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小説挑戦


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第十話 (空気のやつ)

 月村家は日本でも有数のお金持ちである。
 名家ともいえる月村家は大層ご立派な家を持っており、その一つが海鳴市にある。海鳴市と言っても市街地から少々遠い場所に位置しており、そこにわざわざ赴く人間は家の関係者以外ではあまりいない。
 海鳴市にあるその家は、豪邸であり月村邸と呼ぶにふさわしい趣と敷地がある。広大な庭に大きな居住地と、使用人が何人か住み込みをしなければ手入れが行き届かないほどの大きさである。
 
 この家に住んでいるのは、月村家の父と母、そしてご令嬢であるすずかと忍。さらには月村家に仕えているメイドが二人、ノエルとファリンである。
 父親と母親は忙しいため、家にいることは少ないが、その親の愛情が足りない分も二人のメイドが補っている状態だった。また、忍もすずかも年齢上に物分りが良くて聡明な為、親への心配をあまりかけていなかった。

 忍もすずかも大の猫好きである。
 家にはその広大な庭に野放しにされた猫、子猫たちが自由に羽を伸ばしており、その数は飼っている当の本人たちでも全ては把握しきれていなかった。
 だが、それにも関わらずしっかりと一匹一匹に名前をつけて、それを見分けている所を見ると、非常に猫への愛情を感じることができた。

 実はこの家、防犯設備もなかなかのものである。
 父と母が工業の開発系の仕事を生業としているのも影響して姉妹で、機械を弄るのが大好きである。特に姉の忍はそれが顕著に出て、自称発明家の名を名乗っていたりもするほどだった。
 発明した物の使い道はどうあれ、技術としては十分に実用段階のものが多く、その発明品の中に防犯設備もあったため、この家の防犯が強化されたという背景があった。

 ここ最近の忍の一番の発明は、自動お掃除ロボ兼見回りロボで、ドラム缶のような丸い機体はどこか某学園都市を彷彿とさせた。
 クオリティは……あまり触れないほうがいいかもしれないが。あと、爆発オチがついてまわる。

 それはさておき、大気はこのご大層な家に何度か尋ねたことがある。
 尋ねたほとんどが幼稚園の頃で、すずかにお呼ばれされて行ったものだが、その時の印象はあまりに強く、未だによく覚えていた。
 尤も、その時の思い出で一番覚えていたことは、猫を抱き上げたときに毎回猫が驚く表情をして慌てて逃げようとして引っかかれた痛い思い出だった。
 
 抱かれるまで気づかないって動物としてどうなんだろう……

 猫の警戒心の薄さに大気は猫を案じたが、猫からすれば人間ってこんなに気配消すのに手練れてたっけという話で、きっと、この気配消す高レベルな技は高町の兄さん依頼だ、と思っていたに違いない。

 猫に引っかかれようが、気付かれまいが、大気は自然と動物を愛している。
 特に犬と猫などの愛玩動物は素晴らしい、是非とも我が家でも買いたいと思っていた。
 
 だが、現実的に考えて犬や猫を飼ったときに、飼い主のことを忘れられたり覚えてもらえなかったりすると、大気は自分が相当傷つくのを知っているので飼うことが出来ない。
 ネットで見かけたペットが自分よりもお客さんに懐いてしまうという現象を考えみると、どうも踏ん切りがつけられなかった。自分がその例に漏れず、というかほぼその現象に陥ることだろうことを予知したからだ。

 甘い考えなど捨てるべき、現実を見ろ! とは彼の父親のセリフである。
 せのセリフを言った父親は母親の顔を遠くから見ながら、あるいは思い浮かべながら哀しみ背をしていた。
 その後の「あの頃はあんなに可愛かったのに」という言葉が、哀しみを強くさせていた。
 大気は無言で、その背中をさすった。

 父と同じ過ちは繰り返さない。

 空知家男衆の新たな家訓であった。

 
「と、そろそろノエルさんが来るかな?」


 今日は月村邸でのお茶会という名のお遊び会という名のなのはの謎追求日である。
 
 大気の家は他二人に比べ、一番家が遠いのでありがたい事に月村家からわざわざ送迎してもらえることになっていた。
 なんだか偉そうで嫌だな、と大気は小心者ゆえにちょっと心苦しさを味わっていたが、しかし実際行くとなると色々と面倒なのでご好意に授かることにしたのだった。
 
 現在は、ノエルの送迎の車を家の前で待っている所だった。


「あ、来た」


 オープンカーにもなる見間違えることなき、その車にすぐに気づいた。
 家の玄関のすぐ近くに静かに止まる車を見れば、ノエルの車の運転技術の高さに気付くことが出来るだろう。


「大変お待たせいたしました。大気様おはようございます」
「おはようございます、ノエルさん。うん、忘れられず目の前でちゃんと車が停まるのはなんだか嬉しいね!」

 
 懐かしき幼稚園時代を思い出す。
 送迎があるあはずのバスが来ることは稀だった。
 目の前でこうやって送迎がちゃんと来るのは何年ぶりだっただろうか。
 大気は思わず涙が出そうになるが堪える。ノエルの前で無様晒すわけにはいかないという、ちょっとしたプライドだった。

 ノエルはそんな大気の様子を見て、なんとなくだが察した。
 大気の特異体質にもちろんノエルは気づいていることから、今大気が感傷的になっていることの大体の予想が出来ていた。
 この洞察力と予想がノエルがメイドで優秀であることを証明する一部分だった。
 そして、気遣いも忘れず、そんな大気の様子を見ないように気付かないようにした。


「それと様っていらないよ。その……なんだか、偉そうじゃん」


 ファリンはノエルに比べてこう言うとそれ以来フレンドリーに接するようになっていた。たまにふざけて、坊っちゃんとか言い出すほどに。
 その度に大気は苦笑して、ファリンを注意した。
 隣ですずかは静かに微笑んでいた。


「いえいえ、お客様にそういう態度は出来ませんので。……それに」

 
 なんでしたら未来の旦那様がよろしいですか?

 大気は懐かしくもいつも通り過ぎるそのやり取りを楽しみながら、ノエルに怒りながら突っ込みをする。
 ノエルは口調はすごく堅苦しいが、こうやって冗談を言い合える柔軟さがある。大気はそこがたまらなく好きだった。

 旦那様はないよ! と笑いながら言う大気はどこか満更でもなさそうな表情をとるのを見てノエルは内心でホットする。
 まだ、脈アリだ、と。

 挨拶と多少の会話を玄関口ですると、車の窓が開かれる。


「やっほー、おはよう、大気君。久しぶり」
「あ、忍さん。おはようございます。お久しぶりです」


 ヒョコっと開いた車の窓から顔を出したのは、今日も元気そうな月村すずかの姉、忍だった。
 空と同じくらい晴れんばかりの笑顔をしている忍は、今日も絶好調だった。

 大気はノエルと同じくらい久しぶりに会う忍の顔を見て、相変わらずだなと思いながら、丁寧に挨拶をした。
 大気が忍と話したことはそんなにはなかったが、いつもこうやって自ら明るく接してくれるのを見て、嫌な感じはしなかったし、すごくいいお姉さんといったふうに思っていた。
 こんなお姉さんがいればとはこそ思わないものの、自分の中の理想的なお姉さんの分類に入る忍は美人であることも相まって大気にとっては非常に慣れ親しみ易く、また仲良くやっていきたいなと思ってる人だった。


「うん、それじゃいつまでも立ち話じゃなんだから入った入った!」
「あ、はい。失礼します」


 ノエルがドアを開けて誘導してくれる。
 
 玄関から家に向かって、じゃあ行ってくるねと中にいるであろう母親に一言挨拶を言ってから、お願いしますと声をかけ車の中に入る。


「さー大気君、ここに座りなさい。それともお姉さんの膝がいい?」
「し、忍さん! これでももう小学三年生です! さすがにそこは恥ずかしいです。そ、それに……迷惑ですし」
「そ? 別にそんなことないけどなぁ。むしろ嬉しいかもよ?」
「嬉しいって……」
「ノエルー、私弟欲しかったんだ。こんなふうにすぐ照れる可愛い弟が」


 弟って……と、呟く大気を尻目に、忍はテンションをドンドン上げる。
 ここぞとばかりに攻め立てる。


「ねえ、大気君、ここは思い切って弟にならない?」
「へ?」
「ううん、養子って訳じゃなくてね。すずかと結婚してくれたら忍さん的には一石二鳥だなって」
「ちょ、ちょっと忍さん!? そ、そりゃ月村さんとなら嬉しいかもしれないですけど、そうじゃなくて!」
「お、満更じゃなさそうだね。良きかな良きかな。それにしても、まだ名前で呼んでなかったんだね?」
「あ、そういえば」


 今更ながら、大気は気付いた。
 なのはは会った時からなのはって呼べと言われていたし、アリサも同じようなもんだった。それに比べて、すずかに対してはずっと苗字のままだった。
 特に変えてくれとか、そういうのも無かったがために、そのままだった。


「今度名前で読んでみたら? というか、今日名前で読んであげなよ」
「え? でも、それって気安すぎませんか?」
「うーん、そんなことはないと思うよ。むしろ、気付かないかも」
「そういうもんですか?」
「そんなもんだよ」


 実際はそんなことないけどね、と忍は心中で呟く。
 すずかも若干9歳とは言え十分に恋を意識する年頃である。むしろ、幼い頃より聡明で早熟の彼女は、おませさんである可能性が高い。
 その事からも異性から急に名前で呼ばれるようになれば、それ相応に想うものがある。
 忍は自身の経験を含め、それを知っていたが、あえて大気には言わなかった。

 ふふ、私はこう見えても小悪魔的な恋のキューピットなのだよ。

 ノエルもその忍の心中を察していながら言わなかった。
 主従そろっていい性格をしていた。

 大気はそんなことを露知らず、おしゃべりをしながら月村家への過程を楽しんでいた。

 やがて高町家に着き、なのはと忍の婚約者である恭也を回収して、今度こそ月村家へ一直線に向かっていった。
 車の中に居るのは総勢5名と、なかなかの量だが、大気となのはは小学生とまだ小柄なので比較的余裕を持ちつつ、話題が尽きることなく月村家へと到着する。

 しかし、大気はそんな車の中で少し怯えていた。
 何故か、恭也の大気に対する視線が強かったのだ。殺気、というほどのものではないが、明らかに注意をしているのは誰の目にも明らかだった。

 大気はなのはの話から恭也が妹思いなのを知っていたので、知らぬ男に対する妹を守るための視線なのかと思っていたのだが、どうやら違うということを、車から降りて謎のプレッシャーから解放されたときになのはに教えてもらう。


「あのぅ……ごめんね! 大気くん。お兄ちゃんはね、なんか前に大気くんに後ろを取られたことを今も悔しいらしいの。それで、もう二度とそんな事がないようにって、一生懸命注意をしてるんだって。だからごめん! 悪気があるわけじゃないの、ただ、ちょっと不器用なの……」


 妹による必死の弁護だった。
 大気にとってなんのことかさっぱりだったが、きっとこの人にとっては大切な事だったんだろうと、大きな心を持って、なのはに「大丈夫、別に切られるわけじゃないし」と少し苦笑しながら返答した。
 むしろこの程度のことで、なのはなんでこんなに必死なんだろうかとか思ったぐらいだ。

 なのはは切られるわけじゃないという部分に心臓が跳ね上がり、それを誤魔化すように、「そうだよね、き、切られわけじゃないもんね」と言ってにゃははと誤魔化すように笑った。
 なのはは最近必死に剣(真剣)を振るってる兄の姿を知っていたので、内心気が気ではなかったりする。お兄ちゃんに限ってはそんなことは……信頼してるものの、こと剣術になるとどうなるか分からないのでいまいち確証が持てないので怖かったのである。

 なのはとそんなやり取りをしつつ、歩いて行くと先に待っている友人が二人いた。


「もー遅いじゃない! 待ちくたびれたわよ。おはよう、なのは、大気」
「アリサちゃんも早く会いたかったんだもんね。おはよう、なのはちゃん、大気君」
「別にそんなんじゃないわよ。早く、紅茶が飲みたかっただけよ」
「にゃはは、ごめん、おまたせ。おはよう、すずかちゃん、アリサちゃん」
「紅茶くらい先に飲めばいいのに……おはよう、アリサ、すずか」


 大気がすずかといった瞬間、すずかの目がきらりと光ったが、本人以外は誰も気付かない。

 大気は何気なくすずかのことを呼び捨てで、下の名前を言った。
 もちろん、緊張したし、どういう反応が返って来るかと思って、少し心配だった。


「大気君。アリサちゃん、みんなで飲みたいからって言ってたんだよ」
「そういうことか、それならそうと言えばいいのに」
「ば、バカ! すずかは何で言ってもないことを言うのよ!」
「私はアリサちゃんの気持ちを代弁しただけだよ?」
「すーずーかー!」


 すんなりと受け入れられて大気はホッとした。

 なんだ、忍さんが言った通りか。
 なんも気にする必要なかったんだね。

 みんなでアリサとすずかのコントを聞いて笑い、ファリンが危なげ無く届けてくれた紅茶を一口飲む。
 そして、ふとアリサが真面目な顔になって一言、爆弾を投じた。


「じゃあ、なのは、説明してもらうわよ?」
「ふぇ?」
「ユーノの事と、そしてあんたの持ってるその力のことを」
「え、何で魔法の事を!? ……あ!」
 

 一瞬、静寂が訪れる。
 なのはがしまったという表情をする。しかし、時すでに遅し。

 アリサがにやりと笑う。
 すずかがやっぱりと頷き。
 大気がもしかして面倒事じゃないよね、と今更ながらに後悔し始めた。


「にゃ、にゃはは……どうしよう、ユーノ君。バレちゃった……」
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