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小説挑戦


ボツ作品広場

第九話 (空気のやつ)

「もしさ、目の前に化け物が現れたらどうする? 信じる、信じない?」
『ちょっと難しいなぁ、その質問。でも、うん、目の前にいたら信じるかも』
「見たものは信じると?」
『というより、吸血鬼も化け物だから、吸血鬼以外の化け物がいてもおかしくないよね、って感じかな?』
「へ、へえ、吸血鬼っているんだ」
『実は私がそうだったり?』
「……か、かっこいいね!」
『ありがとう。大気君は優しいね』


 大気は不敵に笑うすずかに少し見の危険を感じた。

 先程までの神社での出来事をいつも通りやり過ごした後、切羽詰まる表情で慌てて家に帰り、すずかへと相談した。
 この手の話はアリサに相談できないことは常識だった。
 もし仮に、アリサにこの手の事を相談すれば、馬鹿にされ、辱められ、哂われて、このよに生まれたことを公開させられるのは明白だからだ。
 だからこそ、大気は迷わずにすずかへと電話で相談したのである。

 神社での出来事──これはもはや彼一人の手に負えるものではないと判断したからだ。

 親に相談するという手段もあったが、無論、アリサほど酷くないにしろ笑われるのは分かっていた。
 いや、逆に真剣になりすぎる可能性があるからこそ相談できないということもあった。

 でも、アリサならもしかしたら勇気づけてくれる可能性も……

 むしろ積極的に関わって、自分の手で解決しようと乗り出す可能性もあったのに気付く。
 そうなったら今度こそ引き返せなくなる。
 アリサなら何がなんでも解決するか、証拠を見つけるまで諦めなさそうだからである。
 大気はそこまで深く付き合うほどの甲斐性、もとい勇気はなかった。


『なのはちゃんが、ね』
「最近変わったところとかあったの?」


 大気はなのはとはそれなりの付き合いだが、あまり近しい関係ではない。
 なのはからはそれなりに気遣ってもらっているのは分かっていることではあったが、その行為に反して大気はどこか突っぱねた態度をとっていた。
 心の何処かになのはに対する恐怖心、があったのかもしれない。
 いとも簡単に人の領域に踏みはいるようなその笑顔は、大気にとっては猛毒のようなもので空気という最近では、「もしかしてこれが僕のアイデンティティなのかな」と思い始めてる大気にとっては危険なものだった。
 しかし、それとは他に嫉妬という感情も混じっていた。
 
 主人公のようななのはに対する嫉妬。

 脇役が主役に向けるような、そんな感情だった。
 
 大気はいつだって自分が主役となり、舞台のスポットライトを浴びることを望んでいる。
 切に願っている。
 だからこその嫉妬。執着。
 あるいはライバルに同情されたくない、といったものかもしれない。

 苦手意識から嫉妬、ライバル心への変化だった。
 それは今日の光景を見て、より一層育っていった感情だった。

 まるで魔法を武器に悪いものと戦う魔法少女みたいだったよ。

 大気のあの場面での感想だった。


『うん、ちょっとね。大気君には……分からないよね』
「分かる訳ないじゃん」
『なのはちゃんがいると威嚇してる猫みたいだもんね』


 今日のお昼はそうでもなかったけど、と。
 
 いつもそんなふうに威嚇してるつもりがない大気だったが、今日のお昼は確かにいつもと違ったことだけには頷く。
 あの時、あの瞬間だけ大気は、なのはのことを仲間と思ったのだから当然である。


「ね、猫!? それはどっちかっていうと「にゃはは」と笑うなのはじゃないの」
『私からすると、二人ともかわいい子猫ちゃんだよ』


 なんでだろう、今日のすずかの笑いはなんだか怖い。
 大気は身の毛がよだつのを感じた。


『でも、そうだね。なのはちゃんの件は少し気になるね』
「なのはだけじゃなくて、僕の身の安全も気になって欲しいところだよね」


 大気は身一つで危険地帯につい数時間まで身を置いていた。
 たとえそれに到るまでの経緯が多少あれでも、巻き込まれたのはまず間違い無く大気だった。
 誰にも気付かれなくて、その危険地帯にいたので何の危険もなく敵意も向けられず、友達だと思ってた存在に気付かれずとも巻き込まれたのは間違いのないことだった。
 空気でもそれは変わらない。
 いないと同じような存在でもそれは変わらない。


『もうッ! ちゃんと大気君のことも心配してるよ。でも、ほら、大丈夫って言う信頼があるから口に出さないだけだよ』
「納得しきれないけど、そういうことならいっか。ええと、ありがとう?」
『どういたしまして。それで、なのはちゃんのことだよね』
「切り替え早いとなんか、悲しくなるなー」
『今度みんなでお茶会とか開いてみる?』
「それはいいけど、僕に対する扱いがさ」
『信頼だよ? 信頼』
「うん、もういいよそれで」
『そうじゃなかったら、あんな危うい冗談も言えないし……』
「ん? なにか言った?」
『ううん、別になんでもないから。それじゃまた明日学校でね』
「そうだね……うん、学校で」


 すずかの自分に対する扱いってこんなに酷かったっけ、と思いながらもあまり考えないようにする。

 電話を終えると、ぐてーっとベッドに身を預け、深い溜息をし、思いきり、んーっと背伸びをした。
 今日一日は大気にとってあまりにも大変だった。
 多少望んだとは言え、ほんとうにいるとは思わなかった化け物との遭遇。
 そこにまさかのなのはの介入がありき。
 どうして、いつのまにか自分の周りがこうも非日常めいてしまったのだろうと考える。

 非日常を望んだことがあったか?
 ない、といえば嘘になるが特別あったわけではない。
 憧れは……あったかもしれない。

 あればいいなという興味があって、あっても怖いなという恐怖があって。
 でも、それとは別に巻き込まれるのは勘弁という気持ちもあった。

 正直に言えば、今日見たものだってなかったことにして、明日から平然とするという手もあったのだ。
 何も見なかったし、あそこには行かなかった。
 化け物なんて存在しないし、不思議な力なんてありはしない。
 こういう態度を取ることだって出来たのだ。

 見ていたのは大気だけ。なぜあれほどのことが起きて誰も気付かないのかは不思議だったが、それは考えても分かることではないし、分かるとも思わない。

 目撃したのが、大気だけならそれこそ本当に現象事態を無視したって誰も気付かないのだ。
 誰も気付かずにいられる。
 気付かずに全てが終わるかもしれない。
 そんな可能性がある以上、大気は無理をして関わる必要性はないのだ。
 可能性がないとしても関わる義務はない。

 大気は陰が薄いところを除けば、それこそなのはではないが極々平凡な小学三年生。
 読書とサッカーだけが生きがいな少年なのだ。
 誰が、そんな異常事態に関われと言えるだろうか。
 大気には目を瞑り、現実から目を逸らすことをしたって誰も怒らないのだ。
 
 だがしかし、大気は関わることにした。


「友達が巻き込まれているのに見て見ぬふりは出来ないよね」


 友達が戦ってるかもしれない。
 自分にとって数少ない友達が困ってるかもしれない。
 苦手とは言え、ちょっと嫉妬があるとは言え、だからと言ってそれが助けない理由にはならない。

 そう……大気は友達を見捨てることが出来ない、情に厚い男だった!
 
 友だちが少ないから割り当てられる情が一人一人に多くなっているに過ぎないが。


「ま、今考えても仕方ないよね。今日は寝よ寝よ。お風呂入ってすっきりして寝よ」


 明日は明日の風が吹くさと言わんばかりに、今日寝ることにする。
 明日こそはいい天気になりますようにと願って。





◆  ◆  ◆





 月村すずかは、恋慕に限らず友情だとかそういった気持ちを抱いたことは生まれてから一度たりともない。とすずかは思っている。
 それは幼さ故、というよりは男の友達がいなかったことが理由になる。
 小学三年生ぐらいの年頃ならば、憧れの先生がいたり、父親を好きになったりするかもしれないが、そういったものさえもなかった。
 どこか大人びているや達観しているといった、子供らしくない子供であったからかもしれない。
 そのせいか、男友達はおろか女友達さえ出来なかった節があった。

 それが変わったのはいつからかすずかには思い出せないが、きっかけだけはしっかりとその胸に、脳の中枢部に刻まれていた。

 初めての友達は誰よりも陰が薄い男の子だった。

 最初は観察対象といった面が大きかったが、最近では気軽に冗談を言える友達というクラスアップを果たしていた。
 これはすずかの中では大出世で、この調子ならいつか本当のことを言えるんじゃないかと期待をしている。
 だが、その本当のことのせいで彼を失う可能性があることも分かっていた。
 

「でも、なんとなくだけど平気そうなんだよね……」


 空気のような存在だし、と独り言をつぶやく。
 この本当のことは本来ではあれば普通の人が知ることのない禁断の内緒話。
 知ってしまったら最後……なのだ。
 しかし、こと大気に知られたとして教えたとしても問題がないような、そんな気がしていた。
 知られても空気なあの子だから、その後どうにでもなるよねという感情もある。


「大気君押しに弱そうだもんね」


 ふふっ、と意味ありげに笑う。
 最近、その笑い方が板についてきたすずかだった。

 その空気よりやや遅れて友達となった二人の少女のことを考える。

 一人、気が強くていつも怒っているイメージがある金髪の少女。
 すずかよりも早く空気と友だちになったという少女、アリサ。
 出会いは、なんとも嫌な感じだったが今ではいい友だち、親友の片割れである。

 アリサとは二人で話すことがかなり多い。
 それは塾が一緒という理由の他に、元からの共通の友人を思っていたからでもある。
 
 初めの頃のアリサとの会話は殆ど愚痴だった。
 とある少年の愚痴だらけである。

 「あいつはあれだから」「そんなんだから空気」「陰が薄い」「存在感がないわ」などなど、出てくるのは悪口の数々。
 でも、それを言ってるアリサの顔は楽しそうだった。
 たぶん……人の悪口を言って楽しんでるわけじゃない……と思う。

 大気君のことが気になるからだよね? ね?

 今となっては真実は闇の中だが、そう信じたかった。
 すずかの気分としては、友達の昔からの幼馴染の惚気話を聞いている気分だった。
 内容は酷かったが。

 もう一人の片割れは先程の議題となっていた、自称極々平凡な小学三年生。
 運動神経はあるようないような、でも空間把握能力は異常!
 勉強で苦手なのは語学だけで、理数は天才クラス!
 これで平凡とか大気が泣きます、という高町なのは。

 頑固で優しくて、すごく芯の強い子。
 すずかにとってはある種の恩人みたいな存在だった。
 もし、あの場になのはがいなかったらと思うと──否、思っても考えられない。
 今ではすっかり三人ないしは四人でいることが当たり前なのだ。
 そうじゃないことなんてすずかは考えられなかった。
 
 考えたくもなかった。


「それにしても、なのはちゃんが化け物と、ね……もしかして私も退治させられちゃうのかな?」


 一抹の不安を覚える、が同時になのは相手ならそれでもいいかなと思うすずかがいた。
 過去何度、死にたいと考えたか分からないすずかだったが、考えた死のパターンでもっとも安楽死に近いものかもしれないと思い浮かべる。
 
 某自殺願望の吸血鬼じゃないが、その死のパターンには焼死もあった。
 もちろん、すごく苦しみそうだし、他所様に迷惑をかけやすい点からすぐに却下したが。

 しかし、今となっては簡単に死ぬわけにはいかないと考える自分がいた。
 
 それは一握りの希望でもある。
 この化け物の自分を許容してくれる可能性のある友達がいるのだ。
 まだ、死ぬわけにはいかないのだ。

 姉に許容できた人が隣に出来たように、それは自分でも不可能なことじゃない。
 すずかは心で何度も、何度も自分自身に言い聞かせる。
 いつかきっと必ず。

 何も人生の目標を持って生きているのは大気だけじゃなかった。
 抱える闇の規模ならすずかも大気に負けていない。


「なのはちゃんのことだから、一人で抱え込みそうだよね…………あ、それはなのはちゃんに限ったことじゃないか」


 なのはもアリサもすずかも大気も、意外と一人で塞ぎこむタイプだ。
 人に相談しないというよりは、何がなんでも自分で解決しようとする。
 大気は少し横道にそれたり逃げたりするが、アリサは正面から真っ直ぐぶつかっていきそう。
 すずかはそれぞれの壁にぶつかったときの対応を想像しながら、小さく笑った。
 
 昔では考えられないような、本当に幸せそうな笑みだった。


「……あ!」


 さて、これから寝ようかという時になにか大切な事を思い出し、声を出した。
 しまったという表情で手を口に当てて、どうしようかと悩む。

 大切なこと、それは……


「大気君をプールに誘うの忘れてた」


 でも、また明日言えばいいかと思い今日はとりあえず寝ることにする。
 数日後、結局誰にも誘われずに、一人虚しく公園で球蹴りをする大気がいたとか。
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