小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第二十六話(不朽のモウカ)

 翌日。
 昨日のうちに明日会う約束を取り付けていたので今日はリャナンシーと共に、比較的もう見慣れた街並みを背景に街に散歩に出ていた。陽もまだ完全に上がり切らない早い時間のため人通りは多くはない。
 これが農業が盛んな街ならば、早朝より田畑を耕す農民の人を目撃するのだろうが、ここは寒く農業にはあまり向かない土地。必要最低限の田畑がある程度で、早朝の寒さは普通の人間には厳しい寒さというのも人通りが少ないことに影響している。
 人目を気にしない気軽な散歩をするには適した時間である。
 夜は灯りが乏しいため人通りが少なくてもあまり散歩には向かない。
 ちなみにこの時間だとリーズがまだまだおねむなので、彼女がついてくるということもない。

「名のあるフレイムヘイズ自ら街案内とは痛み入る」

 茶化すように言った。
 ふざけた感じというよりはちょっとした冗談、フレンドリーな話しかけ方。
 昨日までの少しお固い感じとはまた違っていた。
 俺もその雰囲気に従って軽い言葉で答える。

「名があるかどうかはさておき、こっちもあまりない機会だからね。名のある``紅世の徒``さんとのお話の機会は」

 昨日の内はなんだかんだで結構堅苦しい話ばかりになってしまっていた為、今日という日を用意した。あの後、そのまま会話を続けてもよかったのだが、時間もそれなりだったし、何よりも俺が結構疲れてしまったというのがある。
 普段はあまりしない(生死がかかる時を除く)緊張感だし、柄にもない相手を伺うような、また疑うような姿勢は俺には非常に疲れることだった。そんな時に限ってウェルが絶好調だったりするので余計に疲れる。
 その疲れも一晩ぐっすりと寝れば取れるというもので、緊張感も昨日に置き去りにして、今日は単純にリャナンシーとの会話を楽しむ予定だ。
 楽しむというのは俺の一方通行なものに成りかねないけど。
 
「私なぞそんな大したものではない」
「``紅世``最高の自在師が大したことが無かったら他の自在師は皆涙するよ」

 俺は彼女の実演は見たことがないものの、あの『小夜啼鳥』だったという現実を知り、あれの価値を身を持って知っている者としては、やはり彼女は最高の自在師なのだろう。
 『小夜啼鳥』はありとあらゆる自在法を紡ぐことが可能とされた宝具。原理は簡単で、捕らえられた``紅世の徒``がそういった性質を持つ自在法の天才だったから。その``紅世の徒``を支配することで自在法を啼かせることが出来た。
 その``紅世の徒``の正体が``螺旋の風琴``リャンナンシー彼女である。
 俺がそれを知ることが出来たのも、大戦当時は余裕はなく終わり収束をしてからの話だったが。

「それだと、同列に並べられているあの教授も大したことがない、と言っているようなもんだよね」
「それだったら俺が泣く」

 号泣さ。涙が枯れるまで泣き続けるだろうね。
 教授で大したことがないとか言うと、この世界に跋扈する``紅世の王``は一体どれだけフレイムヘイズ泣かせになるのだろうか。あれ以上の鬼畜がこの世界に多くいるということになるのか、それともあれ位の実力者がこの世界の平均だとでも言うのか。どちらにせよ、そんな世界だったらとうに滅んでいるに違いない。
 あいつ一人でも下手したら滅びかねないというのに。
 ああ、駄目だ。こんな話をしてはいけない。
 噂をすれば影とかいうし、奴ならひょっこり地面から顔を出してもおかしくはない。
 出てきたらもぐら叩きよろしく力加減などなしに全力で叩き潰すが。
 俺が滅多にしない全力の攻撃だ。ありがたいと思えとか言いながら。

「私の友人も嫌われたものだ」
「友人?」
「え、嘘、あいつなんかと!?」

 俺は友人という言葉に疑問を持った声だったが、ウェルはその事実を聞いて率直に驚いた。
 え、あいつって話が通じるの?
 俺が過去何度か話し合いという解決方法を模索したものの、いつだってあいつは俺以上の声量で言葉を遮るばかりか、自分の主張を言いたいだけ言って一方的に会話を終わらせたり、自在法を使い始めるなどという暴挙ばかりだ。
 気がつけば俺は「ああ、こいつってコミュニケーション障害か」と内々に納得して、会話という人類史上最高のコミュニケーションを教授には諦めていたのだ。あいつに通じるコミュニケーションはボディタッチ(自在法による攻撃)だけだと思ってたのに、彼女はあいつと友達だという。
 ならば、まさか会話なんてしちゃったりするのか聞いたら、普通に話をするとのこと。
 これはもしかしたら今世紀最大の発見かもしれない。

「そんなに信じられないことか?」
「教授に友だちがいるようなキャラかと思ってさ。リャナンシーは──と、こっちの名前は伏せていたほうがいいのか?」

 姿を変え、名前まで変えてまで、この世に顕現しているリャナンシーはその名で呼ばれるのはあまりよくないのかもしれない。
 どこでどう噂が流れるか分かったものじゃないからね。俺の時もそうだが、本当に大したことがないことでも簡単に膨れ上がってしまったりするし、誰がどこで噂を知るかも分かったものじゃない。
 一応、この周辺には``紅世の徒``がいないことは把握しているが、``螺旋の風琴``が訪れた時のように俺の``紅世の徒``レーダーを欺くような奴もいかねない。怖い世の中だ。
 
「出来れば、な。しかし、親しい物は既にこちらの名も知っているからな。どちらで呼ばれようとそこまで問題ではない。どちらかと言えば」
「姿が違うことのほうか。気配を知っていれば、姿だって意味ないけど」
「欺く術は数多くある。だからといって追われるのはやはり面倒だが」
「それには同意するよ。追われるのは面倒」
「トラウマだよね。モウカにとって。あの頃は」

 教授に追われた日々がトラウマにならないわけがない。
 新人だった頃から巨大な``王``を相手にするだけでも危険だというのに、相手はあの変態王だ。心の髄から精神が削られていく思いだった。思い出したくもないかこの一つ。
 俺があいつを天敵だと思うのもその頃の出来事が相当に大きい。
 しかしあれだ。そんな教授の友人だと自ら名乗った有名な``紅世の徒``の``螺旋の風琴``と、こうやって方を並べて街を散歩するなんて夢にも思ってなかったな。
 ``紅世の徒``と一緒に呑気な会話をしつつというだけでも、十分に現実離れしているのに、相手は自在法の天才だし。思うところが多すぎるな。
 感覚的には敵国の有名武将と一緒に茶を飲んで笑い合っているとでも言うのだろうか。しかも、化かし合いで表面だけ笑っているのではなく、心底楽しく笑っているのだ。
 いかに今の境遇がおかしな日常になっているかが分かる。
 戦闘が起きず平和なのは願ってもいないことだけど。

「過去、幾度もあらゆる``紅世の徒``に追われて歯牙にもかけなかったと言えば『不朽の逃げ手』は有名だったはずだ。幾度も追われるというのには心情察するところもある」
「逃げ手だからね。逃げるのだけは得意さ」
「心情は『逃げてぇ。どこか遠くに』だもんね」
「お互いに苦労は絶えないようだな」
「みたいだね」

 お互いに大変なご身分なことだ、と愚痴にも似た感想。
 もっとお気楽で、誰も歯牙にかけないほどの強烈なフレイムヘイズか、歯牙にもかけないほど最弱のフレイムヘイズだったらよかったのに……あれ、今だって最弱を名乗っているのにこんな待遇なんだ?
 どこで一体選択肢を誤ったのか。後悔は絶えないよ。
 あえて過去を辿ってその原因を追求するというのなら、思い当たる節が多すぎて困ったものだ。例えば大戦であり、例えば強制契約実験であり、例えば教授であり。
 教授が関わることが二度も出ていることこそ、心情を察して欲しい。同情するなら安寧の地をくれと俺は言うだろうが。

「でも、俺は巨大な存在の力があるから逃げれるけど、そこら辺はどうなのさ?」

 ``王``と契約した俺と素質的に``徒``であるリャナンシーとでは存在の力の多さが根本的に違いすぎる。

「質問が抽象的すぎだな。言いたいことは分かるが。伊達に自在師と呼ばれていない、ということだよ」
「頭に天才を付けるべきだね。部類的には俺も自在師なのかな? ウェルどうなの?」
「モウカは……分かんないや」

 ためといて結局わかんないのかい! とは突っ込まない。どうせいつも通りのやりとりだ。
 自在師の概念は俺もあまりハッキリとした明確なものは知らないが、一に本質から発現する力以外の多種多様な自在法を扱うこと。これはまさに教授やリャンナンシーのようなタイプのその場で編み出したりする天才的なタイプが多い。フレイムヘイズでは戦闘狂で有名な『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーがこの手のタイプらしい。また、この手の自在師は、自在式に関する知識や技術が当然ながら長けている。
 本質から発現する力とは、俺で言うなら『嵐の夜』など、契約した``紅世の王``自身の特性を現す自在法のことを指している。
 そして、もう一つが複雑で大規模な自在法を操る者。
 過去で言うなら『都喰らい』という、都市をまるごと一つ飲み込む自在法を扱った``棺の織手``なんかのタイプだ。
 『嵐の夜』もここに分類されるようなことになれば、俺も晴れて自在師の一員ということになるのだが、なんとも言えない。
 『嵐の夜』自体の知名度は俺の代名詞と言えるほど広がっているようだし、それこそ、これ以上に二つ名的な他の呼び方をされれば余計に目立ってしまうではないか。
 個人的にはこういった二つ名や代名詞が付くのはなんだか格好よくて嬉しいのだが、素直に喜べない環境なので気持ちは複雑だ。普通のフレイムヘイズなら手放しで喜ぶのだろうけど。

「ならこの私がモウカに自在師と称されるようにしてあげるのはいかがかな?」

 ニヤリという表現が似合うような笑みを浮かべて、面白そうにリャナンシーは言った。
 その言いようはまるでウェルを真似たような言い方だったが、何故だかそんなに不快に思わない。
 ああ、そうか。
 これが貫禄ってやつなんだ。
 俺は彼女の言葉に苦笑しながら、遠慮すると返事する。
 リャナンシーに認められた自在師だなんて異名は懲り懲りだ。

「``螺旋の風琴``に認められたなんて言われたら、それこそモウカは色々と後戻りできないよね」
「ああ、思考回路がウェルと似通ってしまっているよ……」

 ショックを隠し切れないで、頭を垂れる。

「夫婦は似ると言うからな」
「言わない! ていうか夫婦じゃない」
「え、そうだったの!?」
「その驚きは似るという単語に対してなのか、本気で夫婦だと思っていたのか分からないからやめろ」

 後者だったら吐き気をもよおすくらい俺が萎える。
 自殺したいなどと考えたことが微塵もないのに、考えさせられるほどの衝撃が来るかやめて欲しい。
 ウェル、俺に人生を諦めさせないでくれ。

「私とモウカの思考回路が似通ってるだんてショックだよ……自殺しようかな」
「そこか。というか、ショックなのはこっちだ」

 それに自殺だって出来やしないし、させない。
 いや、正確には俺の器を食い破ってウェルがこの世に顕現させれば、自殺も出来ないこともないのだが、これは本来はフレイムヘイズの最後の``紅世の徒``への最期のしっぺ返しであり、自殺なんかの用途には決して扱わない。
 本来というか、常識的にはそうなんだけど……ウェルだからな……
 一抹の不安を感じる。
 俺の心内の正直な部分はこう告げている。
 『奴はやりかねない』、と。

「愉快だな。君たちのようなフレイムヘイズを見ているのは」
「そりゃー私のフレイムヘイズだからね」

 誇らしげにウェルが言った。
 その言葉に疑う余地など無く、彼女の俺への想いよく分かる一言。
 嬉しいような、でもやっぱりあまり嬉しくないようなそんな気持ちになる。表面的にだけ聞けばなんだか凄く良い台詞なのだが、その裏のウェルの本質。自身の欲望を満たしてくれる相手──愉快で、面白可笑しくて、変わっていて、そんな俺だからこそ契約したという事実を知っている俺としてはやはり複雑だった。
 ウェルの心境の変化という線は絶対にありえない。俺が俺である以上、生きることに固執するのと同じようにウェルにとっての面白いことを求めるというのは彼女の心理である。
 だから、通常であれば彼女のその誇った言葉には曖昧な表情を俺はするべきなのだろうが、

「そりゃー俺と契約しようなんて考えた``紅世の王``だからな」

 俺も誇らしげに返してやろうじゃないか。
 なに、これは当然だ。
 だって、ウェルじゃなければこんな俺の酔狂な願いなど叶えてくれようとする``紅世の王``はいないのだろうからね。
 お互い様ってやつさ。

「君たちは実に面白いな」

 リャンナンシーはそんな俺らを見て、大きく頷くと満足した顔で言った。
 そう、きっとこの俺たちと彼女との朝の散歩は絶対に必要なものじゃない。これからも俺の身に降り掛かるであろう不幸な出来事、面倒な厄介事のなんの為にも予兆にすらならない、何の意味もないものだろう。
 これは日常に溢れている楽しい出来事の一時にすぎない。
 でも、変に凝り固まった考え方をせずに純粋に会話を楽しむ。そういった俺にとってはこれ以上にない有意義な時間の過ごし方だった。





◆  ◆  ◆





「ええ、ありがとう。どっかの誰かさんとは比べものにならないほど為になる時間だったわ」

 リャナンシーが他に用事があると言い、リャンナンシーと別れた後も俺は珍しく街の散歩を続けてた。
 かなりのんびりとした時間を過ごし、例の練習場で少し気分転換に自在式でも弄ってみようと顔を出したところで、先客が居た。先客というものここに来るものは俺を除いたら一組のフレイムヘイズしかいない。
 しかし、そこには先程までの有意義な時間を過ごしてた本当の意味でのお客さんもご一緒だった。
 しばらくは、その練習を影から見守る恋人のような心情で見守っているところでの先のリーズの言葉だった。
 無論、俺が見学していることなどずっと前に三人は気付いている。

「誰かとは誰か」
「あら、居たの? 誰かさん」
「気付かない振りならもっと上手い振りをしな。チラチラ見て気にしてたのが丸分かり。リャナンシーを見習え」
「ふむ、だから言っただろう。それではバレているとな」
「しょうがないじゃない。演技することなんて忘れたわよ」

 十五年もの月日が経てば硬派だったあの人も軟派になる、ということはフレイムヘイズには当てはまらない。人間とは比べものにならない時を生きるための術なのか、はたまたそれは防衛本能なのかは知らないが、フレイムヘイズの精神的な成長というのはあまり見られないと言われている。
 俺がとてもいい例であると言えよう。珍しくもフレイムヘイズの典型例が俺に当てはまった。
 だが、例外というのはどこにもいるようで、リーズがその例外というのに当てはまるものだった。彼女の場合は、契約があまりにも異質過ぎたというのが大きいのだろう。
 それにしても、

「それにしても、色々と世話になりすぎたね」
「暇つぶしに付き合わさせたモウカが言えたことじゃないけどね」
「この程度は世話に入らない。恩に着る必要もなしだ」

 暗にお礼を言う必要性はないと諭されている。
 お互いに楽しく、いい時間を過ごしたということを言っている。
 こういう関係は好ましい関係だ。利用し利用されの関係というのもある種では明確で楽といえば楽なのだが、やはり何のリスクも背負わず、何の懸念も無い気軽な関係というのは精神的負担がなく済むのならそれに越したことはない。
 そんな関係を友、または仲間という……と俺は思いたい。
 『不朽の逃げ手』と愉快な仲間たち。ああ、なんと理に適った名前だろうか。我ながらネームセンスが恐ろしいな。
  
「『愉快』の中に私を入れ込まれるのは些か遠慮したいが」

 あ、そうですか。
 ささやかな拒絶が心に痛い。
 そんな心の痛みすら心地の良い日常だった。

「私も断るわよ」

 ははは、リーズそれは無理ってものだよ。
 君は既に愉快な仲間の一員なんだからね。
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