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第八話 (空気のやつ)

 大気の放課後の時間はたいていはサッカーの練習に当てはめている。
 中には友達と学校の校庭で遅くまでワイワイガヤガヤと遊びでやることも多いが、その遊びの中でもどこかしら問題点を見つけて課題に取り組むといった真面目さ。
 生来運動が苦手でもなく、むしろ体を動かすのが好きだった大気にとっては全く苦ではないことであった。

 アウトドアに勤しむ日もあればインドアの日もある。
 学校や公園でのサッカーとは打って変わって、時には図書館で読書という日も多分にあった。
 割合的には6:4程度でやや図書館に行く日は少なくなっているが、今の大気にはそれで十分だった。
 図書館は学校と市、市でも海鳴市と遠見市、合わせて三つの図書館を使い分けている。

 市の二つの図書館で使い分ける意味は本に先約があった場合における、カバー的な意味が大きいが、意外と揃ってる本が違ったりするという意味でも十分に意義があった。
 市の図書館二つもあれば、大抵の本はその二つで補ってしまえるため、学校の図書館の本の量から見ればわざわざ学校で借りる意味はない、と思われるが、学校で借りられれば手間が省けるというもの。
 大気だって無駄に動きまわるよりは楽をしたい。
 時間をあまり無駄にはしたくないのだ。

 よって大気の放課後の行動範囲は、学校から図書館と公園というとても小さな範囲。
 距離にしては、遠見市と海鳴市の二つの市跨るのだからあるように思えるが、プレイスペース自体は固定化されているので大気の世界は狭いものだった。

 イベント的な面を見れば、神社でのお祭り、サッカーでの遠征、家族旅行ともっと広がるが所詮一時的なものに過ぎず。
 大気の行動範囲は依然小さいものに変わりない。
 総じて言えば、「幼稚園の頃よりは広がったけど、そんなには……」というものだった。

 だから必然と大気の放課後の選択肢は限られたものになる。


「さて、今日はどうしようかな」


 大気は放課後を目の前にした帰りのHRで思い悩んでいる。
 
 いつもならここで、「サッカーしようぜ!」と周りのクラスメイトが言ったのに便乗してサッカーをしたりする。
 無論、誘われることは滅多にないので(誘うのはいつもキャプテン)自分から積極的に参加する。
 だが、今日に限って──最近に限ってはどうもそう安々と学校にとどまる気が出ない。

 学校があるのはここ海鳴市。
 あの怪物がいつでるかわからない場所である。

 幸いにして、昨日の夜聞いた幻聴以外はこれといって異常を感知していないが、大気にはむしろそれが怖かった。

 何も無いとこれはこれですごく怖いよ……

 目の前で異常が起きるのはおぞましい、だからといって目の前以外に異常が起きるのもいつ自分の身に降りかかるか心配になるし、無けりゃないで逆に怪しい。
 疑心暗鬼状態。

 大気は異様に怖がっていた。

 でも、テレビのニュースとかにはなってないからやっぱりあれは嘘だった、とか?

 それならば救い。
 縋りつきたい希望というものだった。

 大気は誰かに言ってほしい。
 「あれは幻だった。現実ではなかったよ」と、その言葉を聞くか、事実を確かめるまでは大気に安らげる時間はなかった。
 一時的な癒しを得られても恒久的にはそれは無意味に等しいこと。
 気を紛らわすや多少の精神安定程度の効果しかない。


「あまりこっちには居たくないけど……」


 いつまで怯えてればいいんだ。
 終りの見えないこの恐怖に果たして、終りが来るのか。
 
 その疑問が解ける訳も無く、大気は放課後を迎えた。


「いつまでも怯えてちゃダメ、だよね?」


 時には勇気を持って動け、とは監督の士郎の言葉だった。
 

「よし、なら今日こそは探索をしてみるぞ」


 今度こそ未知なるものを目指して!
 ちょっとした冒険気分だった。





 大気がまず最初に向かったのは例の公園だった。
 昨日は結局逃げてしまったので、ボール探しすら途中で投げ出した状態である。
 それに可能性があるとすればここが一番怪しい。
 『犯人は犯行現場に戻る』という言葉を信じ、大気は公園にたどり着いた。


「声は……聞こえない」


 この間の幻聴は完全になりを潜めている。
 この分なら安心して公園内を歩けそうでホッとするが、しかし手がかりがないという事を考えると複雑だった。


「ま、安全なら文句はないよね!」


 無理に見つける必要はないんだから、と心の保険。
 目的の化物は見つからなかったが、それで終わりでもなく、今度はもう一つの目的であるボールを探すことにする。
 とりあえず、あの日リフティングした辺りの草木を掻き分けて捜す。


「駄目だ、見つからない」


 他の人に拾われてしまったのかもしれない。
 もしかしたら警察に届けられているかもしれない。
 
 いや、さすがにないか。

 ボールが警察署にあってもそれを渡す方も渡すほうだが、貰うのも恥ずかしすぎる。
 それを考えたら大気は思い出の品と言っても諦めざるを得なかった。

 人間諦めが肝心だよね。

 新しいのも買ってもらえるしね、なんてすでに考え始めていた。
 あっさりと思い出の品を諦めるあたり飽きやすい子供らしさとも言えた。
 
 次なる目的地に向け歩きだす。
 特にあてもないが、全く検討がつかないというわけではなかった。
 海鳴市にはいくつかの大きな公園がある。
 その中でも海沿いにある臨海公園がこの海鳴市では最も大きな公園となる。
 先程までいた公園は街の中ほどにある、どちらかというと遊び場というよりは散歩道に使われるタイプの公園だった。
 これから臨海公園まで行くと帰るのが遅くなってしまうので今日の探索ではいけない。
 
 化物が潜んでいる──潜みやすそうな大きな公園を候補から外すと、他には何があるかと大気は考えた結果、ホラー物の定番神社に思い当たる。
 
 神社、といえば色々な怪談話のモチーフにされる建物で、そういったものが集まりやすいという性質がある。
 過去に大気は海鳴市のお祭りで一度だけ神社に行ったことがある。
 その時には当然ながら違和感も感じず、純粋にお祭りを楽しむことが出来た。


「そういえば、可愛い子狐がいたような……」


 狐といえば神社の象徴に扱われることもしばしばある神聖な生き物。
 その狐を大気は海鳴にある名も知らない神社で見たことがあったような気がした。
 気がしたが、まあ関係の無いことだと切り捨てる。狐なんていなかった。
 
 事態がややこしくなることを辛うじて避けた大気は、神社への通り道の途中に図書館に寄ることにする。
 何も神社が怖くなったとか、狐で思い出したけどこっくりさんが怖いだとかではない。
 ちょっと暇つぶしがてら、そう、何かのヒントが得られるかもしれないと思って図書館へ入ったのだ。

 図書館の中は喧騒な外とは違う異空間だと大気はいつも思う。
 それは隔壁された空間のように感じるし、癒しの空間のようにも感じていた。
 いうなれば、安全地帯。
 ここにいれば危険である世界から解放されたかのような気分になれ。自由に羽を伸ばすことが出来た。

 大気はこの空間がたまらなく好きである。

 侵されない絶対領域というのだろうか、そういったものを直感で感じてるからこそ図書館にいると安心できていた。
 ここ以外に安らげる場所といえば、他に思いつくのがこの町では自宅か……


「士郎さんの家だよなぁ」


 どことなく雰囲気で、安全そうな気がする。
 あくまでそんな気がするだけ。
 雰囲気の原因と思われるのは異質とも取れるあの住宅街には珍しい道場があるからかもしれない。
 住宅街に普通は道場はないのだ。英語教室ならあるかもしれないが。

 小休憩がてら図書館に寄った大気だが、これといってやりたいことはなかった。
 とりあえず、水分補給をしていつも読む小学館の文庫本コーナーを適当に眺める。
 ここにある本は比較的分厚いもので連載ものが多い。
 かの吸血鬼が主役の小説と同じ作者の悪魔が出る小説とか、不遇の待遇されるが後に魔法使いになる本などがあった。

 どれも一度は読んだことのあるものだった。

 同じ本を何度か読むということは大気はあまりしなかった。
 できれば色んな本をたくさん読んでみたいと思っていたからだ。
 だが、今現在は特定の読みたい本がないのでとりあえず一冊既読済みの本を手にとった。

 前に読んだことあったけど、ま、いっか。

 もう一回読むことで理解出来ることが増えたり、世界が増えたりするかもしれない。
 そんなことを考えつつ注意深く読む。

 が、半分ほど読んだ時ふと顔を上げる。


「あ、小休憩だった。危ない、危ない。本来の目的を忘れるところだった」


 まだまだ日が高く、空が青いことからそんなに時間が経っていないようで安心する。


「久しぶりに読んだけど、また読みたくなっちゃったな。……借りるか」


 熱が入ってきたので、ここで借りていくことにする。
 この思考の何処かに、本の分厚さから鈍器にならないかなって思っていたことは否めない。
 この本が血だらけになるのはちょっとおぞましいがなんだかお似合いな気がするとか思ったりもしていた。

 図書館で武器(本)を借りると、いよいよ矛先──歩先を神社へと向ける。

 神社は翠屋に比較的近い場所に位置する場所にある。
 図書館からならそれほど距離があるわけではないが、駅からは多少遠ざかってしまう。
 行くのはそんなに苦労しないが、帰るのに多少時間がかかりそうだった。

 大気はそのことを多少気にしつつも、何もなければ帰るのもそんなに遅くならないので大して問題としていなかった。
 もとより、歩いたり散策が好きでこれは趣味の分野に当てはまるのだから、嫌なはずがなかった。
 強いて言うなら、道に迷わないか心配だったり、帰りが遅くなって怒られる可能性があるのが心配なだけだ。

 道を確認しつつ神社へと向かう。
 すると5分少々で目的地だと分かる鳥居と階段が見つかる。


「おー、懐かしいな。よく二段上がって三段降りる遊びを……あれ? 逆だっけ?」


 思い出を掘り起こしながらも、階段を登っていく。
 登っていると、ふと思いついたのが階段トレーニング。
 この階段を使ってサッカーのトレーニングが出来ないか、ということだった。


「体力と筋肉のトレーニングの可能性がありそうだけど」


 ここまで来るのが面倒だな、と一蹴。
 だが、せっかく来たのだからついでと言わんばかりに階段を駆け上る。

 ももを胸近くまで上げ!
 階段は飛ばさず!
 えっさ! ほっさ! と掛け声かけて!


「んー、飽きた」


 二十段で諦めた。
 二十一段目はなく、二十二段目がやってきた。
 つまり一段飛ばしだった。手抜きである。


「さすがに、この圧倒的な段数見たらやる気が起きないなぁ」


 先程までのやる気は蒸発してしまったようだった。

 努力はする。
 それは自主練をしてることからもわかることができるが、だからといって努力が好きというわけじゃない。
 朝早く起きて走り込みなんてもってのほかで、見るからにやる気を失わせる物量を目の当たりにする努力も嫌だった。
 つまり、校庭十周とかそういう類の先は見えるが遠い練習は嫌いだった。
 大気にとって自主練は必要なことであると同時に、どこか趣味のようなものだったから続けることが出来ているだけだった。

 怠慢、というわけではない。
 ただ飽き易いだけ、それだけだった。
 校庭十周とか考えただけで飽きそう、というだけの話だ。

 大気は階段を丁寧に一段飛ばして登っていく。
 徐々に頂上が見えてくると、自然と頬がゆるみ、笑みが浮かぶ。
 それほどの苦行というわけではないが、頂上にたどり着くという達成感が良かったからだ。
 
 大気は知っている。
 この神社からの眺めは良く、街を一望できるというわけではないが中々の景色であることを。
 過去、夜にこの神社でのお祭りに来たときに見た光景は、美しいという言葉を知らない当時幼い大気でさえ感嘆の声を上げたほどだった。
 直感的に、人間の感性に直接訴えかけるようなそんな景色だった。
 今も深く、それは脳に焼き付いていた。

 自然と足早になった。
 早く景色を眺めたいと思うと、耳に痛く響く轟音も気にならない。


──轟くような獣の声も気にならなかった。


「え……な、なにこれ」


 気付いた時にはすでに遅い。
 
 目の前に広がるその光景は、大気が望んでいたものとは全く違うものだった。

 居るは獣、化物。
 追い求めていたのとは違うが、追い求めていたはずのこの世ではありえない物。

 戦うは子、少女。
 どこかで見知っている、だが謎の力を行使している現実ではありえないことをしている者。

 大気に選択肢は一つしかなかった……
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