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【投稿版】不朽のモウカ

第二十二話(不朽のモウカ)

 逃げ時かどうかを判断するのはとても重要だ。逃げ時を誤れば、敵に逃げ道を塞がれ否応なしに戦闘に巻き込まれてしまう。だが、強引に逃げに徹することも時には必要となる。いつ逃げるかを考えているよりも先に、逃げる行動に出てしまったほうがいい時というのは多い。
 また、逃げ方なんて言うのは色々あり、情報を手に入れて事前に逃げ場所を確保しておいたり、罠を仕掛けておいていざ逃げるときの時間稼ぎを出来るようにしたりと手段が多い。
 俺の場合は事前準備というのはあまりしない。というのも、俺は自身が頭の良い方ではないのは自覚しているので、逃げる戦略戦術を考えるよりはそういった危機に瀕した時にすぐに行動する方が手っ取り早いからだ。
 逃げ道をチェックする程度のことはよくするが、事前準備というほどの大業ではなく、こじんまりとした小癪な豆情報のようなもの。実際にそこを活用するかと言われれば、あまりせず。大抵の事は自在法を使って強引に切り抜けてしまうことが多い。
 逆に言うならば、今まではその形で逃げ切れていたので、この戦法を慌てて変える必要もないと思っている。
 現状に甘んじて、現実に甘えて、余計な事をなるべく考えないようにして、脳筋な逃げ方だったわけだ。
 ただ最近では『嵐の夜』に頼り切った逃げ方ではいけないと新たな自在法を考える毎日。
 自在法を考えるのは人によっては簡単なことだ。俗言う自在師などと呼ばれるようなフレイムヘイズは、次から次へと自在法を思いついては戦闘に使用していく。なんとも羨ましいものだ。俺なんて自在法のアイディアが全く思い浮かばず、四苦八苦しているというのに。
 とは言うものの、ようやっと形になってきた自在法ではあった。完成するのはまだ先にはなりそうだが。
 一歩一歩確かめるように自在法を編んでいく俺と比べてリーズは、俺の期待に答えるように成長をしてくれている。

「若い者が成長していくのはいいものだ」
「年取ったみたいな言い方だね。あ、違うか。年取ったね、モウカ」

 年齢云々を言うならば、ウェルなんかは俺の比じゃないだろうに。俺が生きる、生まれるよりも前から生きていたであろうウェルは俺の数倍、数十倍は生きてきていたはずだ。少なくとも、俺と共に生きてきたので、彼女だって十分に年を取った。
 ``紅世の徒``のそこらへんの概念はどうなのだろうか。それをウェルに問おうとしたところで、彼女がまともに返すことはないのは分かっているので聞くこともないが。聞いて知って、どうしたという話もでもある。
 『俺がおじいちゃんなら、ウェルは仙人かな』なんて言葉を吐こうものなら、どうなるかも分かったものじゃないし。
 リーズもフレイムヘイズになってから十年が経つので少女という年齢でもない。
 あのフレイムヘイズとして初心者だった頃が懐かしいよ。今だって十分に若いフレイムヘイズだが、戦い方そのものは当時と大違いだ。

「今、私の年齢の事言ったわね? 槍投げつけるわよ」
「フレイムヘイズは歳を気にしない!」
「女の子はいつまだ経っても年齢を気にするものなの」

 女性の勘のようなもので俺の思考を読んだリーズが、殺気混じりに俺を脅した。
 覚えときなさいとはこちらの言葉だ。果たしていつまでリーズは自分の年齢を覚えていられるか、カウントできるか見ものだ。
 きっとそのうち、大体とか約とかいう言葉が年齢の前に付くはずだ。そして最後は、永遠のとか言い出すんだろうな。
 目に浮かぶ有り様だ。
 数百年後が非常に楽しみだ。その時まで死ねないね。こうやってまた一つ死ねない理由ができた。
 地面に這いつくばってでも、生き恥晒してでも生きる残るさ。

「街に着くから、そろそろ殺気引っ込めてね」

 しょうがないわねという顔をしつつも、殺気を引っ込めてくれる。
 街で殺気を振りまいたら剣呑な雰囲気になって、溶け込めなくなってしまう。ただでさえ最近の西欧ではローマ帝国が滅ぶかどうかの瀬戸際で、どこもかしこも緊張感が漂っているので下手な雰囲気や印象をつけてしまうと厄介事が舞い込んできかねない。
 ここ東欧もそれは変わらない。むしろ、緊張感は西欧よりあるかもしれない。
 東欧は西欧と比べてあまり街が発展しておらず人が少ないためか、``紅世の徒``との遭遇も少なくなっている。
 ``紅世の徒``は存在の力を消費しないとこの世に顕現を維持し続けられないため、自然と人がいる場所に現れる傾向がある。だが、多かれ少なかれ人はどこにでもいるものだし、たとえいなくてもそういう場所に隠れ家を設けていたり、隠れ潜んでいる``紅世の徒``もいるので油断はできない。
 分かりやすく言うなら、``紅世の徒``が全く出てこない場所なんてものは存在しないのである。どこだって確率の差はあれど、現れる可能性はあるのだ。
 限りなくゼロに近い場所は存在するとは思うけど、そんな場所はそもそも見つけることが出来ないというのがオチだろう。

「今度はこの町でどれくらいいるつもり?」
「今回はちょっと長めにいようかなと思ってる。長居ってあまりしたことないしね」

 俺は一箇所に留まると厄介事が向こうからやってくるなんてことを経験しているため、一つの街に今まではあまり留まらなかった。長くても二・三年という短い期間。
 基本的には人があまり来ない森や川などの水辺の近くで呑気に暮らすというものだったが、そろそろそんな生活は終わりにしていいだろうと思う。俺の代わりに戦えるリーズがいるからというのもあるが、何より追われるようなことが少なくなったのが一番だ。
 熱が冷めたのかどうかは知らないが、たまたま出逢ってしまうことはあっても、故意な接触というのはなくなっているように感じられる。
 ならばとここは思い切って一箇所に長居してみようと思い経った。
 フレイムヘイズからすれば十年という月日は決して長いものじゃないが、俺にとっては十年もの期間を一つの場所で安全に過ごすというのは大きな意味がある。
 夢にも見たというほど大事ではないにしろ、俺の平凡な生活への第一歩には違いない。

「だからお金をなるべく使わないようにしてたのね。女性に野宿を強要させるとか非常識としか思えなかったわ」
「フレイムヘイズに性別は関係ない!」

 むしろ、俺のあったことがあるフレイムヘイズは誰も彼もが天下無双で、男を圧倒するような人だった。
 決して悪いことじゃないが、そんな人達と関わっているとなんだか男が愚かな生き物に見えてくるのが不思議だ。女は猛々しい生き物で、男は欲望まみれた醜いものみたいな。
 完全な俺の被害妄想だけど。
 その分、リーズはまだほっとする。
 見ていて可愛いやつだなと思えることがしばしばあるのが要因だろう。
 俺と同じ部屋の時、男と一緒なのは初めてなのかずっとそわそわしてたのはいいものだった。

『お、襲わないでしょうね!?』

 なんて涙目で訴えられたら、それは振りなのかと思ってしまう。
 思うだけで、その手のものはからかうネタに早変わりさせてしまうのがウェルで、勝手に『モウカが百年早いだってさ』などと言う。
 百年経っても容姿は変わらないじゃないかという突っ込みすらも無視されて、リーズの怒りがその分かりやすい表情から見て取れて、それすらもからかいのネタにするのがウェル。
 そして、怒られるのは俺だ。
 宿なら宿で怒り、野宿なら野宿で非常識と罵られる。
 男の立場って一体。……あれ、俺はリーズ相手にもなんか不利になっていないか。
 そんな俺の悩みを知るはずもなく、リーズはいつもの調子で少し甘く落ち着いた声で言葉を発する。
 
「あるわよ。でもいいわ、もうあまり気にしないことにしたから。今度は宿じゃなくて住居でも構えるつもりなんでしょ?」
「住居だと税を取られるから、悩みどころだけど」
「存在を割り込ませるという方法もあるんだけどね。モウカってあまりそれをしたがらないし」
「成りすますのが嫌だ。自由っぽくない」
「成りすます必要はないと思うんだけど、固く考えすぎだよね」

 俺とウェルの会話についてこられないのか、リーズはぽかんとした表情だったが、一つの見知らぬ単語に反応して、小首を傾げる。

「存在の割り込みって何?」
「フルカス説明!」「``盾篭``説明!」
「お主らは……ふむ、存在の割り込みとは──」

 面倒事は他人に任せるのが流儀なのさ。
 その名の通り、存在の割り込みというのは他者の存在に自身の存在を割り込むことによって、他者の立ち位置に自分が成り代わること。その際には、世界への影響が少ないトーチに成り代わるのが通例である。これは割り込んだものの役割を割り込んだ側であるフレイムヘイズが代わりに担うということになる。
 これが俺が割り込みが嫌だという理由でもある。
 だって、他人の立ち位置とか役回りとか考えるだけで面倒だし、束縛感があって嫌だ。
 ウェルはそんなの関係なしに自由にやればいいと言うんだけどね。
 どうせ自分の子供が、親が、知り合いが変わったところで人間は不思議だと疑問は持っても最後は受け入れてしまうのだから、と。
 この有り様は今のこの世界と同じだ。
 異能や異常が常日頃起きているはずなのにそれが公表されずに誰も知らないでいるのは、おかしいおかしいとは、思ってもありえないことだと信じられないことだと自身の常識で測ってしまい、現実を直視できないこの世界の仕組みと同じなのだ。
 だが、そうとは分かっていてもやっぱり気にしてしまうのが人の性。というよりは、心配性な俺の性。
 不便だと思うなかれ、これでもその心配性がたたってこうやって生きている。

「そんなことが出来たのね。じゃあ、私の知り合いも気付いたら、違う人になってたなんてことも」
「いや、リーズに知り合いはいないんじゃ──ああ、そんな怒った顔するなって。悪かった、悪かったよ。や、やめろ。槍だけはマジ勘弁。あぶないって!」

 相変わらず顔の表情や思考の読みやすいリーズだが、行動が昔に比べて過激になった気がする。昔の反応は可愛い物で、表情を読み取られても苦渋の表情で、なんとか隠そうと必死になっていた。その必死さも用意に伝わるからもっと面白──可愛かった。
 だというのに、月日は残酷で純粋な少女は穢を知ってしまった。
 隠せないなら脅せばいいじゃない。
 きっとそれが今のリーズの思考回路だ。
 真の恐怖は身内にいるとは。
 ``紅世の徒``に殺される前に、リーズの槍で突き刺される日のほうが近いんじゃないかと思う今日この頃。
 今のリーズの実力では、逃げる俺をそのご自慢の槍で貫けるかは疑問だけど。数百年の歴史は伊達ではない。
 逃げたことしかないけど。

「それでどうするの? ウェパルの言ったとおり、割り込ませるのが一番順当だと私も思うわよ?」
「ふむ、我が子のいい経験にもなることだしの」
「賛成二票だよ。どうする、モウカ?」
「そうみたいだけど俺はやっぱり遠慮したいな。ということで、二人の意見を無視して当初の予定通り宿屋の一角を借りる方向でいきます」
「結局、宿屋じゃない」
「モウカは宿屋好きだからねー」

 リーズが溜息をしながら呆れた声を上げて、ウェルはやっぱりねと理解の声を上げた。
 だっていいじゃん宿屋。お金を払っとけば食事も出るし、部屋も自由に使えるし、今の時代は身分証明もいらない。
 俺の中では住居を構えるなんてよりよっぽど楽で冴えたやり方だ。
 
「そうと決まれば、今夜侵入だな」
「門番を介さずに夜中に侵入……さすがモウカ、行動がものすごく姑息だよ!」
「なんか板に染み付いてるって感じよね」
「ふむ、やけにその言葉が似合っておるしな」
「ここはきっと、『すごく言いたい放題言われてるよ!』と怒るべきなのかもしれないが、残念だったな。もはやそれは褒め言葉だ」

 逃げることは悪いことじゃない。
 姑息なことが卑怯なことじゃない。
 どれもこれもが俺の性質なのだから。
 言いたいだけ言えばいいじゃないか。ウェルにいたぶられ続けたこの心は容易な言葉じゃ折れることを知らないのだからな。





◆  ◆  ◆





 街の中を探検と称して散歩するのは、旅の醍醐味であると密かに俺は楽しみにしている。今まではおおっぴらに世間を歩けないような立場だっただけに、余計に普通に歩けるのが嬉しくて浮かれ気分になる。
 街に活気がなかろうが俺の気持ちに変化などあるわけもなく、俺は今この時を充実であると断言して、街中を陽気に歩く。街並みをキョロキョロと田舎者のように、不慣れな街を見て回る。
 この街の変わった様子は何であろうか。この街で面白そうなものは何であろうか。危険な場所は。厄介事になりそうな場所は。
 しばらくの拠点にする場所なので念入りな確認作業も同時に進行していく。
 だから、ついつい前方が不注意になりがちで人と当たってしまうなんてこともあった。
 ウェルはあえて教えてくれず、リーズはそれでもフレイムヘイズかと少し面白可笑しく言う。フルカスは無言を貫く。
 誰か親切な人はいないのだろうかと思いつつも、原因は俺にあるのでぶつかった相手に頭を下げて謝る。
 大抵の相手は無愛想に、それに返事もせずに完全にスルーされたが、

「おっと! こっちこそすまねえな」

 この人物だけは比較的気さくに返してくれた。
 がっしりした体格の大男だった。
 見た目とは裏腹な友好的な態度なのだが、とても温かい何かを感じさせてくれた。おそらく、この街に来て宿屋以来での冷たい態度以外の態度だったから余計にそう感じたのだろう。
 これは……この人との友好を結べられればこの街でうまくいくきっかけを作れるのではないだろうか。
 そう思ったのだが、

(モウカ、こいつ!)
(みたいだね。残念極まりないよ。でも、向こうがこっちをフレイムヘイズだと気づかれなければ)

「あークソ。なんでこんな所にいるんだ。それもよりにもよって『荒らし屋』の『不朽の逃げ手』に会っちまうなんてよ。こりゃあ俺ら``百鬼夜行``東欧便も引き上げ時か」

 運命はなんと残酷なことだろうか。
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