小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第二十五話(不朽のモウカ)

「初めまして、というのは些かながら変かもしれないが」

 突然の訪問者だった。
 何の前触れもなく、いきなり現れたそれは俺の旧知の知人だと名乗り、この宿の女将さんに通されてやってきた。
 油断はしていない。すでに平和な日常が五年間もやってきて、戦いとは遠ざかっているものの、数百年間も今まで戦い続けたのだ。そう簡単に鈍ってもらっては困る。平和な日常でも、常に注意と警戒を怠らず、いつでも逃げる支度を欠かさない毎日だった。そんなんで気が完全に休まるのかと聞かれれば、嘘でもハイとは言えないが、それだって俺の中ではすでに日常なのだ。
 誰にも襲われること無く、誰かを襲うこと無く、非常に有意義な時間なのだ。その時間を俺は決して失いたくない。だからこそのいつでも忘れない警戒心がモットーだというのに、あまりにも簡単にその訪問者は──``紅世の徒``は俺の元へとやってきた。
 それも無防備に、何の敵意すら無く、むしろ友好的に接してきた。
 俺は何が起きたかも状況を把握できずに、ぽかんとただ彼女を見つめるばかりだった。隣ではリーズが俺に顔を向けて誰と言いたげだった。
 誰だこいつとは俺の言葉だろうに。
 見たことのないその``紅世の徒``は女性の姿をしており、とても希薄な存在。触れてしまえば簡単に崩れて消え去ってしまいそうな感覚に陥られるほど。まるでトーチのように軽い存在だった。
 トーチ。そうだ、まるでトーチのようなのだ。
 いくら存在が希薄でも``紅世の徒``である異常は、何よりも敏感な俺が全く気付かないなどというのはありえない。ありえてはいけない。自信過剰というわけじゃない。先に発見して、先手を打たなければ簡単に消し去られてしまうほど弱い俺には、当たり前の自衛力なんだ。取り柄とも言える。
 それがいとも容易く目の前に``紅世の徒``に取り柄を潰されてしまった。
 急に現れたことへの驚きだけではない。数百年で築きあげてきたプライドも一緒に完膚なきまでに打ちのめされたのだ。

(モウカしっかりして!)
(え、あ……ああ)

 言葉が出ずに呆然としていた俺にウェルに呼びかけられて何とか意識を相手に向けて、警戒を再開する。これが敵対的な``紅世の徒``なら俺は死んでいただろう。
 そう思うと大したこともないプライドが打ちのめされただけで呆然としてしまった俺は俺に腹が立つ。こんなことで、こんな簡単なことで命を失っていたかもしれないと思うと後悔が絶えない。
 自分では衰えていないつもりだったのだけど、ここ五年でたるんでいたのかもしれない。
 リーズが仲間になり戦闘要員が出来て、ますます上昇した生存率に甘えていたのかもしれない。
 反省点は多いが、しかし、まずは目の前の相手を見なくちゃいけない。
 せっかく敵意無しに友好的に接してくれたのだ、無下にはできない。だからと言って警戒を解く訳にはいかないが。
 
「初めましてが変だなんて言うんだから、過去に会ったことがあるってことだよね? ウェル、記憶にある?」
「ない。そもそも``紅世の徒``なんていちいち覚えてない」

 ずぼら過ぎるウェルに聞いた俺が馬鹿だったかもしれない。リーズは端から頭にはてなマークを浮かべているので聞くまでもないだろう。それに、ずっと一緒だったのだから彼女が知ってるということは、直接俺も知ってるということだし。
 ``紅世の徒``が何しに来たかは分からない。もしかしたら慢心していた俺に警告しに来たのではないかだなんて思考したが、すぐに却下する。何でわざわざ``紅世の徒``がそんなことをするんだ。
 それならわざわざこんな辺境の地にこの俺になんの用だというのだ。
 疑問は尽きないが、相手の真名を聞けば分かるかもしれない。五年前の``百鬼夜行``という集団の一味の可能性だってある。
 それじゃあ自己紹介でもと俺が切り出そうとする前に彼女が言葉を放つ。

「そう言えば、名を名乗るのは初めてだったかもしれないな。今は``屍拾い``ラミーと名乗らせて貰っている」
「聞いたことがないな。俺のことは訪ねて来たくらいだから知っているとは思うが『不朽の逃げ手』モウカ。契約した``紅世の王``は``晴嵐の根``ウェパル」

 俺が紹介するとどもーとウェルが気軽に挨拶をする。
 続けてリーズを紹介しようとすると、リーズが俺の声を遮って自ら名乗る。

「私が『堅槍の放ち手』リーズ・コロナーロ。``盾篭``フルカスの契約者よ。よろしく」
「よろしく頼むよ。聞いたことがない名だ」
「ああ、十五年前に契約したばかりのひよっこだよ」

 ラミーの問いに俺が答えると、十五年前と呟いてからそうかと頷いた。
 もしかしたら強制契約実験の時の生き残りだというのが今ので分かったのかもしれない。だとすれば、相当に頭の回る``紅世の徒``だ。
 敵にしたら厄介そうだ。
 しかし、それほど頭の良い``紅世の徒``なら、少しぐらい名が売れていてもおかしくないというのに、皆目検討もつかない。
 
「ラミーでは通じぬか。なら、君ら相手では本当の名の方が都合がいいだろう。信頼も出来るフレイムヘイズなことだからな」
「それは……買いかぶり過ぎじゃないか?」

 俺の言葉にウェルとリーズがそうそうと同意の声。
 そこまで首を縦に振られるのは、若干ながら心が痛くなるのだが、そんな二人は置いといて俺が信頼できるフレイムヘイズ? それはどこの誤情報だ。最弱なフレイムヘイズという情報ならあまりにも的確すぎて涙するのだが、信頼された全くない覚えはない。
 俺が他のフレイムヘイズや``紅世の徒``との接触が他のフレイムヘイズに比べてかなり少ないというのも理由の一つだ。
 信用、信頼を置ける中なんて隣にいるリーズくらいしか思い当たらない。
 しかし、そんな俺の疑念を振り払うようなことを、一言ずつラミーと名乗った``紅世の徒``は言う。

「『大戦』
「……!?」
「『強制契約実験』」
「ぬぐぐ…………」
「``百鬼夜行``」
「よし、分かった。そろそろ俺の胃を虐めるのはやめてくれないか! フレイムヘイズとはいえ内蔵器官系はすぐには治らないんだ」
「それはすまなかった。君があまりにも心当たりがないなんて言うもんだから、ちょっと思い出させてあげようと思っただけなんだ」

 こいつ……意外とS気があるぞ、という言葉は飲まずにウェルに声ではない声で悔し紛れに言う。ウェルからは本当にいい性格してるよねという返答をもらったが、その言葉はそのまま彼女に投げ返したい。
 矛先を目の前の口では敵わないと理解できた相手から相棒へと向け、あくまでも外面は笑顔を保つ。リーズは俺がどんな心境なのかまるで分かっているかのように含みを笑いをするが、この際は無視。
 
「君たちの噂はかねがねと言ったところだ。尤もそれとは違う予測も私の中では構築されてるんだがね」
「噂とは違う?」
「あえて語るほどのものでもない。確信のない予測だよ」

 話が横に逸れてしまったねと微笑みながら、ラミーは軌道修正を計った。
 俺とウェルの会話なら確実に横道から帰ってこれず、気付いたら獣道に入っていたなんてことが多々あるからありがたい。
 君との会話はなんだか楽しいねと嬉しいことを前置きにしてから、彼女はもう一度自己紹介した。

「``螺旋の風琴``という名前に聞き覚えは?」
「リャナンシー……そうか、貴女が」

 あまりに有名過ぎる``紅世の徒``の名前だった。``屍拾い``という名前では全く分からなかった彼女との共通点は、``螺旋の風琴``の名において簡単に思い当たる。
 忘れられるわけがないじゃないか。
 あの大戦の引き金の一つとなった宝具だった、宝具にさせられた``紅世の徒``の名前がリャナンシー、つまり彼女だったのだから。それを知ったのは大戦後ではあるが、彼女を見つけ、そこを戦場へと変えたのは他ならぬ俺自身。
 言わばお互いにあの時の当事者同士という訳だ。
 初めましてと挨拶することが変だというのも頷ける。
 俺からすれば彼女が俺のことを覚えていたことのほうが驚きなんだけどね。
 大戦の件がなくとも彼女の名前は``紅世``最高の自在師として馳せている。彼女に並び立てる他の自在師といえば俺の天敵とも言える教授を他に置いていないと評されるほど。
 ……え、これって褒め事ななのと一瞬思ってしまうが、これは想像以上にすごいことだ。教授というと、どうしても変人で奇天烈な奴と安易に思い込みがちだが、奴の発明は、自在法は他を寄せ付けない独創性や多種多様に渡る圧倒的な数がある。それの一つ一つに実用性があるとは言い切れないが、自在法を編み出す自在師としての観点から見れば、彼は間違いなく天才だ。
 そんな変態と同列に並ぶのが彼女、``螺旋の風琴``リャナンシーである。
 彼女は、教授の実用性を問わず好き放題に量産するスタイルとは異なると言われているが、実際のところは俺は知らない。
 彼女の姿の目撃情報すら最近では全く聞かなかったのだ。
 
「大戦の時には世話になった」
「世話したつもりもなければ助けた覚えもないからいいよ」
「そうそう。モウカはただ逃げるのに必死だっただけだから」

 相手が今では無害とされる``紅世の徒``と分かるや否やウェルの軽口が飛ぶ。
 こいつは少しくらい俺への配慮というのを知らないか。
 それなりに俺にだって体面があるんだ。
 とは言うものの事実だから否定する気にもなれない。
 だから、こういう時はだいたい調子にのってもう一人の相方が、

「そうね。大体予想につくわ。戦場を飛び逃げ回っている貴方の姿が」

 ふふ、と優しいほほ笑みにも、哀れみを含んだ笑みにも見える笑いをリーズが零す。
 絶対に言うだろうなと思っていたことだから俺の心へのダメージは少ない。
 無いわけではないということを彼女らには是非とも知ってほしいところだが。

「こちらも想像はついている。最初から過大評価していないつもりだ。その上で頼みたいことあり、訪ねさせてもらった。時間は大丈夫か」
「ん、俺に関しては大丈夫だけど。リーズは?」
「私も平気よ。面白そうな話も聞けそうだし」
「ということらしい」
「そうか。では、私から君たちに頼みたいのは討滅をしないでもらいたいということが一つ」

 これはまた大胆なことを言うな。
 普通の``紅世の徒``ならこんなことを言わない。というか、こうやって面と向かって話し合う機会そのものが稀有なことだから、心では思ってるかもしれないが聞くことはない。
 だがまあ、

「相互不干渉というのなら別に構わないさ」
「あの``百鬼夜行``と同じ条件ということか?」

 そこもすでに接触済みということらしい。
 いや、もしかしたら彼らから俺の情報を手に入れここに来たという可能性もありえるか。相互不干渉というのは、あくまでも彼らと俺との間であり他の``紅世の徒``全てに当てはまることじゃない。
 彼らの場合は下手したら、事業の邪魔に成りかねないので下手なことは打たないとは思っているが、無害な``紅世の徒``をここへと誘導するなんて誰が想像できるか。

「貴方はいつの間にそんな約束を取り付けたの」
「あれ、話してなかったっけ?」
「会った、ということだけ」
「そうか……まあそれはあとでいいとして」
「え……え?」

 今はリーズと話をするよりも、リャナンシーとの話を進めるべきだと判断してリーズをスルーする。
 スルーされた本人は、狼狽して「え」と何度も繰り返してキョドっているが、それも放置する。
 リャナンシーは俺とリーズのやり取りに苦笑するも俺へと向き直し、

「話を進めても?」
「いいよ。それで、相互不干渉ということでいいの?」
「私としてはそれにもう一つだけ付け加えて欲しい、というよりは許可を出してもらってもいいか?」
「どんな?」

 リャナンシーは一呼吸を置いてから、告げた。

「ここ付近のトーチを摘ませて欲しい」

 そういうことか。
 だから``屍拾い``なんていう通称を名乗っている訳かとようやく納得することが出来た。彼女が偽名とも言える名を、今通称にしているのは、彼女の身の安全を考えれば当然のことだとその事についてはすぐに納得が出来た。
 ``紅世``最高の自在師と言われているがその実は小規模な力しか持たない``紅世の徒``だ。どんなに効率良く存在の力を扱おうが、結局扱える存在の力の絶対量は``王``に比べてかなり見劣りしてしまう。
 ``王``の中でも、相当大きな力を持っていれば、それこそアシズ並みに力を持っている``王``がいれば力技で彼女を捉えることだって可能かもしれない。相当に骨が折れるとは思うが。
 だが、過去に彼女は囚われて宝具へとその身を変えられていたのだ。それに到るまでの経緯は色々あったようだが、そんな過去がある以上は迂闊さは彼女にとって致命傷に成りかねない。まるで俺みたいだなと感想を抱いだ。
 フレイムヘイズにとっては限りなく無害に近い存在でも、``紅世の徒``にとってそれだけ彼女は利用価値のある存在なのだ。
 なら身を隠すために偽名も止むを得まいと思うが、それとは別に``屍拾い``の名の意図は不明だった。だったのだが、トーチを摘むという言葉で理解できた。
 屍とはつまりトーチのこと。トーチは人間の存在の力を吸いつくされ残された吸殻の滓のようなもので、本当の人間は既に死んだのと同義。屍である。
 それを摘むということは残ったトーチの滓を拾い集めていると彼女は言っているようなもので、それの許可が欲しいと言っている。
 重要な話をしているのに、リーズはさっきからなんなのよあいつと、全くその言葉を気にしていない、というか聞いていないんじゃないかと思う。

「今までもそうしてきたなら言うまでもないと思うが、影響がでない程度なら。影響が出るようだと面倒なことに成りかねないしね」

 暗に別に構わないよと答える。
 存在の力が多分に含まれているトーチを摘むのではないのなら、世界への影響はほぼないと断言できるだろう。トーチという時点でかなり影響は少ないが、念には念をということだ。
 世界の影響とかなんだかフレイムヘイズらしいこと言ってるな、俺。

「助かるよ」

 ``螺旋の風琴``リャナンシー。
 珍しい``紅世の徒``との接触だった。
 この際だから自在法の天才に色々と尋ねるのもいいかもしれないな。
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