小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第三十話(不朽のモウカ)

 天は俺に味方することなんて絶対にないのだ。これから過去の経験という偉大な実証を持って、断言できる、大変認めがたい現実ではあるが、俺は受け入れなくてはいけない。都合のいい時だけ神頼みをしてきた俺だが、こればっかりは自分の実力でなんとかしなくてはいけない。ああ、なんと慈悲のないことか、とは思うまい。
 古来より、神や悪魔といった非現実的な生き物、もしくはありえない存在というのは存在していた、とウェルは言う。その多くは自分たちのような``紅世の徒``であったとしても。
 キリスト教の神であるイエス・キリスト(キリスト教内では、キリストを神と崇める宗派とただの使いであるとしている宗派がいる)は奇跡を見せたというが、ウェルの言うことが正しければイエスはただのフレイムヘイズであったか、人化した``紅世の徒``であったかもしれないということになる。
 ここで驚きの歴史の裏側の暴露。イエスがフレイムヘイズであったという信憑性は甚だ怪しいが。
 しかし、ウェルたちが神や悪魔と称されるのは、なんとなくではあるが納得しやすい。
 人に駆け寄り、その者の全てを代償に力を与える『契約』といった行為なんて悪魔の『契約』と大差ない。また、人の存在を食らう行為も俺の知っている悪魔の行為を変わりない。自在法を扱い、ありとあらゆる現象を起こす姿など神と讃えられてもおかしくはないではないか。
 となると、神頼みなんて行為は、自己中心的で自身の興味や関心ばかりに注意がいくどうしようもない奴らである``紅世の徒``に、無償でお願いすることと同義になるではないか。
 なんという無意味さ!
 そりゃー慈悲だってないさ。
 だって普通の人間のことなど``紅世の徒``は歯牙にもかけないのだから。
 
「モウカ、待ち伏せするって言うけど作戦はどうするの?」
「作戦って言う程のものじゃないよ。簡単な話、地の利をこちらに働かせればいい」

 本当なら待ち伏せという方法は取りたくなかった。あくまでも最後まで逃げ切りたかったのだが、そうもいかない状況へと追い込まれてしまった。リーズが限界に達したというのもあるが、その程度の理由なら俺は足を止めることはない。
 気配が増えた、というのが答えだ。
 もう一つの気配はフレイムヘイズではない別の気配、つまりは``紅世の徒``である。こちらは和解が出来ない正真正銘の敵だ。
 ずいぶんと長い距離を通常ではありえないスピードで逃げまくってたせいで、エンカウントしてしまったようだ。
 軽く言ってはいるけど、内心では``紅世の徒``との遭遇かフレイムヘイズとの邂逅かの二択を強制的に強いられて、うつ状態とも言える。
 なんでいつもこうなるんだよと、己の運の無さに文句を言いたい。
 前を向けば``紅世の徒``で後ろを見ればフレイムヘイズ。ならば右か左を選択するというのもありなのだが、どうもきな臭い。いや、俺が下手に考え過ぎなのかもしれないが、罠の臭いがする。
 相手のフレイムヘイズはこの俺を相手にずっと追いかけてきた奴だ。この``紅世の徒``との遭遇だって実は偶然ではなく、ここにまんまと誘導されたということだってあり得るかもしれないのだ。
 これでは疑心暗鬼になってしまいそうだ。
 こんな事なら最初からウェルの言うとおりに、『嵐の夜』でふっ飛ばして解決の方が楽だったかもしれない。
 後悔しても仕方ないが。

「地の利をこちらにねー? リーズを上手く使うの?」
「それもあるが、ちょっと試したいこともある」
「試したいことって何? 私も関わってくることなんでしょ?」
「ふむ、お主に一計があると?」
「説明はちゃんとするさ。でも、あまり時間もないしね」

 俺を追っているフレイムヘイズとの距離はそこそこに開いているが大した距離ではない。フレイムヘイズならほんの数分で埋めることの出来る短い距離だ。呑気に作戦を教えている暇はないので、ささっと準備をして見て理解してもらうほうが早い。

「それじゃ、始めるか」

 リーズが興味深そうな目をこちらに向けている中で『嵐の夜』を発動させる。いざとなれば、近づいてきているフレイムヘイズも、この先に居る``紅世の徒``をも巻き込むことが出来る大規模な自在法だが、そんな無茶なことはもちろんしない。
 存在位の力を最小限に節約すると、小規模な高さ二メートル程の小嵐(こがらし)が発生する。小嵐というものの、俺の『嵐の夜』の性質をしっかりと受け継ぎ、雨と風の双方が発生して、雨に当たったモノの存在認知をさせないこうかもしっかりと発揮している。小規模故に公開範囲は極狭だが。
 小嵐という名前より超局地的な台風と言える。
 普段の『嵐の夜』の発生範囲なら、その雨量と風によって相手の視界をも塞ぐことが出来るが現状のものではそれが出来ない。ただ、その分目立つことがないというメリットが増える。
 この小型の『嵐の夜』を複数を一度に発動させる。
 
「へぇ、そういうことも出来るの。器用じゃない」
「制御が少し難しいんだけどね。なんとか出来るようにはなったよ」

 リーズは驚きの声とは裏腹に「で、これでどうするの」という顔をする。
 確かに、このままでは単なる曲芸だろう。こんな小さな嵐が幾つ発生しようとも、フレイムヘイズの前には大した弊害にはなりもしない。『嵐の夜』の本来の性質は妨害というのが一番顕著だ。大規模な自在法を展開することにより、相手の自在法を関係なしにこちらの存在を分からなくする、と同時にこちらは相手の位置を把握できる。さらに、視界も封じ、動きも多少は制限させて、味方が敵を奇襲させ易くするという補助効果がある。だが、このちっちゃな『嵐の夜』ではどれもあまり期待できそうにはないとリーズは思ったんだろう。
 そうだ。そう思うだろう。
 だがな、こうやって小規模にすることにだってしっかり意味がある。
 自在法というのは、存在の力を消費し、自在式に則った形で構築される。言わば、存在の力の塊そのモノだ。フレイムヘイズもまた同様に``紅世の王``を内側に灯した存在の力そのもの。
 ならば、自在法とフレイムヘイズの気配をごちゃ混ぜにすることは容易い事ではないのだろうか?
 例えるなら、フレイムヘイズが他のフレイムヘイズや``紅世の徒``を感知できるのは自身と同じような存在の力、血の匂いを感じることが出来るからで、その血から構築された自在法もまた血そのものというわけだ。分かりにくかったかもしれないが。
 隠蔽の自在法がその血の匂いを消す自在法なら、俺のやろうとしていることはその真逆。木を隠すなら森の中と一緒で、周囲一帯を気配だらけにすればいい。
 そのための複数の自在法の発生。それも同じ自在法だ。
 それだけではない。
 『嵐の夜』の特性も受け継いでいることで、相手をコレで囲ってしまえば、元の規模には多少劣るが同様の効果がみられるだろう。相手を雨に当たらせていることになるので、複数ある小さな嵐の雨一粒でも触れれば相手の位置の特定も可能だ。相手だけでなく、俺とリーズも『嵐の夜』で囲んでしまえば隠蔽度も増す上に、守りにも使えるだろう。自分の周りを囲っている嵐に近づけば相手の気配も察せられる。
 大規模で目立ってしまうというデメリットを解決し、地の利をこちらにつける有効な手となる。
 これが俺の作戦だ。

「この小さい嵐を予めリーズと俺を囲っておき、周りも小さい嵐だらけにする。その嵐の一つにでも追ってきているフレイムヘイズが引っかかれば、そこを囲いこちらの気配を察知できないようにする。そうなれば」
「私たちは奇襲し放題ってことよね? 貴方の自在法って本当に便利ね」
「モウカが百年もかけて完成させて、常日頃から改良を試みている努力の結晶体だからね」

 ウェルの言うとおりだ。
 俺には他にも自在法があるとは言うものの、ここまで重用しているものはないだろう。そして、これ以上に逃げに適した自在法もないと俺は自負している。過去の俺にこれを考えたことを褒めてやりたいほどだ。
 何度も窮地を脱してきた心強い力でもある。

「正確には奇襲し放題ではなく」
「逃げ放題だ、だよね? モウカ」
「ああ、その通りだ」

 きっと俺はいい笑顔をしていただろう。
 リーズはそんな俺の顔を見ながら、つられたのか面白そうな顔を浮かべて一言。

「ええ、とても貴方らしいわね」

 ここに一つの作戦の決行が決まった。





◆  ◆  ◆





「罠に引っかかるとは」
「キーッ、こんな小細工に! ドレル何とかならないの!?」

 釣り餌に引っかかったのは初老と言っても差し支えない男だった。おそらくはこの甲高い声の持ち主が彼に異能の力を授けた``紅世の王``だろう。男の名前はドレルというらしい。
 小細工だなんて言われようだが、間違いではないので修正する必要もないな。うん、これは作戦というよりもせこい小細工以外の何物でもないだろう。でも、それに引っかかったのはお前らなのだから、素直に捕まっててほしいな。出来れば敗北宣言もして、俺たちを追わないで欲しい。

「噂に聞く自在法とは少し形が異なるようだが、同分類のものっぽいね」
「早く術者出てきなさいよッ!」

 沸点が低そうな契約した``紅世の王``とは違い、契約者の方はかなり聡明な方のようだ。あっという間に小細工の正体にたどり着いている。自在法の性質も見破っていることから自在師なのも間違いなさそうだ。
 厄介な相手は嫌だな。
 この自在法の正体を完全に見破り、拘束を解くことが出来る可能性だって低くない。最悪の場合を考えて長期の拘束は不可能であると考えていたほうが良さそうだ。
 となれば、一目散に逃げるのが最も賢い選択だろう。
 別に悪いとも思っていないが悪いなドレルさん。どんな理由で俺を追ってきたかは分からないが、あんたの追跡もここまでだ。俺はすぐにでもあんたの手の届かない場所へと逃げさせて貰うよ。
 俺はドレルに別れの言葉も言わずに、リーズへと撤退の言葉をかけようとしたとその時だった。
 
「私は``虚の色森``ハルファスの契約者『愁夢の吹き手』ドレル・クーベリックだ。私はこの世界に名高い``晴嵐の根``ウェパルの契約者『不朽の逃げ手』に会いに来た。ただそれだけなんだ」

 ドレルが先ほどの自身の契約した``紅世の王``との会話でみせていた落ち着いた声ではなく、近くにいるであろう俺に呼びかける叫び声を出した。
 鬼気迫る。必死さを顕著に表すような声だった。
 その内容は自己紹介と、俺を追っていた理由。
 俺にただ会いに来ただけ、という言葉だ。
 なんだ、そうだったのか。必死に逃げたのが馬鹿みたいだったよ。もっと早く話し合う選択肢を選んでいれば、余計な労力を使っちまったじゃないか、あはは。
 とでも言うとでも思ったか。
 ただ会いに来ただけ? それが本当なら俺だって喜んで彼とは会おうじゃないか。一晩使って色々な情報を交換してもいいし、なんだったら命に関わらないことなら何かを協力をしてあげてもいいじゃないか。その場合はもちろんギブアンドテイクだけどね。ファンならサインだって握手だっていくらでもしてあげよう。
 だがしかし、その『会いに来ただけ』という言葉を証拠付けるものはあるのか。俺にその言葉を信じさせるほどの信頼は俺と彼の間にはあるのか。
 どちらも無いと即答できる。
 今まで自在法を使ってまで強引に追いかけてきた敵の言葉の『会いに来ただけ』なんて言葉は信用できないし、初対面なのだから俺と彼の間に信頼なんて育まれているはずもない。むしろ、追っかけてきた分だけマイナス印象だ。
 俺がドレルの言葉に耳を傾ける必要はない。
 俺がすでにドレルを見限ってこの場を離れようとしていることは、彼は気付くことはできないので彼の心からの叫びは更に続く。

「私は貴方に協力してもらいたいことがあって、貴方に会いに来た。一つは復讐のため」
(復讐を協力してくれだってさ)

 ウェルが懸命に笑いを堪えながらドレルの言葉に毒づいた。
 俺からすれば、ほらねって内容だ。
 復讐を協力は流石に予想外だったけど。それに準じた俺にも危険が及ぶ内容であるのは予想が出来ていた。
 復讐は個人の私怨の問題であるため、他の人物が復讐に横槍を入れられるのを普通は快く思わない。特にフレイムヘイズはその傾向が強いというのは必然の結果か。俺のような特異の性格のフレイムヘイズやリーズのような特殊なケースを除き、フレイムヘイズは``紅世の徒``への深い憎しみによって生まれるのだから。復讐自体が存在意義みたいな連中だし。
 その存在意義を他人に任せることなんて復讐者(フレイムヘイズ)はしない。それを目の前のドレルはするというのだ。俺が少し驚いたのもしようがないというもの。
 それにしても、復讐者たる彼が俺にこうやって協力を求めるということは一体どういう経緯があったのだろうか。
 パッと思いつく理由は、復讐相手が自分より圧倒的に強くて協力を求めたからと俺のようにフレイムヘイズらしからぬフレイムヘイズであるからの二つ。
 前者はプライドもクソも関係なくなるほどの敵が復讐相手という可能性がある。俺はせいぜい頑張れよと投げやりな言葉を送るしかないな。いや、言葉すらもかけずにこの場から退散するが。
 後者なら、復讐はしたいがとりあえず成せばいいとだけ考えているフレイムヘイズにしては奇特な考えを持っている御仁である可能性。珍しいねとは思うけど、俺ほどじゃないな。たぶん。
 どちらにしろ復讐が前提に来ている時点で、数多くいるフレイムヘイズたちとそこまで色が違う訳じゃないな。俺なんて契約した当初から今も復讐という言葉は頭のどこにもないんだし。
 俺の思考と逃げようとする行為を知らないドレルの語りは止まらない。

「一つ目は協力してもらわなくても最悪構わない」
「え、ドレル!?」

 俺の足が止まり、ウェルが興味深そうにへぇ~と言ってる。
 相方の驚きなんて知ったこっちゃないとばかりにドレルは最後の言葉を言う。

「二つ目、貴方には『外界宿』の再建に協力してもらいたい! 私が貴方に会いたかった理由はこの二つだ。どうか話し合いの場を設けて欲しい……」

 どうやら彼も復讐者という仮面をつけているだけで俺と同じ部類の変人らしい。
 『外界宿』の再建か。果たしてどんな内容なのかな。
 
「ねえ、モウカ」
「うん? どうした?」

 一呼吸間を開けて、ウェルは久々にとても愉快そうに言った。
 
「面白そうじゃない?」

 いやはや、数百年一緒にいるとあれなのかな。
 犬が主人に似るのと一緒で、フレイムヘイズと契約した``紅世の王``も、

「そうだな。俄然興味が湧いてきた」

 似るのかもしれない。
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