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小説挑戦


ボツ作品広場

第十二話 (空気のやつ)

 状況は一変した。

 大気にとってはなんだか自分が予想以上にこのお茶会は空気だなと思いつつも、魔法という存在が出てきたりユーノというしゃべる動物が出てきたりと、物語の中心にいるような``錯覚``を覚えていた。
 現実だけど現実じゃないように思わせられるような不思議な感覚が魔法という言葉と可能性に秘められていた。
  魔法はあればいいなと考えたことは幾度となくあったが、実際に目にすると興ざめしたような自分の中で冷めていく感情にも気づいていた。

 夢や理想は叶うと儚く感じる。

 どっかで読んだことあるような聞いたことがあるようなそんな言葉を頭の中に浮かべる。
 自分がそんな感覚なのかは、自分自身のことだがよく分からなかった。しかし、それでも魔法には可能性を感じていた。

 いつのまにか魔法は「あればいいな」から「使えればいいな」に変化していたのだ。

 なのはから発せられた砲撃なんて言う物騒極まりない言葉もあったが、ユーノが見せてくれた人への変身(あくまで元の形態が人であることなど考えていない)は面白いの一言に尽きるものだった。
 面白さは興味を引き立てるが、興味へと変わったときには憧れも生まれてくる。
 だから、大気は気づけば魔法が使えたらと思い始めていたのだ。

 自分の考える魔法を黙って考えていたら、なのはたちの話に着いて行かず、いつのまにやら空気と化していた。

 いつも通りの光景だった。


──状況は一変した。


 巨大な猫の登場である。
 大きな大きな子猫の登場であった。


「な、なんなのよ、あれ!!」
「あんなに大きな子猫、ウチにいたかな?」
「いるわけ無いでしょ!」
「な、なにあれ!? ゆゆゆ、ユーノ君! あれってもしかしてっ!?」
「ジュエルシードだ……」


 アリサが一番大きな声を出して、すずかが一番のんびりと感想を言い、なのはが一番慌てて、ユーノはただ謎の言葉を発した。
 
 こういう時のすずかの言葉ってすごく落ち着いてて気が楽になるよねと見当違いの感想を抱きながらも、大気はその大きな子猫を見た。

 子猫は大きくなっても可愛いままだね。

 大気は変わらず論点のずれたことを考える。
 これは一種の現実逃避で、目の前で起きた光景を脳がまだ正しく理解していないからこその考えであった。いつもの大気なら間違いなく逃げ出した。おそらく、我先にと一番に逃げ出したであろう。
 
 ……そして、逃げ出したにもかかわらず誰にも気づかれない未来が待っている。
 でも大丈夫、家に帰れば両親が暖かく彼の心を癒してくれるはずだ。
 待機の心の拠り所は結局のところ過程に落ち着いていた。

 現実逃避もそこそこに、大気はこの後どうするべきなのかあたふたする。
 アリサとすずかもそれは変わらず、いや、すずかは相変わらず落ち着いてはいるが何か行動を起こそうとはしてなかった。楽しそうに笑うだけである。
 そんな彼らとは違って、ユーノはすぐに自分のするべきことをする。


「広域結界ッ!」


 空間がこの世のものとは隔離され、外部へと被害を及ばさないよう、また外部へと内部の出来事が漏泄しないための魔法の処置である。
 外部への対処なので、内部の干渉ではなく被害が抑えられるというだけで、なくなるというわけではない。また、その後に修正できるわけでもないので、早急の対応が必要だ。
 そこで、なのはの出番である。


「ユーノ君!」
「うん、なのは、お願い!」


 王道といえば王道の魔法少女の変身シーンだが、ユーノと本人を除く三人はただ目の前の光景。魔法による結界となのはの変身という場面に呆然としている。
 何が起きているか分からず、立って見ていることしかできないでいる。それもちゃんと見えているかどうかも怪しい物で、大気にいたっては目を擦って、目をぱちくり。アリサは右手で自分の頬を抓り、すずかは笑っている。
 
 関係はないが最近、すずかの姉の忍は「妹の笑みが怖い」とノエルに相談していた。

 なのはが空を飛ぶ。
 そのどうも現実離れした光景に「ああ、なのはは魔法少女になったんだ」と三人は心で呟いた。
 先程からありえない出来事を見てはいるが、いざ親友が空を大真面目に平然と、さも当たり前かのように飛ぶ姿を見ると改めてその現実味の無さを感じていた。
 しかし、どこかなのはなら似合っていると思うのだから不思議でしょうがなかった。

 やっぱりなのはって主人公なんだね。

 それなら僕は君の敵だ、と勝手にライバル設定を作る大気をよそになのはは猫と対峙していた。
 なのは対猫の一部始終を目にする一般人組の三人だが、やがて森(庭)へと隠れてしまったので見ることができなくなってしまう。
 慌てて見える位置に移動しようとするが、そこでユーノが立ちふさがった。


「邪魔よ、ユーノどきなさい」


 アリサの言葉はいつも刺があるが、今このときはいつも以上に刺と己の意思が全面に出る強い言葉だった。大気が面と向かって言われたら、ちょっとアソコの部分がヤバい感じになるだろう。隣にいる今もかなりビビっているので、間違いない。
 
 凄い剣幕と強い言葉を浴びせられているユーノだが、そこを退く気配が全く無いどころか、拳を強く握り目はハッキリとアリサを見つめていた。


「退く訳にはいかないよ。君たちを巻き込んでしまうかもしれない。怪我をさせてしまうかもしれないから」
「もう巻き込まれてるわ! それに怪我なら私たちだけじゃなくて、なのはの方こそ危ないじゃない!」


 だからと言って君たちも怪我をさせるのは別問題だ。いいえ違うわ、同じ問題よ。
 両者共に全く引く気配がない。
 
 大気は、先程までその美少年さから儚いイメージをユーノに抱いていた。
 この場においてそのイメージは払拭され、この子はとても意思が強くなのはたちと同じように強い子なんだと肌に感じる。言葉の一つ一つに重さがあったのも感じた理由の一つだ。
 儚いイメージから、自分と同じ待遇のような子が出たと思ってちょっとでも共感と喜びを感じていた自分がバカみたいだった。

 そうか、所詮僕は孤独な存在なのかもしれないね……

 アハハと心の中だけで乾いた笑いがでる。
 裏切り者のレッテルとユーノに貼りつけたいぐらいだったが、それはあまりにも一方的すぎるため断念する。

 まだ早計だよね。もしかしたら彼がカッコイイシーンはここだけもしれないし。

 人には必ず一度はスポットライトが当たる日が来るらしい。それはほんの数分かもしれないが、その当たった出来事にさえ気づけないかもしれないが、それでもあるらしいのだ。
 ならば、今のユーノの状況こそそれではないのかとユーノに失礼ながらも考える。
 
 ユーノも主人公の一人だった場合はその一例に当てはまらないという現実を知りながらも、あえて見ないふりをしつつ、今だけせいぜい目立つがいいと悪態を付いた。心の中で。


「分からないやつね。なのはは私たちの親友なのよ。ここでこのまま見て見ぬふりは出来ないわ!」
「見て見ぬふりと今なのはの元へ駆けつけるのは別問題だよ! 危険なんだから近づいちゃダメだ! それに親友ならそれこそ見守るということも大切じゃないか!」
「あ、あんたに何が分かるって言うのよ! 私たちはもう部外者じゃないのよ!」
「アリサちゃんもユーノ君も落ち着いて」
「確かに巻き込んじゃったかもしれない。その事については何度でも謝る。でも、力のない君たちがあそこに行くのは危険なんだ! 死んじゃう可能性だってあるかもしれないのに」
「なっ……そ、それなら余計にここで見ているだけなんて出来ないわ! なのはがその死ぬかもしれないことに関わっているなら余計に無理よ!」
「だから──」「いい加減に──」

「──す、ストーーップ!!」

「「え?」」


 あ、やばい思わず大声出しちゃったよ。
 僕の短い人生でナンバーワンの大きさだったよ。

 内心でこんなに大きな声が出せるんだと自分の喉に驚きながらも、なんとか周りに大気へと視線を集めることが出来た。
  これまでにないほどの大声を出して力技で自分に視線を集め、喧嘩を止められたという初体験をして、今までにない感覚が大気を襲う。本来なら嬉しいはずの視線だ。
 こんなに注目されたのはサッカーでゴールを決めたとき以来だが、清々しさは感じなかった。嬉しさもなかった。

 アリサとユーノの居たんだという発言に、僕は何を言われても傷つかないなんてことはないのに、むしろ繊細なのに、という言葉を飲みつつどうやったらいい空気になるかを考えながら話す。


「だ、だからさ、あの……」
「何よ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!」
「……ひぃ」
「アリサちゃん、落ち着いて」


 大気にアリサの剣幕が向かってきて、本当に小さく、誰にも聞かれないように悲鳴をあげながらも言葉を発しようと頑張る。
 ユーノの無言のプレッシャーもかなりのもので、ジト目で見られているが耐えながら頑張る。
 幸いすずかは味方のようで、アリサをどうどうとまるでじゃじゃ馬を落ち着かせようとしてくれている。
 しかし、何故だろうか。
 口元はこれ以上ないほど笑っているのは。

 ユーノのジト目は相変わらずだが、アリサの剣幕はすずかに宥められたようで多少弱くなり、正常に思考ができるようになる。


「こ、ここで喧嘩をしてもしょうがないんじゃない」


 なんだかすごくまともにしゃべるのは久々な気がするがきっと気のせいだ。
 そう自分に思い込ませる。
 そうでもしないとやっていけない。


「しょうがないってなにがよ!」
「ほら、そ、それはさ。なのは本人がいないし」
「だから、今からなのはの所に行くんじゃない!」
「違う、そうじゃなくて」
「何よ!」


 もう……アリサ怖いよ! 
 なのは助けて! すずかじゃちょっとアテにならない!

 ライバルで敵と認定した相手にも助けを求めるほど大気は参っていた。

 あ、でもよく考えると、なのはがいいるといつもほんわかするよね。空気が。

 すごく居心地がいいし、と挙句の果てには今いない相手のことを考えて現実逃避するぐらいだった。
 もっとなのはと仲良くやったほうがいいかもしれないと、今までの接した方の軌道を修正しつつ、アリサとユーノの和解に誠心誠意心を込めて、全力で話す。


「なのはがさ、アリサとかすずかが傷ついたら困るんじゃないかなって」
「うっ……」
「だからさ、これからはともかく今はとりあえずなのはのことを──」
「待ってあげるべき、ってことね」
「そ、そう! それだよ!」
「そう言われたら……何も出来ないじゃない……」


 アリサの殺気がこの場からなくなる。
 今までの雰囲気は生きた心地がしなかったと思いつつ、ユーノへと向き直す。
 未だにユーノは無言でアリサの前に立ちふさがっている。


「というわけだよ。アリサが迷惑をかけたね」
「なっ! た、大気!」


 アリサが顔を真っ赤にしながら怒るが気にしない。
 大気は知っている。
 このアリサの状態は恥ずかしいのを無理矢理怒っているように見せて誤魔化している時であることを。
 伊達に長く付き合ってるわけじゃなかった。


「ありがとうございます。ええと」
「空知大気ね。大気でいいよ。それと敬語もいらない。いつのまにかアリサにも敬語使ってなかったしね」
「大気……そう、大気、ありがとう」
「いいって、それに今はこうやって見ているだけだけど、ずっと見ているわけじゃないから」


 全てはなのはが戻って来てから。
 大気お得意の中間戦法、保留戦法だったが、時と場合によってはただの引き伸ばしで、問題の先送りなのだが、この時に限ってはそれが正しいと誰もが感じた。
 これが大気の案が初めて採用された瞬間でもある。
 最初で最後かもしれないそんな瞬間だった。

 大気はその後すぐに、「もしかして、これが僕のスポットライトの当たった瞬間。舞台の主人公になった瞬間だったんじゃないか」と勘ぐるがそれは誰にも分からないことである。
 心配性な大気はこのことをかなり悔やんだりしたとか。

 ユーノがなのはの様子を見に行き、三人はユーノを見送った。
 三人の想いは、なのはが無事でいてくれというただ一つそれだけだった。

 だがその想いは届かなかったのか、次に見たなのはは体中がボロボロになった姿だった。
 怪我しているなのはを見た大気たちは、今すぐどうにかなる状況ではないことを察し、後日また集まることを約束し解散した。

 その帰り。
 ノエルに車で送ってもらい家の付近に近づいたとき、一人の少女が目に入る。
 大気はノエルに送ってもらうのはここまででいいと説得し、送ってもらったことにお礼を言いながら降りる。
 
 大気は悟られないように少女の後をつけた。
 その様子は一見ストーカーのように見えるが、誰も気付かない。大気はもちろん自身の特性を知っているがゆえの行動だ、抜かりはない。

 やがて、少女は一つの高層マンションへとたどり着く。

 大気はどうしても少女が気になっていた。
 

「金髪の少女なんて、滅多にいないしね……」


 なのはが言っていた、なのはを撃墜したという少女の容姿にあまりに酷似していたのだから。

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