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小説挑戦


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第六話 (空気のやつ)

 小学校三年生とはいわゆる一つの節目と言える。
 例えば、一・二年生の間は生活というとても曖昧な科目だった教科が社会と理科に分かれたりする。
 これは勉学的な一つの節目と言えるだろう。
 
 大気にとってもそれは変わらず三年生になって、一つの節目になっていた。
 学校では入学以来初めてのクラス替えがあって新しい環境になったりするし、サッカーでは通称団子サッカーから、個人技や戦術が見え隠れするようなチームプレイが中心となってきた。
 団子サッカーではみんなボールに集中してしまうため、大気が簡単に空気になれ、こぼれたボールを拾ってゴールなんて展開が何度も続いたが、これからはそうは言ってられなくなるだろう。

 運動神経は悪くないので、今後も努力次第ではチームを背負って立つ選手に慣れるかもしれないが、全てはこれから次第なので、どうなるかは分からない。
 ただ単純な足の速さとかキック力ではチーム内ではトップクラスだった。

 大気のポジションはフォワード。
 影の薄さを利用してゴール前でこぼれ球を拾う、声を出していきなり意表をつくというのが今までのプレイスタイルだった。
 もちろん、三年生になったこれからはもっと違うプレイスタイルに変わっていくことを余儀なくされるが。

 サッカーでは比較的目立てるポジションのフォワードを手に入れていたが、学校のポジションは見事なまでに空気という名ポジションを確保していた。
 だが、これについては大気も想像通り、否、予想通りであった。
 名前言ってもらえないことなど分かりきっている。

 だからこそ、大気はずっとその対策について考え考え、考えた末にアリサから助言をもらって一つの策に打って出た。

 空気で無視されるなら、無視できないポジションにいけばいい。
 ……そうだ、学級委員になろう。

 学級委員、今はまだ低学年のため生徒会といった重職には着けないが、クラスのまとめ役の象徴たる学級委員なら十分に目立つことができる。
 それどころかいなくてはならない存在となって、空気扱いできないだろふはははと大気は一人自分の部屋で高ぶったりもした。

 空気脱却。
 それは大気の永遠の夢であり希望であり目標であった。
 小学校でもその目標を達成すべく動き出したに過ぎない。

 だがしかし、それで上手くいってるなら、今現在空気のポジションを手に入れることもないわけで、結局は失敗したのである。
 理由は至極簡単、学級委員は女子と男子の二人制であったことだ。
 
 失策だった。
 いつも頼られているのはその女の子で、大気は女の子に頼まれてようやく仕事を手に入れることが出来た。
 これではあまりにも地味だった。
 大気は学級委員という目立つことが可能な場所に居ながら、同じ学級委員のサポート役という地味なポジションで留まっていたのだ。
 無論、これで諦めることが出来ず、ならばさらに上をと学級委員長に立候補したがあえなく落選。
 当選した人は、先生からの推薦でいつも頼られる翠屋JFCのゴールキーパーの子だった。キャプテンでもある。

 大気にとっての敵は味方にいたのである。
 ちなみに大気の相方の女の子はそのゴールキーパーの彼女だったりする。

 
「でも、まだだ、まだ諦めるには早い! 小学校はまだ半分以上あるんだから!」


 三年生になった朝、新たな決意をする希望を捨てない大気の姿がそこにはあった。

 もう作戦は全然思いつかないけど大丈夫。
 僕にはなんてたってアリサという心強い味方が居るんだからね!

 大気はアリサのことを心の中では自身の参謀だと思っている。
 数少ない友達でありブレインであるのだ。
 相談役は自他共に認めるすずかである。
 
 ある事件をきっかけに晴れて友だちになったなのはという存在もいるが、大気はいまいち距離を掴めないでいた。
 友達の友達というのがなんとも言えない壁を感じてしまっているからだ。
 今のところ、なのはに共感するような部分はあまりなく、共通する部分は翠屋JFCぐらいだろう。
 何度か喫茶翠屋で見かけたことはあったが話しかけたことも、話しかけられたこともない。
 試合のゴールを入れる前後ぐらいしか存在感を感じないのだから当たり前の話ではあるのだが。


「へぇ、大気くんってそうやって色々頑張ってるんだ」
「中々上手くいかないけどね」
「でも、それすごいよ! うん! わたしも応援してるよ! 一緒に頑張ろ!」
「え、あ、うん」


 大気の手を握り、大気の目をしっかり見て、熱く言うなのはの姿には大気もタジタジだった。
 慌ててアリサに救いの手を求めるが、そういう奴だから諦めろと言い、すずかは微笑むだけだった。
 大気は「頼むから相談役は相談に乗ってくれ」と言いたかったが、すずかのそのいい笑顔の前では何も発することは出来なかった。

 それからというもの毎日のようになのはから応援のメッセージが届いたりしている。
 共感して応援してくれるのはありがたいと思うが、これもなのはといまいち上手くやっていけていない理由の一つだった。

 三年生になった朝も当然のごとくメールが来る。
 しかし、今回は応援メールではなく一斉送信で送られてきたメールだった。


『おはようございます。今日からみんな三年生だね! 初めてのクラス替えはすごくドキドキするね! みんな一緒に慣れるといいね』
「みんな一緒って結構難しいよねー」


 夢見がちだが、根では現実的な大気だった。
 日々、空気脱却、存在感をと謳ってるくせに心では若干諦めかけてる大気らしい発言だった。
 

「でも、それはそれさ。『みんな一緒だといいね』送信っと」


 「希望は捨てないさ」が口癖になりかけている大気でもあった。

 だが、当然のごとく大気に運命の女神は微笑まなかったのである。





◆  ◆  ◆





 大気は見てはいけないモノを見てしまう、ということが比較的よくあった。
 その見てはいけないというのは色々なものがあるが、公園でのアレやコレというのが代表的なものだろう。
 いくら大気がそれらについての知恵をあまり持っていないとしても、その光景はあまりにもあんまりだった。
 気づかれない、という事自体にも腹を立てるがそれを偶然垣間見てしまったことによるショックのほうが大きかった。
 知りたくなかった大人の世界を知ってしまったよう、そんな感覚に近いものを大気は味わった。

 幼い大気にはそれが少しトラウマのようなものになり、ある一定の時間帯からはあまり外出ということをしたくはなくなっていた。
 無論、今も小学三年生という身では深夜遅くに外に出るという行為自体が稀。
 あってもそれは両親の付き添いでの買い物だとか、星を見るだとか、初詣に行く程度しかない。
 いずれにせよ、たった一人で外にうろつくなんて行為はとてもじゃないが出来なかった。

 同じく、人目につかない公園も一人で行けない。
 そんな理由があったから、いつもわざわざ隣町にある大きな公園、臨海公園に遊びに行っていたのである。

 公園には表と裏の顔があるというのが大気の主張だった。

 しかし、大気は今公園にきていた。

 この公園はアリサたちがよく近道と称して通りがかる小学校近くの公園である。
 時間も遅く、すでに日が完全に沈んでいた。
 今日の大気はサッカーの練習があったため、帰宅時間がこんなに遅くなってしまったのである。
 サッカー自体が終わったのは19時と日は沈んでいるがそこまで遅くない時間だったが、そのあと大気は自主トレをしていた。
 
 今まではレギュラーでなんとか試合に出ていたが三年生になってからレギュラーが怪しくなったからである。
 
 サッカーで活躍できなくなったら、それこそ僕の立場がッ!

 大気にとってサッカーとは一種の心の拠り所となりかけていた。
 ゴールを決めたときのあの注目がたまらない。
 普段決して集まることのない視線がこちらに集まるのが嬉しい。
 あのどこから沸いてきやがったと言わんばかりの敵の表情がいい。

 へっ、影が薄いとバカにするからだ!

 だから失うわけにはいかなかった。
 自主トレをして何がなんでもレギュラーに食いつきたかったのだ。

 本来この自主トレが見つかれば、子ども好きの士郎に夜遅くまでやるなと言われ注意されてしまうが、幸い大気は影が薄く、バレることがなかった。
 勘づかれてる一面はあるが確信がないため、みんなにすぐに家に帰るように促したりするだけで終わっていた。
 この自主トレは秘密のトレーニング。

 もっと上手くなってみんなに目に物を見せてやる!
 それに、極秘のトレーニングって何だかかっこいいよね。
 すごくうまくなりそうな予感がするよ。

 大気はやる気に満ちていた。

 練習場所は公園というのが基本。
 学校が開いていれば学校がいいのだが、もちろん開いてるはずもなく、大気は渋々夜の公園で練習をしていた。
 公園を照らす街灯の光は弱いもののリフティングやドリブルなど簡単な練習をするにはそれでも十分だった。
 自主トレの時間は気が済むまでだが、一人でやれることは少なく、また親も心配すると思ってか1・2時間程度で切り上げていた。

 自主トレのことはもちろん親に知らせていない。
 親には練習が終わるのを本来終わってる時間より遅い時間であると告げてある。
 両親もいざという時はケータイもあるのでそれほど心配もしなかったため、大気は一所懸命に自主トレを励むことが出来た。

 しかし、今日はいつもと違っていた。


「あれ……ボールが見つからない……」


 リフティング中、思わずボールを強く蹴ってしまいボールが彼方へと飛んでいってしまったのである。
 未熟な内ではよくあることだが、いかんせん今は時間帯が悪い。
 辺りは街灯の光だけで暗く、草の中を探すとなると見つけるのが非常に困難な状況だった。
 それでも、ボールを無くしたと親に言って怒られると思うと、なんとしても探して帰らざるをえない。
 そんな心情が大気を縛り付けていた。


「駄目だ、全然見つからない」


 大気の頭にふとよぎるのは、『探し物は探してる時には見つからない』という言葉。
 なんだか、アリサが得意げに話していた記憶があるが、あまり覚えてない。
 それでも、辛うじて覚えているのは最後のアリサとの会話。


『ま、ようするに探して見つからなければ、探さなければいいのよ』
『え? それじゃ、どうすればいいの』
『諦めなさい』
『え?』
『諦めなさい、以上』
『え? そんなー!』


「……諦めなくちゃいけないのか?」


 時計はすでに10時を回っていた。
 今まで探すので夢中だったが、ケータイを見ると着信が大量に入ってきていた。
 両親だけじゃなく、友人たちの名前もいくつかあった。
 両親が心配をしてそこら中にかけまくっていた証拠のようなものだった。


「……これはどっちにしろ怒られちゃうよね」


 怒られないためにボールを探したのに、探してたせいで怒られてしまう。
 大気は自分の行為が裏目裏目に出てしまったことを思うと、ため息をして後悔した。
 
 ボールを無くしたので怒られて、帰るのが遅くなって怒られるのか……
 失敗しちゃった……
 
 悔やんでももう遅い、そう思ってとぼとぼと親にメールを返しながら帰りだす。
 もしかしたら、もう自主練出来ないかもしれないと思いながら。

 だが、そんな時だった。
 轟音が公園へと鳴り響く。


「え? なに!?」


 現れたのは、影のような物。
 形の定まらない赤い目を持つ、とてもじゃないがこの世のものとは思えないおぞましい化物がそこにはいた。
 その化物は辺りをキョロキョロと見渡す。
 
 ひっ!

 一瞬、目があったかのように見えて声にならない悲鳴をあげた。
 しかし、化物は全く大気には気付かない。

 び、びっくりしたぁッ!
 な、なんだよあれ!

 心の中で精一杯叫ぶ。
 だけど、身体は化物気付かれないように草陰へと忍足で進もうとする、だがその草陰が非常に遠く感じた。
 大気は草陰は諦めて近くの昨日らに隠れることを選択する。

 空はまるで閉鎖された空間のように赤かく何かを囲んでいるように見えた。

 化物は大気に気づかずそのまま茂みへと消えいく。
 大気もこの隙に、と逃げ出そうと思うものの動けない。
 怖さのあまり硬直してしまったようだった。

 こんな時だが、唐突に大気は思った。
 こんなことならあの時の士郎さんのお誘いも承諾するべきだった、と。
 士郎さんの声で蘇る。
 『君ならいろんな意味で逸材と慣れるだろう』という誘い文句が。
 
 動けずにいるとやがて、その化物がいた場所に一人の少年が現れた。
 金髪の、物珍しい服装をした少年だった。
 なにやら呪文を言ってるらしいということは大気の耳にも聞こえたが、何を言ってるかまでは分からなかった。
 呪文がさらに大気に恐怖を与えた。

 再び化物が現れる。
 だが……大気はその時、その瞬間恐怖に耐えかねてついに

 む、無理!
 こんなの絶対無理だから!

 草陰から飛び出し背を向けて逃げ走っていた。
 
 大気は思う。
 これはきっと帰るのが遅くなった罰とボールを無くした罪なんだ、と。

 大気は家に帰って泣いて両親に謝罪した。





◆  ◆  ◆





「変な夢を見たの」


 なのはは夢をみた。
 悪夢のような変な夢だった。
 だが、そこにはいたはずの逃げ走る少年の姿は無かった。

 まあ逃げ走る少年の姿があったら、それはそれでさらに変な夢である。
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