小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第二十八話(不朽のモウカ)

「やっぱりつけられてるな」
「だーね」
「そうなの? 私には分からないのだけど」
「ふむ、我にも分からん」

 そこは数百年という決して無駄ではない時間のおかげで分かるようになった、鋭敏化された感覚のおかげだろう。主に役に立つのは逃げる時のみだけど。その時だけ使えれば俺としては十分だね。贅沢は言わない。
 具体的な距離が分かるわけではない。
 この感覚で判るのは相手が何者であるかということと、相手のいる方向となんとなくの距離感だけ。今俺たちをつけているのは、今まで感じたことのないフレイムヘイズの気配だ。知ってる気配のフレイムヘイズのほうが圧倒的に少ないのだから当然だ。
 本当は『つけられている』という表現も少し違っていたりする。
 最初は近くにフレイムヘイズがいるというのはすぐに察知できた。ここらは完全にお手の物だ。相手が探知系の自在法を使ってこない限り、俺は気配察知に関しては負ける気がしない。
 察知して、さてどうしようかと悩むこともなく、いつも通りに下手に触れることを避けることにした。
 フレイムヘイズ同士の諍いは珍しいことじゃない。どいつもこいつも自己中心的なヤツらなのだから、ぶつかり合いは必然と言える。お互いの主義主張を譲らずに喧嘩、なんてものはどの時代も共通と言える。
 俺はもちろん他のフレイムヘイズがやって来ても謙虚な姿勢を崩さず、下手に出て、相手の琴線に触れることを避けようするだろう。だが、世の中が理不尽であることをよく知っている俺は、その謙虚な姿勢が時に無力であることもよく知っていた。ようするに、どんなに避けようとしても争いは起きる時には起きてしまうという物だ。実に嫌な事実だがね。
 俺はその根本から面倒事を避けるために、接触自体を拒むというのは当たり前の防衛手段だろう。
 なんで俺が自ら争いの火種(フレイムヘイズ)と関わらないといけないんだ。
 だから、俺のこの選択は必然。考えるまでもないこと。当然の結果。
 フレイムヘイズが近くにいる?
 あー、はいはい、面倒事は嫌なのでこちらから避けますよーっと。だからこっちに来ないでね。という訳だ。
 馴れ合いを戯れや弱みとか馬鹿な事を考える奴が多いフレイムヘイズは、こっちから遠ざかってやればわざわざ追いかけてくるような真似はしない。
 コミュニケーションを取ろうと近寄ろうとするものがいれば、そういう時は時と場合を考えてこっちも接触をしたり、しなかったりするのだろうが、そんな例がないので判断がつかない。とりあえず、逃げという手を取るのが安全だろう。
 そんな時に役に立つのが、人間の誰しもが平等に持つ感覚。視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚という五感もつぐ感覚。

「ああ、面倒事の臭いがする」

 第六感つまりは勘。時にはこれを嗅覚とも言うことがある。
 経験に基づいた結果から、脳がパターンに基づき結果を予測しているとも言うが、嫌な経験ばかりを詰んできたような気もしなくはないので、面倒事の時はきっと頼りになるだろう。
 俺はそう信じている。
 触らぬ神に祟りなしとも言うし、やはり関わらないのが一番の方法だ。
 ウェルも俺の考えていることが分かっているようで、そうだねーと俺の言葉を肯定する。リーズは何も言いはしないが、俺の方針がなんとなく分かっているのか無言で俺についてくる。異論はないようだ。
 俺たちは近づいてきたフレイムヘイズの気配から遠ざかるということで満場一致し、行動に移した。
 ……だというのになんてことだろう。フレイムヘイズの気配が遠ざかるどころか近づいているではないか。
 最初は進む方向が一緒なのかな、あら偶然と呑気に構えていたのだが、近づいてくるスピードが上がっていることから、その考えが的はずれであることを悟った。
 そこで出た発言が、『つけられている』である。
 俺のその発言にウェルは肯定したので、とりあえずは俺たちは今つけられていると仮定する。
 ただ、相手さんはあっちへふらふら、こっちへふらふらという気配の感じ方。ここから想像するになんとか距離を詰めている感じなんだろう。俺未満リーズ以上の探知の才能があると思われる。将来有望だな。
 今ならまだいっきに距離を離せば撒けるかもしれないな。

「リーズ」
「うん、逃げるのね」
「正解」

 ウェルのみならずリーズまで俺の行動を察せるようになったか。俺と共にした百年は無駄じゃなかったというわけだな。というか、俺の行動概念が明白で分かりやすいからなのかもしれないけど。
 逃げると決まれば、ここからは俺の独壇場である。
 いくら目立たないように自在法は使えないとはいえ、こちとら残念ながら追われることに慣れてるんだ。そうそう簡単に捕まったりしはしないぜ。
 言ってて情けなくなるときはよくあるけどね!
 あばよとっつぁんなんてお決まりの台詞は吐かずに、無言でひたすら速度を上げて逃げることに集中する。
 これでまた俺の秩序は保たれる。
 そう信じて。




◆  ◆  ◆





 対フレイムヘイズや``紅世の徒``を相手に逃げる際に重要なのは、気配を察知できない距離まで逃げることだ。気配を消す自在法という便利なものもあるが、その手のものは燃費が悪い上に、突然気配が消えたりすると怪しまれる節がある。
 逃げる時には逃げられたということを相手に気付かせないのも大切だ。
 仮に自分が復讐相手とされた場合、逃げられたと分かった途端にがむしゃらに追われたり、ありえないとは思うが空間ごと強烈な自在法を使われるという可能性もある。
 何より、逃げられたと気付けば、その場で即座にもう一度見つけようとするため自在法を使う場合が多い。これが相手に勘付かせることを遅らせることが出来れば、相手の自在法の範囲外へと俺が逃げることだって叶うのだ。そうすれば撒けたも同然。俺の勝ち。
 それに故意に敵に逃げられるのは逃げられた人物の誇示に関わることもあるが、故意でもなく気付けばいなくなっていたと思えば諦めもつくというものだ。たぶん。
 まあ、俺が逃げる際の鉄則はなるべく自在法は使わないことに限る。俺の自在法は目立ってしまうという大きなデメリットのせいでもあるが、何よりも存在の力をいざという時のために温存しておきたい。
 どうしようもなく戦闘になった時に、存在の力が空っぽでしたでは済まされないのだ。
 なので、存在の力をケチって使わずに、逃げるのは己の足で、である。近代なら車とかバイクとか、いくらでも交通手段やら足やらがあるが、この時代では車はあっても高いだろうし、機関車なんてチケット買うだけで日が暮れてしまう。
 最後に頼れるのは自分の体。俺の人生経験談の結論だ。説得力は十分だろう。
 俺の横を一緒になんとか逃走するリーズを横目にして、ペースを合わせられるように調整しながら走っていると、ウェルがぼそっと呟いた。
 
「誰だか知らないけど、モウカを相手にするなんて命知らずだよね」

 逃げることのみに特化しているフレイムヘイズだからな。これで追いつかれたんじゃ、逃げ手の名が泣いてしまうというもの。更に言うなら、俺の今までの努力の全てを否定されるようなもんだ。相手が天上天下唯我独尊なありえない存在ではない限りね。そんな奴が相手なら俺の命運も尽きたということ。
 それでも精一杯に悪足掻きはさせてもらうがね。
 あー、でも前はそんな奴を相手にしてたんだよね。
 ``棺の織手``アシズはなんだかんだ言って俺が今まで相手した``紅世の徒``の中では間違いなく一番の畏怖の対象だった。俺の相手にしたくなかった``紅世の徒``ランキングで堂々の第二位だ。もちろん一位は、言わずとしてあいつ。言葉にもしたくないやつだ。
 アシズはすでに亡き者だが、あいつは生きている分なお憎らしい。恨みで``紅世の徒``が殺せたらな……
 誰かそんな自在法を編んでくれないだろうか。いや、よく考えるとその手のネタ物は逆にあいつの取り分かもしれない。やっぱり誰も考えなくていいや。自分が恨まれてたら怖いし。

「俺は命を奪わないけど、俺を追うと命知らずになるとは。愉快な表現だ」
「でしょ?」
「だからって威張る必要はない」

 褒めたらすぐに調子に乗るお調子者だった。
 胸を張って威張っている様子がありありと目に浮かぶ。
 一度でいいからウェルの顕現した姿を見てみたいな。美人だったらいいなとか思うけど、それはそれでなんか調子付きそうだから、適度にブサイクでからかう場所があるといいななんて思ったり。
 フルカスは騎士だ。リーズのイメージからそれしか湧かない。

「ね、ねえ、いつまで逃げるつもりなの?」

 額に滲みでている汗を拭いながらリーズが、息も絶え絶えになりながら聞いてきた。
 俺と並走するのもやっとというのが、その顔の表情からよく分かる。逃げ始めてから数時間は経っているからな。常人にはちょっときついかもしれない。
 急な方向転換や障害物のある方向へとわざと進んだり、人通りのある街をわざと通過したりして撒こうとしているので、後から付いて来るリーズの負担が大きいようだった。
 最悪は俺が彼女を背負って逃げるというのも出来るには出来るが、それは最終手段だろう。
 ここまで長く続くことは予想していなかったので、最初の方に少しペースを上げすぎたかもしれないな。思ったよりもしつこいフレイムヘイズのようだ。ここまで来ると俺を追っているのはまず間違い無い。
 さて、ただスピードを上げる、障害を設けるだけではこれを撒くのは厳しそうだ。時間をかければどうにかなるかもしれないが、リーズが根を上げそうだし。
 うむ、ここに来てリーズが足手纏いになるとはな。ここで見捨てるというのも悪くない選択肢だが、せっかくここまで俺が育てた戦闘要員を手放すのはもったいない。彼女はもっと有意義に利用するべきだ。使い捨てをせずに再利用がモットーの俺は無駄にものを捨てたりはしない。

「そうだな。難しいところではあるけど、ウェルはこの調子なら後どれくらいかかりそうか分かる?」
「うーん、微妙に距離が離れつつあるから、今の時間の倍くらいかな……って、思ったけどすごく面倒だよ。そんな時間も逃げまわるの。こうなったら自在法でパーッと一気にさ」
「リーズなにか良い案はない?」

 ウェルの意見は基本的に俺には通らない。
 どう考えてもここで自在法を使って逃げるのは相手の目的が分からない以上、敵対する原因にしからない。`紅世の徒``なら遠慮無くぶっ放せるのに。
 悪手というよりは、そうやって面倒事が発生して俺の苦しむ姿を見て楽しみたいウェルの思惑が丸見えだ。俺は見え見えの罠に突っ込む猛者ではない。

「この、状態で……何か、考えろ、と?」
「ふむ、我が契約者は先程、もう無理、限界と我に言っておるぞ」
「……了解。俺が頑張って考えるよ」

 頼りになるのは自分だけだ……
 とほほと嘆きたくなるが、今は嘆く暇は無く。逃げる方法を考えつかなくてはいけない。
 追い詰められた時こそ、俺の真価を発揮するときぞと自分を必死に鼓舞しつつ思考を張り巡らす。
 まずは現状整理。遭遇時を一回目の分岐点だとすると、ここは二度目の分岐点だろう。
 選択肢は逃げることと打って出ることの二択。最良はこのまま逃げ切ることではあるが、打って出ることにメリットもあるにはある。出向かうということは、待ち伏せすることでもあり、地の利を生かせる。予め自身の逃げやすい状況を作り出すことが可能となる。また、話し合いによる無意味な対立も防ぐことができるかもしれない。
 メリットを並べると、これも悪くない気がするが、デメリットはいざこざに巻き込まれる可能性が高いことだ。俺を特定し近づいていることは確定なので、何かしらの用があるのだろう。その用事がどんな内容だとしても俺は面倒事であると断言できる。まして、命を普段から賭けているフレイムヘイズの頼みごとなんて、考えただけで悪寒がする。
 頼まれても断るということも可能だ。しかし、そこは血気盛んなお方が揃うフレイムヘイズ陣営。ならば、力尽くでなんてことは想像に難くない。
 
「はあ……」

こんなことを考えたら思わずため息も吐きたくなる。

「おや、深いため息だねー。若人よ悩めってね」

 こいつは……まあいい。普通の感性を持っていたら頭に来るような台詞だが、ウェルだしな。いちいち苛立っていられない。
 なんで、俺ばっかり頭を悩まなせなければならないんだ。俺は逃げる経験が豊富なだけで、頭は特別良いわけじゃないんだから。
 俺のため息を聞いてリーズは「大変ね」ととても他人行儀な言葉を俺に投げかけた。
 お前も考えろよと愚痴をこぼしたい。
 俺の心の声を拾ったのか、リーズは更に一言告げる。

「お前も考えろって言いたいの? 嫌よ」

 だって私、自慢じゃないけど頭は良くないでしょ?
 自分の頭の悪さを逆手にとって、考えることを放棄する宣言。
 もうヤダ、このコンビ。解散だよ解散。
 俺はそろそろ怒ってもいいよね。

「ふむ、同情するぞ」
「同情するなら、なにか考えてくれ」
「…………」
「ああ、もういいよ。とりあえず、現状維持ね。現状維持。足で逃げるよ」

 困った時は保留だ保留。
 しょうがないじゃないか。誰も何も考えないし、思いついてもくれないんだから。
 
「私はもうきついんだけど?」
「ギブアップしそうになったらすぐに俺に言って。俺が背負って逃げるから」
「え……あ、そんな……それは恥ずかしい……」
「恥じらいなんて捨てちまえ。それが嫌なら置いてくだけ」

 プライドなんて持ってたら何時かそれが重荷になって逃げられなくなるんだよ。
 だから捨てちまえ。
 プライドも、恥らいも、地位も名誉も。最初からそんなのとは無縁な俺にはどれも関係のないものだけどね。
 
「早く諦めてくれよ」

 俺の心からの願いだった。
 苛烈な逃走劇は久しぶり過ぎて心臓に悪い。俺の寿命の縮んでしまいそうだ。寿命ないけど。不老だけど。
 俺の嘘偽りのない呟きに、さすがに気の毒になったのかウェルが、でもと前置きをしてからちょっと真剣な赴きで言う。

「真面目な話。モウカ以上にフレイムヘイズや``紅世の徒``の異端の気配を、自在法無しで具体的に察知できる人はいないと思うよ」
「そうなのか?」

 確認を含めた意味で俺以外のフレイムヘイズ、今にも倒れそうな形相のリーズに問う。
 
「私、なん、て、さっぱりよ」

 呼吸の限界になりながらも正直に答えてくれた。
 そうか、リーズが一般的なフレイムヘイズの感覚だと仮定すると、相手が俺を追える理由は俺と同じくらい感覚が鋭敏で臆病な心の持ち主か、あるいは小心者か、もしくは、

「何か、自在法を使ってる可能性があるな。それも隠蔽に長けたタイプの」
「そう考えるのが妥当っぽいよね。発動時の存在の力の発現を感じ取れなかったことから考えると」
「自在師、ってことで、しょ?」
「ふむ、厄介だな」
「リーズ大丈夫か」

 息するのさえきつそうになってきている。
 自在師の厄介さというのは極めつけだ。
 何も自在法は自在師しか使わないというわけではないが、敵に発現を感知させないようにする程の高度な自在法を扱うとなると、自在師という線が高い。
 ただの戦闘特化のフレイムヘイズ(大半がこのタイプ)でも自在法は使うが、わざわざ自在法を発動するために隠蔽などするはずもない。むしろ、自在法で自己主張をするぐらいだ。俺はここに居るぞかかってこい、みたいな感じで。
 相手が自在師と決まったわけではないが、自在法に長けていると考えるのがこの場では普通だろう。
 
「もう……無理」

 今度こそリーズが根を上げて、足を止めてしまった。
 俺はしょうがないなと言いながらリーズを背負う。
 意外と軽いな。

「ごめんなさい」
「いいよ。この程度なら大して重くない」
「優しいねー。その優しさを私にももう少し分けてよ」
「茶化すな。あとそれは無理」
 
 これは本気でご対面も考えなくちゃいけないかもしれないな。
 でも、その事の意味は『逃げ手』である俺が、逃げ切れなかった敗北の証でもあるんだよね……
 はあ、なんで俺なんかを追い掛け回すんだよ。俺には理解できない。
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