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小説挑戦


ボツ作品広場

第五話 (空気のやつ)

 練習日は土・日の基本週二回制で、祝日がある日はその日も練習である。偶数週の土曜は練習なし。二週間に一度は試合があるという絶妙なバランス感覚の練習日程だった。

 チームの方向性は、勝つというのが最終的に目標ではあるが、チームプレイを大切にみんなで仲良くという、どちらかというと協調性を大切にする。
 これが中学、高校と本格的になったり、プロサッカークラブのジュニアチームなら何がなんでも勝つという方向性になるが、こういう所が地元チームらしい生温さだった。
 その為チームの雰囲気は緊迫したものではなく、ほんわかとした温かいものであった。

 監督は大気をスカウトした高町士郎。なお、チームのオーナーも兼ねている。
 その他にも士郎の知り合いの親御さんなどがボランティアで協力してコーチをしている。
 
 
「翠屋JFCはすごくいいチーム。僕もこのチームの一員として頑張っていきたい」


 大気は入団するに当たって、そう発言した。

 サッカーの練習もさることながら、大気は私立聖祥大学付属小学校の入学試験に備えて勉強をした。

 勉強は思った以上にはかどっていた。
 大気の頭が元来悪くないということなのか、それともアリサの今までの教育、及び今の家庭教師としての賜物かは分からないが、順風満帆であった。
 一を教えて十の理解は流石にできないが、3、あるいは5程度は理解できる優秀さを誇っていた。

 父親はこのことを知ると、「さすが我が息子、うむ、俺の血のおかげだな」と言い、母親がすぐさま高学歴だけが取り柄なんだから、と突っ込んだ。それでも父親は突っ込まれながらも息子を誇った。母親はアリサに感謝した。
 
 たった一ヶ月という短い勉強期間ではあったが、大気の努力が報われた結果か、難なく試験は合格することが出来た。時期同じく、大気のもとにすずかの朗報も届いた。

 大気はついに自分にも運が向いてきたと喜んだ。
 二年前までの空気の薄さが嘘のようだ。
 そう、まるで自分が主役かのような……っ! そんな気分になっていた。
 例え、合格通知がまとめて貼られている掲示板で、大気の番号だけがかすれていようが、大気は確かにその時限りは物語の主役だった。

 この受験合格祝いに、両親からは携帯電話のプレゼントが送られた。
 大気はそれを大喜びし、その横で一番に電話帳登録をするのは私だ俺だと争う両親の姿があったとか。
 結果的に一番に電話帳登録したのはその貰った場に居合わせていた、漁夫の利をついたアリサであった。
 アリサが一番、すずかが二番、三時のおやつは文明堂。

 こうして、無事に大気は私立聖祥大学付属小学校への入学を果たしたのである。





◆  ◆  ◆





 アリサにとってこの小学校、私立聖祥大学附属小学校への入学は思ったよりは良いものとなった。
 幼稚園の頃に立てた自身の予測では、この小学校も幼稚園と大して変わらず退屈なものになると考えていただけに、自分の弟分とも言える大気の入学は予想外の出来事であった。
 とは言うものの、アリサにとって大気とは、ちょっといじめると可愛い時もある弟、もしくは小生意気な友達程度のものなので、いてもいなくてもまあそんなに大して変わらない事もないようなあるような、とても微妙な存在であったりする。
 そう、微妙な存在なのだ。

 アリサは言う。大気に存在感を感じたことも、感じさせられたこともない、と。

 これは良い意味でも悪い意味でもない。
 だがこの言葉をもし大気に向かって言ってしまったら、大気が消えてしまうような感覚に襲われたので言葉には出さないが、内心では結構大気のことを好き勝手言っていた。

 大気が消えるというのはしゃれにならない。
 なんだか本当に物理的に消えそうだから。
 そんなことはありえないとアリサは思っていても、そう感じてしまうのだからしょうがない。

 だが、もし大気が自分の目の前から消えてしまったら、とアリサはちょっと真面目に考える。

 まず自身の利益に関して、と考え始めたところでふと頭によぎる。


「……居なくなっても気づかないかもしれないわね」


 意外とありそうでアリサは自分の発言に戦慄を覚えた。
 同時に大気にある種の恐怖を覚えた。

 ここまで人が人為的に自身の存在感を消すことが出来るのか。
 そもそも、大気の場合はそれを無意識に行なっているではないか。
 これは本当にそれ相応の理由がないと考えられない。
 
 大気がいきなりアリサの頭上に現れて「実は忍者の末裔だったのさ!」と言われても、驚かない自信がアリサにはある。
 現れるという行為には驚くが、忍者発言には驚かないという意味だ。
 でも、さすがに目の前で物理的に消えてしまったら……驚きは隠せないだろう。


「まあその時は幽霊かと突っ込んでみせるわ」


 それほどの影の薄さを誇る大気だが、アリサはその影の薄さ自体には別に不快感はない。
 むしろ、影の薄さは大気の長所であるという捉え方をしていたため、その長所をまるで短所かのように扱う大気に若干ながらアリサは苛立っていたというのが事実である。
 だからこそ、彼がサッカーを始めるといったときは、そのプラス思考に思わず抱きつくほどの賞賛を大気に送ったアリサだった。

 後から考えるとあの時の自分の行動に顔を赤らめてしまうあたり、アリサには外国人の血が通っているといえど、日本人気質を感じる一面だった。
 それでもやはり彼女は外国人であり、日本人にはないガツガツと自分の言いたいことを言うという面もあった。

 言いたいことを言いたいように言う彼女は、自分の言いたいことを言えない人のことが理解できないでいた。
 アリサはそういうウジウジしてる奴とかマイナス思考の奴とかが嫌いである。
 大気は幸いにも、自分のその特性に関してはマイナス思考だが、それをなんとかしようとする一所懸命さに免じて、私の友達であるのを認めるというレベルだった。

 そんな端から自分を高いところに置いてしまいがちなアリサは、当然のごとく大気と同じように友達が少ない。
 本人からすれば、それは大したことではないのかもしれないし、そもそも今では大気という友達の存在もあるので、これ以上は望まないという所に落ち着いていた。


──そんな時にアリサは小学校へと入学したのであった。


 刺々しい雰囲気と圧倒的な存在感を周りに纏っての入学式。
 周りにも数多く目立つ子は多けれど、アリサほど目立つ人物はいなかった。
 目立たない人物筆頭は言うまでもない。

 あ! あいつの名前飛ばされてるわね。
 なーに泣きそうな顔してるのよ、全く見てられないわね。

 名前を言うまでもない。
 実際に言われてもいない。
 こんな些細なことなど気にしないかのように入学式は進んでいき、最後の閉会の言葉によって約一時間ほどの入学式は終わった。
 
 この一時間はアリサに限らず、誰にとっても退屈な時間だったが通過儀礼としてそれは諦めざるを得ない。
 親のためという点もある気がするが、そんなことまで入学式中に入学式について考え出すのはアリサぐらいだろう。
 その入学式も終わった今、アリサ達入学生はそれぞれの教室へと戻った。
 クラスは入学式前に張り出されており、一度教室にも入っていることから、入学式の緊張もあってかあまり騒がず皆それぞれの教室へと入っていった。

 教室、その教室の中でもやはりアリサの存在感は別格だった。
 当たりまでが、その金色の髪が目立たないはずがないのだから。

 しかし、アリサはあまり嫌な視線は感じなかった。
 普通の学校であれば異質であるアリサはこれでもかと注目をあびるのだが、この学校は大学附属であり幼稚園からのエスカレーター式のため、アリサのように幼稚園からそのまま上がる人が少なくない。
 そういった意味でも、やはりアリサにとってこの小学校への入学は予想外の幸運が多かった。
 
 アリサは知らないことだが、もちろんデビットはこれを計算した上でこの大学附属に入園、入学させていた。
 全ては娘を思う父親の掌の上ということを、アリサはまだ知らない。
 
 ここまで幸運に恵まれていたアリサだったが、ここで一つ予想外だったことがある。
 
 それはクラス編成、つまり……大気とは違うクラスだったのである!

 こうまで幸運なら一緒だろうと都合よく予想していたアリサだが、いやはや世の中そう上手くいかないものだった。
 アリサはそのことを「ま、どうでもいいけど」の一言で一刀両断したが、内心では友達と別れちゃってちょっと寂しいくらいの気持ちはあった。
 だのにその気持ちを顔にも出さず、大気には「私と違って残念だったわね」と大口を叩いたりもした。
 だが、大口を叩いたことは少し後悔もしていた。
 
 あの時の大気の捨てられた子犬のような目というか、今にも消えそうなその雰囲気に今頃になって罪悪感を感じていた。
 あの消えそうな存在感というか、儚気な雰囲気は反則だろうとアリサは思いながらも、その発言について謝ることは考えてはいない。
 考えてはいないが、今日の帰りに公園でたい焼きをおごってあげるぐらいならしてあげようと思っていた。
 
 ふふ、私がおごるんだから私の指定に文句は言わせないわ。
 味は……あの新作とか言うブルーチーズ味を食べさせてやるわ。

 最近、公園で異様な匂いがすっる原因になってる物を食べさせるとアリサは決めた。
 
 後に幻の味となるたい焼きだった。
 幻になった理由はご近所さんからの苦情だが……

 罰ゲームをアリサが思案している間も初日の授業は進み、考え終わる頃には先生の自己紹介と学校の最低限の説明が終わり、授業が終わった。
 さようならの挨拶をし、放課後になるとまっさきにアリサは大気の教室へと向かった。
 
 教室へと向かうアリサの顔はなんだかとても楽しそうだった。





 三ヶ月もすればクラスメイトの特色が分かるには十分な月日だった。
 そうなると気に入った奴や気に入らない奴が出てくるのは当然で、アリサにも気にいる奴と気に入らない奴が出来始めていた。

 『月村すずか』いつも自己主張せず本を読み、なにか周りに言われても自分の意見を全く言えないいけ好かない奴。
 もちろん、他にも何人も居るが一番気に食わないが、そんなすずかの友達に大気がいることである。
 すずかだけじゃない、大気にも若干怒っていた。
 
 なぜ、私以外に友だちがいることを黙っていたのか、と。
 だが、それはいい。
 百歩じゃ足りないから百五十歩ぐらい譲っても大気は許すが、月村すずかてめーは駄目だ。
 私の友達の友達にウジ虫が居るのがなんだか許せない、アリサはそんな気持ちだった。

 我儘というよりは独占欲、独占欲というよりは器量の狭さからくる気持ちであった。
 
 アリサから言わせれば友達の友達にウジ虫がいたら私までウジ虫と思われるといったもので、とても幼稚な感情だった。
 一部の分野ではとても聡い少女であったが、同時に歳相応の感情ももちろん持ち合わせていた。
 
 三ヶ月、それは彼女の限界の時でもあった。
 アリサは武力行使に出る。


「あんたみたいな! あんたみたいなウジ虫が私は嫌いなのよ!」


 キンッ──と響くような金切り声でアリサは言った。
 同時に、手を出した。

 すずかは──いつも通りやられる一方だった。
 流されるまま、されるがまま。

 すずかの目は虚ろな目でどこかを見ていた。
 
 その姿に一層アリサの怒りは膨れ上がり、過激化する。

 アリサは誰も見ていないからこそ暴力を振るっていた、しかしここで予想外の事態が起きる。
 アリサがパシンッと頬を叩かれたのだ。
 
 茶色い髪の少女が、アリサを叩いたのだ。
 そして言った、


「叩かれたら……叩かれた人はこんなにも痛いんだよ! それに心もすごく傷つくんだよ!」


 その後は茶色の少女とアリサの罵り合いの叩き合いと化した。
 叩いては叩かれ叩き返して、言っては言われ言われ返してが続く。

 いつまでこの状況が続くのか分からなくなってきた時、すずかが叫んだ「やめて!!」と。
 普段、出さないような大声ですずかは叫んだ。

 すずかのその声で、二人の叩き合いはフリーズした。

 この後誰が呼んだのか先生が来て、この場は収められた。
 アリサは家に帰ったあと、学校の報告で慌てて帰ってきた両親に説教をされてる中、考えていた。
 
 今までだって気に入らなかった奴はたくさんいたのに、なぜすずかの時だけ爆発してしまったのだろうか、と。
 今考えれば、あれほどアホな行動はなかった、バカじゃないか自分は、と。

 悪い事……よね。
 紛れもなく私が全部悪かった。
 謝らなくちゃ、ね。
 許して……くれないわよね。普通は。

 ……それに最後のあの子の言葉…………すごく、響いた。

 そして、最後に気づいた。
 なんでだろうか、あんなにいけ好かないと思っててすずかのことを考えるのも嫌だったのに、今すずかのことを考えるのは別に嫌じゃなくなってることに。

 そうだ、あの途中で割って入ってきた子にも謝らないと。
 あの子の言った通りすごく痛かった。
 でも……はあ、あの子も許してくれないわよね。

 今回の件でアリサは少し自己嫌悪に陥っていた。





◆  ◆  ◆





 
 大気がそれを全て垣間見ていた。
 だが、声を掛けることが出来なかった。
 男なんて肝心なときには役に立たないもので、女同士の問題なんてその最たるものだろう。

 大気はそれを見ていて、ヤバい、ヤバイよ、どうしよう、なにをすればいいの、とパニック状態だった。
 普通の人ならそんな様子の男子が側で見てるのであれば誰かしらが気づくのだが、大気なのが災いとして誰も気づかなかった。
 アリサでさえ叩くのに夢中なのか気づいていなかった。
 だが、すずかの声で正気に戻り、仲介する勇気はなかったので慌てて先生を呼びに行ったのである。

 大気は先生の仲介を見届けた後、自分の行動力の無さを悔やんだ。
 もし、自分がパニクらず仲介すればあんなに酷い事にはならなかっただろうと思ったからだ。
 自身を不甲斐なく思い、だけど大気は決心する。
 
 このままじゃダメだ!
 僕の友達、すずかとアリサと後知らない子だけど、ケンカしたまま終わるのは駄目だ。
 僕が……僕がなんとかみんなを仲良くさせないと!

 大気は大気なりに三人の中を持ち、みんな友達になれるよう努力することを決意する。

 翌日、早速行動にしようと思ったが、肝心なときに大気は踏みとどまった。

 あれ? どうすればいいだ。

 やり方が分からなかった。
 出鱈目だと仲が悪化する可能性があるから、行き当たりばったりもダメ。
 ならば、しっかり作戦を考えるべきじゃないかと思い当たった。

 そうなるとこの日は棒に振るしかなくなり、さらに翌日、翌々日と良い作戦が思いつくまで行動できない日が続く。
 一週間が経ち、このままじゃダメだ! 兎に角行動をと思った矢先の出来事である。
 アリサからバニングス邸への呼び出しをくらい、そこに行くと、


「紹介するわ。こっちは知ってると思うけど、月村すずかね」
「大気君、一週間ぶりくらいかな?」
「で、こっちは高町なのは」
「初めまして。高町なのはです! なのはって呼んでね」
「二人とも私の友達よ」


 仲良く三人でティーを嗜む姿を見たのであった。

 大気は思う。
 なんだか物語的に重要な場面で空気だった気がする、と。
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