朝読書は明日から始まるけど、とりあえず明日は家にある本を持っていって、みんなの持ってる本を見てから考えようかなぁ。
 もしかしたら、おすすめ教えてくれるかもしれないし。

 今決定するということはやめ、先延ばしして保留することにした。
 善は急げといったものの急がば回れということもあるのだ。

 翌日、いつも通りに母親に自転車で幼稚園まで送ってもらい、幼稚園へと着く。


「では、皆さん自分で持ってきた本を15分間ちゃんと読んでくださいね。分からないところがあったら先生に聞いてね」


 先生の言葉を合図に読書が始まる。
 みんな持ってきている本は様々であった。
 ハードカバーのこれ幼稚園生が読む本じゃないだろうと思えるようなものを持ってる人から、絵本を持ってきている人。漫画を持ってきて先生に注意されてる人など。
 大気が持ってきたのは家にあった一冊の単行本だった。
 自分ものではなく母親が以前持っていたものである。
 特にこれといって興味が有るわけではなかったが、まあもってこいと言われたから一応の緊急処置だった。

 うーん、あまり、だなぁ。

 なんとなく内容は理解できるが面白いとは思えない。
 15分という時間が長く感じる。
 ページが進まない。

 それでも、周りを見渡してどんな本を読んでいるのか確認しながら読んでいるとようやく15分が経つ。
 初めての朝読書は本をほとんど読まずに終わってしまった。

 はぁ、これからの朝読書の時間がつまんなくなりそうだよ。

 大気はすでに朝読書に苦手意識を持つようになってしまった。
 朝読書が終わり自由時間になると、先程の読書の疲れを癒すために机の前にぐでーっとなる。
 その様子を見ているものが一人だけいた。


「大気君どうしたの? さっきの読書の時間キョロキョロしてたみたいだけど?」


 月村すずかだった。
 

「え? あー、あのね、本を買ってもらおうと思ったんだけど、読みたい本がなくてさ」
「うん、それで?」


 すずかに話を促されながら、大気は昨日の母親との話と事情を説明する。
 話をしながら大気はそういえば、幼稚園ですずかを見るといつも一人で本を読んでいたことを思いだす。
 

「そういえば、月村さんって本好きなの?」
「うん、読書は結構好きかな」
「図書館とか行ったりする?」
「今日も行く予定だよ。それで……あ、そっか。うん、いいよ」
「え?」
「一緒に行こうっていうデートのお誘いだよね?」
「え、いや、ちがっ」
「ふふ、冗談だよ」


 すずかは楽しそうに微笑んだ。
 それにつられて、大気も笑う。
 途中デートとか言うちょっと聞き捨てならない言葉があった気がするが、それはとりあえず記憶の彼方へ飛ばし笑って誤魔化す。

 いや、月村さんとならむしろ本望だけど。
 いやいや、そうじゃなくて!

 それでも内心穏やかではなかった。
 一瞬、まるで心覗いたかのようにすずかが大気を見てにやりと笑い、目が光ったがそれに大気は気付かなかった。

 幼稚園が無事にいつも通りに終わると、今日はバスで家まで送ってもらうのではなく、すずかの送迎の車へと乗った。
 ちなみにこの幼稚園で送迎の車は珍しくないが、自転車での見送りは珍しかったりする。

 すずかの送迎の車はさすがにリムジンではなく、普通の軽自動車であった。
 出迎えたのはファリンという月村家のメイドであった。


「すずかお嬢様がいつもお世話になってます」
「え、いえ、特にこれといって……」

 大気はお世話になっているかどうか過去の記憶をたどったが、何一つすずかをお世話した記憶はなかった。
 むしろいつも助けられているような、今もこうして助けてもらっているような、そんな気しかしない。


「すずかお嬢様がまさかこうやってお友達を誘って図書館に行く日が来るとは、ファリン……感激です!」
「もう、ファリン。大袈裟だよ~」


 自己紹介を含め軽い談笑をしていると車は図書館に着く。


「それではすずかお嬢様。私は一度車を置いてからまた戻ってきますが、その間になにかあったら私をすぐに呼んでくださいね」
「うん」
「送ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、これもお仕事ですから」


 それでは、と言うとファリンは消えるように去っていった。


「それで大気君は本を探してるんだよね?」
「そうなんだけど、何を読めばいいか分からないんだよね」


 困った困ったと肩をすくませながら、スマブラのドンキーコングのアピールポーズを取る。
 その様子にすずかは一度うーんと声に出しながら考える。


「ええとね、もし私のオススメでよかったら紹介するよ?」
「え? ホント!? じゃあ、教えてもらってもいい?」


 人のオススメはアリサの時にすでに失敗したが、すずかならアリサと違うから大丈夫という確信に似た感情を抱く。
 この信頼度の違いはもしかしたら日頃の行いからかもしれない。 
 アリサが悪いとは言わないが。


「うん、それじゃこっちにきて」


 すずかはそう言うとそそくさとわりと早歩きで奥の方へ向かっていく。
 大気は慌てて、すずかについて行こうとしたが、ドンと何かにぶつかった。
 固い何かだった。


「あ、すみません」


 咄嗟に大気は謝り、ぶつかった相手を見ると、なんとぶつかった何かとは車椅子だった。


「いや、大丈夫です。ええと、それより君は大丈夫?」


 どことなくイントネーションがおかしい。
 関西出身の子なのだろうか。

 車椅子の少女は大気がぶつかったにも関わらず、むしろ大気よりも低い姿勢で大気の安否を気遣った。
 大気はやさしい子なんだなとありふれた感想を抱きながら、大丈夫と答える。
 お互いが大丈夫なのを確認して、大気は用事があるのでといい、すずかの後を追った。

 ただ去り際、


「全く気づかへんかった。まるで空気みたいやった。にしてもなんでやろ、私と同じ匂いがするのは……」


 という声は聞かなかったことにした。
 
 すずかの居る本棚を見つけると、すでにすずかが何冊かの本を手にとっていた。
 それはどれもかなり分厚い本で、一目見た限りじゃとても大気には読めるようなものじゃなかった。
 
 大気は内心、すずかもダメだったかと落胆し、自らの人を見る目を疑った。

 すずかはある程度まとめて本をとると、近くの席に持っていった。


「この本が私のオススメだよ」
「う、うん。どれも分厚いね」
「見た目で騙されて本を読まないなんてしたら、読書は楽しめないよ? とりあえず、最初の部分だけでいいから読んでみて」


 大気はすずかに言われがままに一冊手にとってみる。
 
 分厚い本だ。
 見るからに読み気が失せ始めていたが、駄目元でチャレンジしてみる。

 しかし、大気の予想を裏腹に物語へと吸い込まれていく。

 サッカー、サーカス、吸血鬼。

 ある程度まで読むとちゃんと栞の紐を自分の呼んでいたページに挟んでから本を閉じる。
 そして、一言。


「すんごく面白いね!」
「気に入ってもらえて良かった。ね? 読んでみるまで分からないでしょ」


 これを機に大気は読書をよくするようになり、もっと影が薄くなった。
関連記事
  ↑記事冒頭へ  
←第二話 (空気のやつ)    →第四話 (空気のやつ)
*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←第二話 (空気のやつ)    →第四話 (空気のやつ)