小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第四十四話(不朽のモウカ)

 モンテベルディを仲介して送られてきたドレルからの書類。定期的に送られてくるこれには、現在の欧州の世情が多分に書かれていて、申し訳なさ程度に個人への世間話が書かれている。欧州の世情については、モンテベルディや俺の代わりに度々遠征に出ているリーズから直接話を聞いているが、欧州を取り仕切ろうとしているドレルの情報網のおかげか、その書類には誰からも聞いたことがない情報が幾つもあった。
 さしもの俺は名目上こそこのコーロを守り手だが、実態は引きこもりのような生活をしているに過ぎない。自堕落すぎる生活は誰にとっても何も生み出さないので、密かには活動しているものの表向きはほとんど現代のニートのような生活だ。
 だいたい、俺が必死に活動しなくてはならない状況に陥ってしまうほうが現状では問題だ。俺の今の立場には色々と思うことはあるが、現在の立場は俺がここの最後の砦のようなもの。俺が動く時は最悪の事態が発生した時。最弱のフレイムヘイズを酷使しなくてはいけないほどの、どうにならない絶望が押し迫って来た時だ。
 そう考えれば、なるほど。俺が変に動かないほうが平和で安全じゃないか。
 コーロにやってきて、ここに居る妥協点をそうやって俺は見付け出した。
 本音を言うならば、外界宿はフレイムヘイズにとって最も安全な場所と言われていようが、一箇所に留まることの危険性があるし。ここ最近で有能性を見せつけている外界宿に危険視した``紅世の徒``が襲ってきかねない。いくら気配隠蔽の宝具『テッセラ』があるといっても、どんな不祥事から何が起きるかなど分からないのだ。
 それに、ここはあまりにも死から遠すぎるのも問題だ。
 死から遠いのは、死から逃げる俺にとってはまるで好都合のように思えるが、実はそうではない。過ぎた平和は争いへの抵抗力を失うように、死から遠ざかれば死への抵抗力を失う。俺の今までの不遇によって積まれてきた経験を失い、勘を無くしてしまう。そんなことがあるかもしれない。
 一日二日、一週間や二週間で容易く無くなるような軽いものではないが、その場で甘んじてしまえば、何れは無くなってしまうだろう。
 でも、それ以上にそんな生活は耐えられないだろう。
 ウェルがではない。ウェルもである。
 ようするに、俺が耐えられない。
 完全な平和なんかよりは多少の荒事があり、波乱が含まれる不完全な平和を俺は望む。
 と言いつつ、波乱は波乱でも命に別状ない適度な刺激がベストであると、俺は常々そう思う。何事も適度と適当こそが楽で楽しい充実した生き方だね。
 外界宿に寄りかかっている現状に甘んじること無く、時が来ればまたここを去る。けれども、今はここに居るしかない。どうしても嫌になった時、その時は力尽くでも抜け出せばいいだけなのだから。

「さてと、暇だからいつも通りにドレルの報告書でも読むとしよう」
「本当に退屈だよね。あーあ、何か面白い事起きないかな。例えば、ここに``紅世の徒``が襲ってくるとか」
「洒落にならないことを言うな」
「モウカが涙を流して逃げるのが眼に浮かぶよ。うん、いい目の保養だね」
「今から涙流していいか」

 それに目の保養ってどうなんだ。
 俺の内に納まっている``紅世の王``的には。そもそも目の保養の使い道はあっているのか?
 暇だからウェルの軽口に付き合いつつ、相変わらずこいつの感覚はよく分からないとため息を吐いてから、ようやく書類に目を通し始める。
 いつもと変わらない真っ白とまでは呼べない紙の色に、癖のある文字が書かれている。その書類を一ページ、ニページと進めて読んでいく。
 始めに書かれていたのは、世界各地の外界宿の状況。前に聞いたのと大きくは変わりなく。``紅世の徒``との小競り合いなどの小さな問題こそ尽きないようだったが、危険視していた``紅世の徒``の組織だっての行動は見られていない。あくまでも、普段よりは活発になっているくらいの変化にすぎない。
 これは俺がここでのらりくらり出来ていることこそが証明になるだろう。うん、平和でよろしい。
 知っている情報が載っているページはさらりと流し読みしつつ、ページをめくっていく。いつもなら、ここらでページが途絶えてもおかしいのだが、余っている紙の枚数がいつもの数倍もあることにここで気づく。
 気付くの遅いと思う事なかれ、何気ない動作で暇つぶし程度で読む行動は、朝の新聞と同じ要領で読むのに等しい。つまりは新聞のページが上下したとしても、それに気付く人間は数少ないのと同じ事。
 何か面倒事でも起きたんじゃないだろうな。
 訝しながらもここで読まないなんて選択肢があるはずもなく、少しだけ緊張した趣きでページを捲った。BGMのつもりなのか、ドクンドクンと声に出して俺の心臓音を見事に再現して言うウェルが鬱陶しい。楽しそうに言うのが、とても嫌らしい。
 ウェルの言葉のおかげか少しだけ緊張が解け、ページを進めると真っ先と目についた文字は、

「神?」
「うわー、しかもあの噂好きの神だね」

 神と呼ばれる``紅世の徒``と、封絶に関するレポートだった。





◆  ◆  ◆





 神の存在は多種多様である。
 世界の最大宗教であるキリストだって、イエスを神にしたりしなかったりとすでに割れていたり。二番目、三番目に大きな宗教であるイスラムやヒンドゥーといったように、神と一言言っても崇拝する相手が異なっていたりする。日本を例にあげてしまえば、八百万の神と称し、ありとあらゆる全てのものを神に仕立て上げてしまっている。
 あまりに多すぎる神の定義のために、神の存在は人間にとっては偶像的で、人間が及びもしない遠い存在のように感じるが、とても身近な存在であるともいえる。
 とはいえ、多すぎるために存在も曖昧で定まっていないのも神の特徴といえるだろう。
 これが人間における神だと俺は思っている。

「``紅世``にも神はいるよ」

 とウェル。
 いつだったか、``紅世の徒``の数や種類について問うた時に聞いた言葉。ウェルのような快楽主義、愉快主義でフレイムヘイズの使命をなんのそのとかっ飛ばす``紅世の王``もいれば、そればかりに固執する``紅世の王``だっている。楽しいからの一言でこの世に顕現し、好き勝手に人を食い荒らす``紅世の徒``だっている。彼らがどの程度存在していて、どれほど危険で、どんな可能性を満ちているのか興味を持たない方がおかしいし、敵になる可能性のあるモノの情報を事前に体に入れようとするのは当然の成り行きだ。
 俺の問いにウェルは楽しそうに答えた。

「無駄だよ。無駄。私たちは常に消えたりするけど、常に生まれもする。人間と同じ。だから、全ての私たちを特定し、全てを知ることなんて無理」

 そう言われてしまえば、不可能なのだろう。
 だが、この言葉には続きがあった。
 ウェルは、だけどと言ってから、

「ある種の区別はある。``王``と``徒``は種別ではないけど``神``と``徒``は少し在り方が異なる」
「それは``紅世の徒``が神と崇拝しているってこと?」

 神の存在が``紅世``にある事自体に驚きを隠せなかったが、あると言うのならばあるのだろう。人間は超常的な存在を神と仮に称している節があるが、``紅世``でもその法則が一緒なら、一体どれほどの力を持ってして、崇拝され神と呼ばれているのか。
 空恐ろしくて考えが及びもしない。
 ただの人間に力を与えて、これほどまでの奇跡を呼び起こしているというのに。
 ウェルはあははと軽快に笑う。

「崇拝なんてするわけ無いじゃん」

 ですよねーと思わず言ってしまいそうだった。
 ウェルが誰かを敬い、奉っている姿なんてとてもじゃないが、``紅世``の神様以上に想像できない。
 崇拝してたとしてもそれはきっと、お笑いの神様とかそんな存在だろうな。少なくともまともな神ではない。

「人間の神みたいにいるのだかいないのだか曖昧ではない。``紅世``で神と呼ばれる``紅世の徒``は確かに存在しているんだよ。姿もあって形もある。意思もあれば意義もある。実際にどこまでも現実的に存在している存在」

 人間の信ずるところの神とは根本的に違うらしい。
 今までも言っての通り、人間の神は不確定。存在自体が怪しすぎる存在。はっきり言うならば、いると言えば、居るのかもしれない。居ないと言えばいないのかもしれない。誰もその存在を証明できないものだ。
 ``紅世``の神はそれとは完全に違うとウェルは言っているのだ。
 不確定どころか明確。確定情報しか無い。
 それが神であると定まっている。
 一つの存在、一つの種別として。

「だから、人間の神とは在り方が違う。私達にとっては神は崇拝するものなんかではない。私だからって崇拝してないってわけじゃないんだから、勘違いしないで」
「でもさ、ウェルの場合はその``紅世``の神が人間と同じように崇拝するような存在でも崇拝しないでしょ」
「もちろん!」

 自信満々に、声高々に、威張って言った。
 なら勘違いもクソもないじゃないかと俺は突っ込むことはしなかった。
 今更、分かりきってることだしね。彼女の為人は。

「ん、待てよ」

 ウェルのさっきの言葉に一つ違和感を感じた。
 ``紅世``で神と呼ばれる``紅世の徒``? 神は神であって``紅世の徒``とは違うのでないか?
 俺の疑問をあっさり見抜いたウェルが一言。
 その二つの関係は``王``と``徒``の関係にほぼ等しい、と。
 この2つの関係は、語るまでもないだろうが、単なる知名度と持ち得る存在の力の差にすぎない。種別でなく区別であり、他より多くの力を持ち、その力を奮って名をある程度馳せたものには称号として``王``と呼ばれるようになっているだけ。
 種としてはどちらも変わりなく``紅世の徒``である。
 それと同じというならば、``神``は名からして``王``よりも更に優れた存在。ぞんざいな言葉なら``王``のすごいバージョンとでも言うべきか。
 かなり雑な解釈であることを承知しながらも、ウェルに確認を取る。

「間違ってないかな。うん、間違いじゃない。確かにあいつらは強い。その力の一端はモウカも見たことがあると思うけど」
「見たことが? うーん……」
「あと、付け足すと。神を簡単に言うなら、ちょっと変わった『特殊能力を持つ``紅世の徒``』っていう感じかな」

 なんだか易い表現だけど、分かりやすい。特殊能力持ちね。
 ウェルが俺も神を見たことがあるというので思い出してみたが、すぐに結論が出る。
 俺は神を直視した記憶はないはずだ。
 いや、神と言っても``紅世の徒``とそこまで変わりないのなら、敵として、または味方(フレイムヘイズ)として見たことがあるのかもしれない。
 敵として印象に残っているのは……やっぱりあの迷惑王だが、強さとして記憶に残るのはあれしかいない。
 大戦の発端である``棺の織り手``アシズ。
 あれの存在の力の量は俺の現在過去を通して最大級である。他に類を見ない膨大さであった。

「すごかったけど、忘れてるよね。``棺の織手``は『都喰らい』によってあそこまで上り詰めたんだよ」

 そういえばそうだった。あれさえなければもう少し、楽に生き残れたし、俺の知名度がここまで上がることがなかったのだろうな。
 ならば、味方として圧倒されたのはあの人しか居ないだろう。欧州最強の名を誰もが認める天上天下最強のフレイムヘイズ。
 最古のフレイムヘイズと呼ばれたあの巨神兵もどきも、劣らないと俺は思うのだが、なんというか悩むがオーラが違う気がする。あの人は雰囲気だけでも圧倒される覇気を纏っていた気がするんだよ。
 出会った中で神に値しそうなのは、彼女。

「『炎髪灼眼の討ち手』……死んじゃったけどマティルダさんとか? あの人とタッグを組んでた『万条の仕手』の方も強かったけど、マティルダさんは雰囲気で格が違うイメージがあるんだけど」
「せーかーい! そう、『炎髪灼眼の討ち手』は``紅世``真正の魔神。``天壌の劫火``アラストールは天罰神と呼ばれる神。『炎髪灼眼の討ち手』が``棺の織手``を倒すことが出来たのは、その契約したアラストールの天罰神たる力のおかげだしね」
「天罰神?」

 役職のような名前だな。
 名の通りに天罰を司っているのだろうけど、この言い方ならば他にも何かしらを司っている神がいるってことになる。
 これは神が複数いることを示めしている。

「天罰神は数ある神の一柱に過ぎない。私がさっき言った噂好きの神は、堅物の天罰神とは違う神。導きの神と呼ばれてる」
「導きの神、ね。天罰神に比べて随分分かりづらいね。それが今回現れたのはどういう意図なのか」
「それを報告したのがその書類なんじゃないかな」
「あ、そっか」

 すっかり忘れていたよ、書類の存在を。
 俺が書類の存在を忘れてしまい閉じてしまったので、一枚一枚捲りながら、先ほどのページまで遡っていき、ようやっと神の文字が初めて出てきたページまで戻ってきた。
 まず最初に書いてあったのは簡素な結末だった。
 アメリカにて導きの神``覚の嘨吟``が神威召喚される可能性がある、というもの。
 以下には、その理由が幾つも書かれている。
 一番の理由には、アメリカでの戦いが上げられている。
 封絶が存在しなければ、アメリカでのフレイムヘイズ同士の戦いで、こちら側は人間社会に手を出すな、報復するなと言っているにも関わらず、多くの人間を巻き込んでいたことが簡単に予想される。
 しかし、封絶があるおかげで人間への干渉を妨げられ、今に至るまで人間への被害は全く出ていなかった。
 奇跡に等しいこの『封絶』の活躍は、あの珍しがりの目につくものであろうと書かれているのだ。
 ウェルはその文を見て、うんうんと肯定して、いきなり「あ」と声をあげた。

「分かったよ、モウカ! あの``螺旋の風琴``がモウカだけに『封絶』の自在法を教えた理由が。そうか、うん、それなら予想がつく。いやー、なんていうかこの展開まで予想してたのかな?」
「おい、ウェル。一人で納得してないで教えてくれないか」
「いいけど。そうだねー。簡単に言うなら……モウカは、利用されたんだよ。友人だから特別に教えたのではなく、心算と打算の下でそうなったに過ぎないってことだね」

 意味が分からないぞ、ウェル。
 俺はこう頭脳派に見えて、全然そんなこと無いのだから、遠まわしに言われてもうんともすんとも引っかからない。
 訳が分からないの一言で終わってしまうぞ。
 俺が全く理解できていないのを分かってか、ウェルはまあまあと言って宥めてくる。

「結論から言うよ。``螺旋の風琴``はモウカにはフレイムヘイズに『封絶』の知名度を上げて欲しかったのは事実だよ。ただ、それだけじゃ革命に至るまでにはならない」
「そりゃね。一介のフレイムヘイズに出来ることなんて限られてるし。例え、フレイムヘイズに広まっても``紅世の徒``にも広がるかなんて分からない」

 封絶はどちらかと言えばフレイムヘイズの方が得をする自在法のように思える。
 勿論``紅世の徒``にも利便性はあるのだが、それを理解するのにはそれなりの時間を要するだろう。その時間はたった数十年ではなく、もっと大きな時間が必要だ。
 変革を起こすまでにはそれほどの時間がかかり、常識とするには更に時間のかかること。
 だから、俺が「便利だよー」「戦闘の度に必ず張ってね」と言った所で、それが守られるようになるのは、果たして何時になるか。下手すれば守られるようになる日が来ないかもしれないのだ。
 封絶は革命を起こすことを確信しているが、それがどれほど難しいことかも知っている。

「そう。だからね、``螺旋の風琴``はモウカには広めるための下地作りをしてもらうことにしたんだよ。ある人物が目をつける程度になるまでの下地作り──噂作りを、ね」

 ここまで言われて、ようやく分かった。
 ``螺旋の風琴``にまんまと利用されたと理解した。
 何が「さて、なんのことやら」だ。完全な俺の勘違いじゃないか!
 俺はこのやり場のない気持を沈めるために、部屋を勢い良く飛び出してどこかへ走りだした。
 寂しいテーブルの上には、くしゃくしゃになったドレルからの書類だけが乗っていた。
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