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小説挑戦


ボツ作品広場

第四話 (空気のやつ)

「君のその能力、ぜひ我チームで活かしてくれないか」


 幼稚園を卒園するちょっと前の出来事。
 それは……サッカーチームからのスカウトだった。





◆  ◆  ◆





 大気の幼稚園での生活は年長になり、大きく変わっていった。
 その最たる理由には月村すずか、彼女の存在が大きい。
 
 大気の趣味の一つ、というよりも大気にとっては体を動かすということ以外での新しい趣味となった読書だが、それの直接的な要員にはすずかが居たからである。
 すずかにオススメしてもらった本は、全てが大気の嗜好に合うものというわけではなかったが、一つの基準にはなり、彼の読書への関心興味の手助けとなった。

 読書をする息子を見て、母親はきっと将来は学者になるのねと大きく夢を広げ、父親はなんだか自分には及ばない遠い存在になってしまったと嘆いた。
 遠い存在だと感じた理由には、もともと大気は母親似で、せめて性格ぐらいは自分に似て欲しいと思いを含め、趣味が自分とはかけ離れたものになり、どうも親近感を覚えられなかったからだ。

 このままでは、大気との距離が遠ざかってしまう。

 大いに慌てた父親であるが、だからといって読書を止めることは出来ない。
 読書が大気の悪影響を及ぼすとは考えにくく、子供を一番に考える親としては阻害するのは見当違いだからだ。
 されど、父親の心は複雑であった。

 何よりも!
 自分と遊ぶことよりも読書を優先されるということが最近しばしば起きており、それに不満を覚えているのが一番の原因ではあるが。

 父親は口々に言う。


「これが『親の心子知らず』か」


 哀愁漂わせ、恐らく大切な何かを背負っている彼に突っ込むものは誰もいなかった。

 そんな父親のどうでもいい心情など大気は知るはずもなく、知る必要もなく、彼は一心不乱に読書をした。
 
 本の中に広がる世界は素晴らしい。
 芸術だ。
 なにより空想というのがいい。
 いや、魔法もいい、あれはいいものだ。

 大気がもっぱら好んで読むものはSFファンタジーものや、現代ファンタジーものだった。
 所々ではあるが、理解出来ない文や、主人公の感情、行動などもあるのだが、そういう時こそ読書お醍醐味である、『感想』を大気はすずかに言う。


「この展開はちょっとよく分からないんだよねー。ここが分かればもっと楽しめると思うんだけど」
「うん、ここはね実は時系列がこう繋がって……」
「あ! なるほど! それで物語が繋がるんだ。やっぱり月村さんすごいね」
「ううん、私も気づくのに何回も読み直したから。むしろ、一回目で変って気づく大気君がすごいと思うよ、私は」
「そういうもんなの?」
「そういうもんじゃないかな?」


 図書館で行われるちょっとした評論会、見様によっては答えを確かめあってる仲の良い男女の姿にも見える。
 実際、あの図書館以来、二人の仲は急接近していた。
 大気とすずかは幼稚園が終わると、陽気なメイドさんに送られて図書館へと行き、本を読む。
 もちろん、本を読んでいる間はお互いに一言もしゃべらないが、お互いに読み終わると小説の感想を言い合ったり、または本を交換したりなどして。有意義な時間を過ごしていた。

 その様子をやや離れたところで、見守る二つの影があった。


「どうですか、あのお二人の姿」
「うん、やっぱりお友達って必要よね。すずかにもようやく発情──じゃなくて、思春期が来て、お姉ちゃんはうれしいよ」
「友情通り越して、愛情なんですか!?」
「何を言ってるのファリン。あたりまえだよ?」
「はぁ~、最近の子供は早いんですね」
『すみません、図書館ではお静かにお願いします」
「「あ、ごめんなさい」」


 月村すずかの姉とそのメイドは静かに──ではなく、喧しく見守る。
 だが、この二人の会話は実はすずかの耳に届いており、大気を送り届けた後、珍しくすずかが怒った。
 しかし、姉曰く「そんな……すずかが怒るなんて……お姉ちゃんは嬉しいよ!」という言葉にすずかはどうしてこなったと呆れるばかりだった。

 大気にとっての読書とはつまるところ趣味以上のもっと大切なものである。
 一つに大切な友達が出来たきっかけであるということ。
 
 月村すずかにこうやった関係を築くことが出来なければ、大気にとって幼稚園はただ自分の存在感を頑張って示す場所程度のものに過ぎなかったであろう。
 否、築いた今もそれは大して変わらないが、なにより希望が持てた。
 友達とはある種、相手の存在を認めるということに繋がっていると大気は考える。

 言葉の通りで深い意味はないが、ただ単純に友達がいれば友達が大気自身に目を向けてくれる人がいるということだ。
 その為、無理に目立つ必要はなくなるわけだ。

 だが、その前段階。
 友達を作るという前提においてある程度の存在感や目立つことをしなければ、友達は出来ないのだからやはりアピールは必要なものだ。
 大気はそれを怠るつもりはない。
 だからこそいつもドッチボールをやろうと、よくすずかに絡む男の子を誘ったりするし、ドッチボールをやる際は、一番目立つように最初にやられる。やられにいくのだ。
 目立つ、という観点においてだったら、最後まで残るということでも十分にありなのだが、大気は理解している。
 自分が群を抜いて身体能力が高くないことを。

 運動神経いいね、とはすずかの評価だが、だからといって圧倒的という訳ではない。
 ましてドッチボールを含む、スポーツにおいては事故というのが起きやすく、最後まで残ろうとした結果、途中の一番だれてる時にリタイア。
 誰の記憶に残らないなど論外。

 だから大気は絶対に目立つようにして、撤退するのだ。
 これが本当の戦略的撤退である。
 絶対に自分が当たらない方向にボールが飛んできて、わざとあたりに行ってアウトになることなどよくあること。

 あの時のみんなの驚いた顔と、集まる視線がたまらない。

 大気はやみつきになっていた。

 一方、すずかはと言うとドッチボールには参戦していなかった。
 自由時間に行われるドッチボールなら、当然のことながら室内で読書をしているし、先生主催や幼稚園主催の大会などにおいて、いの一番に外野を選択。
 この幼稚園でのドッチボールのルールは初期は外野が二人、外野が復活できるのは一人までというものなので、一度外野に行けば、自己主張をしたがる坊やたちがたくさんいるのですずかが内野にいることはない。
 つまり事実上はやっていないのと同義であった。

 すずかの幼稚園での態度はだいたい我関せずという感じであった。
 しかし、変化が訪れたのはある意味当然のことであり、その変化が大気の存在だった。
 そして、それは大気とてそれは変わらない。
 お互いに、お互いが、影響しあって、いい関係になり、持ちつ持たれつの関係で二人は卒園したのだった。

 



◆  ◆  ◆





 幼稚園卒園の少し前に、大気は進路を決めるという人生の岐路の一つに立たされていた。
 高校受験や大学受験、会社面接に比べれば人生の中ではビックイベントというには少々物足りないが、それでも十分に小学校は将来を左右する大切な選択である。
 例えば、小学校選びを失敗し、選んだ小学校で引きこもり生活がしまえば、その子の将来は必然と暗い物になっていってしまう可能性が高い。
 大気は軟弱者ではないが、そうなり得る可能性だって零ではないのだ。限り無く零ではあるが。
 もっとも、引きこもるなら空気と言われている現状ですでに引きこもりになっているだろうし、それにへこたれず一所懸命に前を向く大気は、確かにポジティブと言われる人種であった。

 また、彼は馬鹿でもない。
 大気の友人関係から知れるところであるが、アリサ・バニングスという一大才女。
 月村すずかという文学少女(仮)の二人がいるのだから、勉学という面では冷遇どころか、素晴らしい環境だ。
 これ以上を望んだらバチが当たるという物。

 多少大袈裟ではあるが、アリサとすずか、この二人が居る限りおそらくは大気の人生は暗いものではなく、明るいということは確約されているようなものだ。
 もちろん、それは経済面という現実的な見方を含めであるが……

 大気は出来れば今いる友だちと同じ小学校へ行きたかった。
 それはすずか然りアリサ然りである。
 今のところこの二人が唯一無二の友達だと大気は信じているため、当然の成り行きではある。

 大気はそのことを包み隠さず母親に相談した。


「やっぱり今いる友だちと一緒の学校へ行きたいな」
「今いるねぇ。やっぱりすずかちゃんとアリサちゃんかしら?」
「うん」
「なら、その事を二人にも言ってみたら」
「え? ……そうだね。聞いてみる」


 まずはアリサに電話でさりげなく聞いてみると、答えはすぐに帰ってきた。


『私の幼稚園は形だけの入試こそあるけど、エスカレーター式よ?』


 大学附属なんだから当然の話だった。
 しかし、次の言葉は大気にとって予想外だった。


『で、でもそうね。あ、あんたがどうしても一緒がいいって言うなら他の小学校でも──』
「そっか、教えてくれてありがとう。じゃね」
『え、ま──』


 アリサはそのまま進学かぁ。
 ええと、確か学校は聖祥大の小学校だっけ?
 ウチからだと少し遠いなぁ。

 大気の家はアリサの通う予定の小学校がある海鳴市の隣町の遠見市。
 小学校に電車で通うというのは珍しいことではないが、大気としてはやはり楽がいい。
 手っ取り早い話、地元で進学したかった。
 この気持は結構な時間をかけて自転車で送ってくれる母の背を見て少しずつ育まれたものだ。
 それだけに根が深かった。

 アリサがその学校の行く、というだけのメリットでは大気は決めきれない。

 ならばと思い、次はすずかへと電話する。


『小学校? 私はどうかなぁ。まだ決めかねてるけど、大気君はどうするの?』
「僕? 僕は……同じだね。他の友だちが聖祥大の小学校に行くっていってるけど、ちょっと遠いからどうかなって思ってる」
『他に友達いたんだ……』


 あれ? 今さりげなくひどいこと言われた気がする。
 でも、月村さんに限ってそんなことはないよね。

 大気はすずかの性格上幻聴だと決め付ける。
 彼がすずかの本性を知る日はまだ遠い……別に腹黒じゃないけど。


『たぶん、私も聖祥大の小学校に行くことになると思うよ。本当だったら、幼稚園もそこだったし』
「へぇ、そうなんだ」


 アリサだけじゃなく、すずかまでもが私立聖祥大学付属小学校に行くと聞き、グラリと心が揺れる。
 楽に進学するべきか、友をとるべきか。
 まさに、大気は岐路に立たされていた。
 せめて、もう一押し、もう一押しがほしいところであった。

 そういえば、と大気は思い出す。

 初めてはまったあの本では、最初で最後の友達との別れ。
 今生の別れであったが、アレのせいで友達とは食い違い、最後には敵対し殺し合うなんてことがあった。
 吸血鬼というイレギュラーな要素が含まれる作品ではあったが、しかし、なるほど参考にはなるかもしれない。
 
 これはもしや友人と別れてはいけないという作者からのメッセージじゃ。
 あ、でも他の作品だと、別れがなければ出会いがないとも言ってたし……難しい。

 本で得た知識をうまく活用しようとしてより一層深みにはまった。
 
 小学校程度、されど小学校侮るなかれとは、この時の大気の心情である。

 その苦悩をそっと近くで見守る父。
 相談されるのはいつだって母親で、自分はいつも扉の向こうからハンカチを噛みながら見守ることしか出来ない。
 いっそ、自分から救いの手を、と思うものの彼は虚空に思いをつぶやいた。


「少年よ大いに悩め」


 ちょっと偉そうな父親にどついた母親は悪くない。

 母親は父親とは打って変わって、大気へ救いの手を差し伸べる。
 

「何をそんなに悩んでるの?」
「うーん、現実と理想のギャップに……」
「どこの政治家よ……楽に通学したい、でも友達はそこにはいない。片方をとると片方が成り立たないってことよね?」
「なんだ、分かってるじゃん」
「大気のお母さんだもん」
「そうだよね、お母さんだもんね」


 あはは、うふふ、ははっ……ショボーン。
 ショボーンが誰のリアクションかは言うまでもない。


「それじゃ、試しに行ってみたら?」
「え?」
「一人で聖祥大の小学校 行ってみなさいと言ってるの。そうね、言うならば……」





◆  ◆  ◆





 『初めての通学大作戦』
 母親がそう名付けた作戦の概要は、実際に一人で学校に行ってみれば? それで楽かどうか、いけそうかどうか決めて見なよ、という至って平凡な作戦だった。
 しかしその反面、大気はなるほどと納得し、今現在体験中である。

 海鳴市へ行く方法は幾つかある。
 バス、電車、タクシー、自転車、徒歩、競歩などなど、考えられる手段は沢山あるが、実際に行くとなれば電車通学になるだろう。
 とは言うのもののたった一駅、5分でつく距離だ。

 物は試し、百聞は一見にしかずとはよく言うものの、それを大気は生身で味わっている。

 なんだ、幼稚園に行く時より時間がかからないじゃないか。

 海鳴市の駅からは私立聖祥大学付属小学校行きの専用バスが出ている。
 バスに乗って約20分程度で小学校へ着く。

 つまり、家から駅まで10分、駅から駅へ5分、駅から学校へ20分でざっと35分程度着く計算になる。
 幼稚園の頃よりも10分以上に早いことになる。

 大気は一体どれほど苦労するかと身構えていたのだが、こうやって現実を見てみれば拍子抜けだった。
 何も悩む必要なんてなかった。
 最初からアリサやすずかなんかと一緒の学校へ行けばいいだけの話だった。
 もちろん、その際には入試という非常の面倒なものがあるが、大気にはアリサがついている。
 落ちることはまず無い。


「あ、そういえば海鳴市といえばおいしいシュークリーム屋さんがあったような」


 一安心して大気は余裕が出てきたのか、この間のテレビの話を思い出した。
 テレビで見たそのお店のシュークリームは非常に魅力的で、そりゃもうたまらんというものだった。
 そのテレビを見ながら家族で、いつか食べたいねなんて話をしたばかりであった。

 大気は自分の財布の中身を見る。
 中にはいってるのは、親が交通費として多めにくれた千円札から行きの交通費分を引いた分。
 あとはお小遣い分で、300円程度。
 テレビで見たシュークリームの値段は200円程度だから、十分に買えるという結論が出る。
 ここまでの計算、約3秒。
 早いのか遅いのかいまいち分からない。
 しかし、そこからの行動は早かった、近くのお兄さんを引っ掛けて一言。


「すみません、おいしいシュークリーム屋さんを知りませんか? 確か『翠屋』って名前だったんですけど」


 後ろから話かけたのが悪かったのか、声をかけた瞬間、本当に瞬間的にそのお兄さんは大気と間を取り一気に振り返った。


「この俺の後ろをとる……だと?」


 表情は困惑と驚き。
 セリフは若干危ない人だった。
 
 お兄さんは急に大気を警戒するが、大気はそれ以上に警戒した。
 だって、ほら……セリフが、ね。


「なんだ、ただの子供か……いや、君すごいな。まるで気配を感じなかった」
「あ、あははは」


 大気にとってそれは褒め言葉じゃない。
 というか、褒め言葉になる人はいるのだろうか。


「『翠屋』だったか? ちょうど俺も帰るところだったから、ちょうどいいな」


 知らない人について行ったらいけません、と家に出る前に母親に注意されたばかりであるが、しかし大気はそれが実行できない。
 なぜだか、逃げれる気がしなかったからである。
 
 大気は言われるがままに、着いて行くという選択肢しかなく。
 結局ついて行ったのだが、どこかに誘拐されるのではないかという大気の不安は的外れだったことが、翠屋について分かる。

 大気はお兄さんにお礼を言おうとしたら、中でちょっと待っててくれと言われて、店内で一人席につき待つ。
 大気はこういった雰囲気の場所、所謂喫茶店は初めてで、そわそわしながら緊張しながら、待ってるとやがてエプロンをつけた若い男の人がやってきた。
 その男は自分の名を高町士郎と名乗り、言った。


「君のその能力、ぜひ我チームで活かしてくれないか」


 翠屋JFCという地元サッカーチームのスカウトだった。
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