小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第二十四話(不朽のモウカ)

 その存在は、と問われたときにリーズは第一に命の恩人であると答える。
 彼の本意はどうあれ、命を救われたのは間違いのないことであった。十年以上経った今でもその気持ちは変わらず、言葉に出さないが感謝の念も忘れことがない。
 だが同時に、リーズは生きる意味を失ってしまってもいた。
 彼女が真に願っていたことは何一つとして叶うことも無く、自分の命のみが手元に残ったのが彼女の現状であった。
 生きている意味なんて無いのに。
 そう考えたのも一度や二度ではないが、自殺を図ることは命を助けてくれた恩人の事を考えると出来るはずもなく、無闇矢鱈に命を持て余すことになった。それもほぼ永遠という時を。とても、とても長い時間だ。
 はや十年という時を過ごしたことになったが、人間にとっては長い時間でも、彼女らにとってはこの十年という年数も短い時に含まれる。

(退屈な十年ではなかった)

 どう生きればいいの、と生きる意味を求めて彼と共に歩んで来たがその答えは今も見つかっていない。
 だというのに、この十年は不思議と生きていることを満喫できたかのように思える。
 ふとした拍子に楽しいと思える時間があった。
 暇つぶしにと始めた素振りが、戦闘技術が、自在法が思ったよりも楽しくて夢中になることもあった。
 ただ、これが生きる意味かと問われれば疑問に変わる。
 楽しいから生きるというのも、それはそれでありだとは考えるもののその考え方はすごく適当で、曖昧なもので崇高と言えなかった。崇高だからいいという訳でもなく、崇高さを求めるならそれこそ世界平和を生きる理由とすればいい。リーズはフレイムヘイズなのだから、使命を負って、``紅世の徒``を討滅すれば晴れて世界を守るヒーローの仲間入りだ。
 何度か``紅世の徒``も討滅している。
 リーズ一人の力ではなかったが、最低限の使命は果たす程度には働いた。
 深く考え過ぎなんじゃないだろうかと思うこともあった。
 そんないちいち細かいことなど気にしないで、好きなように、自由にありのままに彼のように生きればのではないかと何度も思った。
 彼の生き方はリーズが隣で見ていて実に清々しいものだった。
 純粋に生きることのみに力を注ぎ、人生そのもの全てを生に賭けている。死ぬということに人並み以上の恐怖を感じていて、死から逃げようと必死に足掻く。見る人によっては醜いものなのかもしれないが、リーズにとっては美しいとすら感じさせてくれる。
 それこそこんな『生きる意味』なんてものに拘っている自分が馬鹿に思えるほどに。
 その当の本人はというと、

「この食べ物の食べ方ってどうやって食べるんだ」
「殻ごと食べれば? フレイムヘイズだから何食べたって大丈夫、大丈夫」
「あの悲劇を繰り返すぞ……」

 初めて見た海鮮料理の食べ方に四苦八苦しているようだった。その姿からは到底数百歳になるフレイムヘイズには見えない。
 長い貸切状態を続けている宿の一角のため、普通のお客とはちょっと違う待遇を受けつつある。料理は食堂ではなく個室に運ばれ、時間の融通が効き、メニューの注文まで受け付ける。こと料理だけでもこれだけの優遇であった。
 十年分の宿代を一気に払った前代未聞の行動で、驚きのあまりなのか嬉しさのあまりなのかは分からないが宿屋の長の女将はリーズとモウカに破格の待遇をしている。
 優遇されること自体は困ることでもないので、こうやって部屋で気兼ねなく暮らせるのは相当の得ではあった。
 最初の頃こそ、警戒してからか極力ウェパルもフルカスも声を出さずにいたが、今ではこうやって平然と声を出していた。
 この場所が人目を気にせずリラックスできる証明のようなものでもある。と言っても、リーズの記憶の中では切羽詰まったウェパルの姿というのは思い浮かびもしない。いつも呑気に、それこそ契約者のモウカよりも気ままにやっているイメージが強い。
 ウェパルの天真爛漫ぶりはリーズの苦手とするところではあった。

「悲劇って何かあったの? 昔に」
「あー、それはね。モウカが」
「何でだろう。この話にデジャヴを感じる」
「数百年も一緒に生きてたなら同じ会話くらいあるんじゃない?」
「いや、ウェルの場合はわざと俺に傷心を与えるためにという可能性があるからな」
「酷い``紅世の徒``も居たもんだね!」
「お前だよ!」

 リーズは、あははと思わず苦笑した。
 こんな会話が、平和な日常が楽しいと感じられているのを自覚していた。もし、フレイムヘイズになっていなければ、こんなに楽しいことは体験できずに死んでいたかもしれない。楽しいという感覚を得られないまま、ひたすらに家族愛を求めて狂っていたかもしれない。
 私もいよいよ毒されてきちゃったかなと少し嬉しくリーズは思う。
 今はもう何も無いわけではないと自信を持って言える。
 だからリーズにとって、この関係はいつまでも続いていて欲しいものだった。

(なら、私の今生きる意味は)

 答えは朧気ながらも見つかり始める。





◆  ◆  ◆





 気候が厳しい場所でも木は根強く根を生やし、壮大な林や森を作り上げている。シベリアも遠いわけでもないこの地域は冷え込みが激しく、この地方の気候に慣れている人間ではないと、とても生きづらい地域である。その為訪れる人は少なく、そういった意味ではモウカたちフレイムヘイズは十分に浮きやすい存在ではあった。
 ただでさえ、欧州では珍しい容姿を持つ日系のモウカは目立ちやすい要素が多い。
 それなのに余り目立つこと無く、ほどほどに馴染むことができているのは、己が内にある存在の力を制御することによって他者にあまり干渉されないようにしているからである。
 不老であるフレイムヘイズは年月が経てば周りから訝しがられるが、十年という人間にとっては非常に長い年月を誤魔化せるのはこういった処世術があるためだった。もちろんそれだけではなく、モウカは目立たないように目立たないようにと慎重とも臆病とも取れるほどに、細心の注意を払っている。そして、これがモウカの日常でもあった。
 前までは、そんなモウカの行動を行き過ぎなんじゃないかと疑問を抱いていたリーズだが、今となっては彼の理解者となり、彼女自身も目立つ行動を取らないようにしていた。
 彼らはただこの平穏な日常で生きているわけではもちろん無い。いつか来るであろう戦いに備えて、いつも準備は怠らない。その準備の光景は主に、生い茂る森の一角にて見ることが出来た。

「うん、すっかり練習場っぽくなったな」
「あんだけ私が作った刀で木を力任せに斬ってたらそうなるわよ……無理な使い方して何本折ったことだか分からないじゃない」
「いいじゃん。いくらでも作れるんだし」
「存在の力を浪費するでしょ!」
「大したことないじゃん。それに俺って実はあまり存在の力を使い切った試しないよね」
「モウカは色んな意味で特別だったからね。この世界への影響が意外と大きい存在だったのかもね」

 過去へのトリップという前代未聞の出来事を体験したモウカは確かに特別とも言えるのかもしれない。その事象が起きた理由が未だに明白となっていないが、自在法という存在の力を使えば出来ない事の無い自由な世界において、可能性は無数に存在はしていた。
 自在法だけに限らず宝具というこの世の神秘の塊もある中で、不可能という言葉はあまりにも軽率過ぎる。逆に言えば、追求しようとしても簡単に検討がつくことでもないことを表している。
 モウカ自身は、そのことにはフレイムヘイズになる以前に諦めはついていたが、理由を知ることが出来るのならば、知ってみたいとも思っていた。未知なる体験をモウカに経験させてくれたものへの興味からである。けれども、当然ながらそれを知ることに危険があるのならば、いとも容易く諦めるだろう。

「羨ましい限りね」
「羨ましい……羨ましいね。俺は逃げることをせずに、正々堂々と生きていけるリーズのが羨ましいんだが」

 モウカのその言葉に、はてとリーズが小首を傾げた。
 逃げることでしか生を掴み取れないモウカと、逃げることも戦うことも選択できるリーズ。モウカには最初から選択肢など存在しない。生きたいのならば逃げるしかないという現実があった。
 戦い方に優れた力を持っていれば、戦うことに恐怖を抱くような性格でなければ、人を本気で殴った経験があれば、モウカはもしかしたら``紅世の徒``と正面から渡り合っていたかもしれない。今頃は内に眠る存在の力の総量から、今世最強のフレイムヘイズだって夢じゃなかったのかもしれない。
 しかし、現実は彼に戦う術をもたらさなかった。
 武具の扱いや立ち回りはどんなに目で見ても素人以下で、死ぬという恐怖をいつも背負い、人を本気で怒ることすらも躊躇する。

「全く分からないわけじゃないだろ?」
「うん、なんとなく検討はついてる」

 いつだったかリーズは一度だけモウカと戦ったことがある。``紅世の徒``との戦いの前に、少しでも実践に慣らしておこうとリーズが模擬戦を提案したからだ。
 当たり前だがモウカは嫌な顔を隠そうともせず、そんなのいらないよの一点張りだった。俺はいきなり本番だったしと実体験を含めてリーズを諭そうとするが、あきらめの悪いリーズを見かねて一度だけねとやったことがあった。
 モウカの自在法の特性上、下手な行動は``紅世の徒``に見つかる可能性を考慮して、大規模な実践さながらの模擬戦ではなく、こじんまりとした鍛錬のような模擬戦となった。
 勝敗条件はどちらかが決定打を打つことで、時間制限付き。
 リーズは自分で提案したものの、本当の所は相手としてモウカは不服だった。
 彼女がモウカの力の一端を見たことがあるのは教授の一件だけであり、実際に戦ったところはおろか、力を振るっていることすらも見たことがなかった。
 フルカスが言うには大した力の持ち主らしかったのだがイマイチ納得は出来ず、これを機に実力すらも見極めようといった一面もある。
 予想は良い意味で裏切られた。
 モウカの自在法の汎用性の高さのせいで攻撃が全く当てられない。煙で巻かれるような錯覚に陥られる彼の戦闘スタイルは厄介以外の何物でもなかった。
 モウカは自身のことを俺はフレイムヘイズの底辺の中の底辺、最弱のフレイムヘイズだと言う。
(弱いと言うには弱かった。でも、弱いからって勝てる相手でもなかった)

 たまに牽制のためなのか反撃をしてくるが、その攻撃は全く脅威となりえない。本当に牽制以外の用途のないようなものだった。リーズが嘗て作って渡した剣を投げてくるなんてお粗末な剣の使い方だった。
 自分のあげた剣が無様な扱われ方をして少しリーズはイラッとし、その苛々を発散しようと繰り出した攻撃はモウカに当たることついにはなかった。
 タイムアップによる結果は引き分けだったが、内容としては必死に攻撃に出て全く当てられなかったリーズの負けだった。 

『今回引き分けだったのは、時間制限があったからね。逃げ切ればいいだけだし。これが時間のないものだったら、途中で諦めて降参してるよ』

 やれやれと言った顔でモウカはそう言ったのだ。
 その言葉に嘘がないのは、当時まだ共に旅を始めたばかりのリーズでも分かった。
 だが、リーズにとっては簡単に超えられるはずだった壁だったのだ。それが予想だにせず大きくそして分厚かったことを知ったことになった一件である。
 
「よし、雑談もそこそこに練習するか」

 この空間を作ったのは自在法の練習をするためである。街中ではもちろん、人の目に付く場所ではあまり見せられないことをするには、森の中など人が立ち寄らない場所にスペースを作る必要があった。ここはただでさえ気候が厳しい場所なので、少し人里から離れれば人影は極端に減る。まして陽の当たらない鬱蒼とした森林の中は冷え込む。
 人間の誰が好き好んでこんな場所に来ようかという場所は、フレイムヘイズにとっては絶好の場所だった。
 最初の頃はリーズの自在法の練習などは全てウェパルに投げていたが、今はモウカも一緒になって教えたりしている。
 ちょっとした心変わり。

「現在のリーズの戦い方に関して文句はないから、根本的な自在法の質の上昇が一番の課題だ」
「重装の騎士装甲に左手に盾を持って押しつぶす。右手に剣や槍を持って直に斬りつける、貫く、投げる。戦いに文句を言う言わないじゃなくて、自分に出来ないことだから言えないんだよね」
「うるさい。戦い方なんて知るか。攻撃が当たらなければいいんだよ! ああもう、ウェルがいると話が横道に逸れる」

 モウカが地団駄を踏みながらも、邪魔をするなよとウェパルに無駄と分かりながらも忠告をすると、ウェパルは笑いながらもハイハイと適当に了承する。
 絶対に分かっていないだろとウェパルを除く三人が内心で突っ込みつつも、モウカが咳払いをして続きを話しだす。

「まずは創りだす武器の強度を上げること。木をぶった斬った程度で折れるなんて話にならない」
「それは貴方の使い方が悪いだけじゃない。私が使ったら三本まで折れずに行けたわ」
「三本で折れる刀なんて使えるか! 折れる理由は自在式に無駄なものが多いのと、イメージの固執だと思う。もっと強い刀をイメージすればいいんだ」
「ふむ、自在式の無駄に関してはこちらも同じく余計な念があるからだな」

 リーズは分かったわと返事をしてから、目を瞑って刀を思い浮かべる。
 強い刀を打つ自身を想像して、どういった形状をしているのか、どんな風に扱うかまで明確に定めていく。イメージが明確に定められた刀を存在の力で具現化させようとするが、その前にモウカの声が待ったをかける。

「そういえば、自分の父親が作った刀とかを想像したらいいのが出来るんじゃないか? 幼い頃から見続けただろうし、明確に思い浮かべられると思うぞ?」
「やってみる」

 作りかけた刀のイメージを分解し、再度創り上げる。
 リーズの思い描く父親が作った最高峰の刀。貴族が寄ってたかって買いたがった本当に作られた至高の作品を思い浮かべる。
 簡単に浮かんだその刀の形や性能を存在の力で具現化させて出来上がった刀は、今までとは見た目だけでも十分に今までと違うと分かる逸品が出来た。
 その出来に思わずおおと唸り声を上げたモウカは次に、

「いい出来だね。記念にその刀をくれないかな。今のなまくらじゃちょっと役に立たな──」

 リーズの投げ槍で、口を塞がれた。

「私の作った刀がなまくらで悪かったわね!」

 拗ねてリーズは先に宿へと帰ってしまった。
 一人ポツンと残されたモウカはほんの冗談だったのにと言葉を零したが、さすがにそれはモウカが悪いとウェパルがモウカを非難した。
 
「でもまあ……」

 実に平和な日常風景だなと感慨深げにモウカは思った。
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