小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第四十五話

 頭を冷やして冷静に考えれば、利用されていたとしても所詮は命には関わらない事。裏切りと表現するにはいくら何でも大袈裟すぎるし、最初に教えてもらったメリットは確かにあった。
 そのおかげで、誰よりも早く『封絶』の対処法を生み出すことが出来たので、それで利用したことはチャラにしようではないか。
 なんて言うと、とっても小物臭がする。
 大丈夫、間違ってない。
 少なくとも俺は大物や大器とは言えないような人間だし、生き様をひたすら晒すような人生なので、小物と言われても否定しない。いつも逃げ腰なのは真実そのもの。
 ただやっぱり、リャナンシーの真意を俺の頭では理解出来そうにはない。ウェルはどことなく理解したふうな発言だったが、果たしてそれがどこまで合っているものか。甚だ怪しい。
 俺もあの神を喰い付かせるように仕向けたのは、間違い無いとは思う。これが本当の神頼みとかいうやつなのかもしれないな。
 俺も願ってみようかな。平和な世界にしてくださいって神に。

「叶うはずもない願いはさておき、続きを読むか」
「紙はもうくしゃくしゃだけどねー」

 むしゃくしゃしてやってしまったくしゃくしゃの紙を、破けないように丁寧に皺を取りながら広げてページをめくる。所々に、穴が開いてしまって読みにくかったが、自業自得なので文句の言いようはない。
 神について書かれている項目まで飛ばし、その先に書いてあったのは封絶の成果。
 欧州のフレイムヘイズの浸透率ははっきり言えばいまいち。封絶を推奨しているのは外界宿であり、そこに定期的に通うようになっていたり、積極的に利用しているフレイムヘイズの絶対数がまだ少ないため、これはどうしようもない結果だ。
 やはり古くからの一人一党のフレイムヘイズの悪しき風習の改善の難しさが垣間見える。尤も、ドレルが協調性を唱え始めた時の絶望的な状況に比べれば、順調といえる成果ではある。
 今のところのドレルが上げた最大の成果といえば、各外界宿との連携が不完全ながらも出来始めていることだろう。
 その結果、ただのフレイムヘイズの溜まり場と化していたものが、徐々にだが組織として機能するようになっている。ここに至るまでの努力は何もドレル一人に限らず、俺が現在務めているコーロの協力も大きなものだっただろうと思う。
 その見事な連携プレイの結果、俺がこうして巻き込まれているのも欠かせない事実だ。
 くそぉ覚えてろよ! と愚痴をこぼすのも忘れてはいけない。本人達のいない所でしか愚痴を言う事を出来ないこの無力な身が恨めしい。
 すっかり外れてしまった思考を戻すためにも、紙に書かれている内容に集中する。
 欧州での成果とは別に、アメリカでの成果は多大なものであることが示されていたが、これ自体は神の項目にて既出のため割愛された内容だった。
 その内容にも書かれていたのは、人間への隠蔽と不干渉の徹底化に成功した事。かつての大戦の時のように、戦場の被害が人間に及ぶ事無く、地殻変動も起きない、ある意味では人間に平和な戦いとすることが出来ていたようだった。
 身内の暴走を止めに行ったのに、結局人間にも被害を出してしまいましたでは笑い話になってしまうから、この成果は``紅世の徒``にとってはどうでもいいかもしれないが、フレイムヘイズには大きな成果。これからの戦いの吉兆を表すものになる。
 あとは……

「あとは、あの神が``紅世の徒``に宣伝するだけと」
「うん。それについてだけどもう問題ないよ。今まさに」

 ──受信した
 なんともまあタイミングの良い神だ。
 今、この世界に居る``紅世の徒``と``紅世の王``と契約したフレイムヘイズが歴史の立会人となった瞬間であった。
 かくして、神様のありがたーいお言葉により、全世界の``紅世の徒``とフレイムヘイズに『封絶』の存在が認知され、これが戦闘における際の常識的な自在法になるだろう。
 ここに至るまでは大した時間を必要とはしないはずだ。それこそほんの数年、もしかしたら数ヶ月で常識になるかもしれない。
 ``紅世``の神の影響力はそれほどまでにすごいもの、とウェルは言う。
 街一つの存在の力を全て吸い上げて肥大化しすぎた``紅世の王``を、顕現さえすれば一撃で倒せるほどの力を持つような神々だしね。その影響力は確かにすごいのだろう。
 今も常識となっている幾つかの自在法も、かの神の御触れによって成されたというのだから、これでリャナンシーの目的も達成できたことだろう。
 封絶の形式化によって世界がもう少し平和になれば、俺も願ったり叶ったりだ。

「これで、モウカもまた一躍有名になるね」
「は? なんでよ?」

 ウェルの唐突な言葉にうっかり何も考えずに言葉を返してしまった。
 しかし、俺のその言葉にはあえてウェルは答えを返さず、ふふふと気味の悪い含み笑いをするのみ。暗に、面白い事だから自分で考えてみろと言っている。
 うーむ、と唸りながら考えてみる。
 何故一躍有名になるか。
 封絶自体を考えついたのはリャナンシーだ。当然のことながら、その事についても神が直接公示した。俺はリャナンシーに直接封絶を教えてもらい、それを少数のフレイムヘイズに教えただけ。たったそれだけだ。
 いやまあ、多少教えただけでアメリカでの戦闘は大きく様変わりしたり、おそらくは神に興味を持たれる要因の一つとなった訳だから、これが理由と言えば理由なのか?
 だが、その事について神の言葉で触れるようなことはなく、単に封絶という自在法がリャナンシーによって編み出されたよ。これで人間との不干渉がより効率的に保たれるね。と言った、単純といえば単純なものだった。
 これは俺が分かりやすく簡略化したもので、実際はもっと重々しく、中々に理解しづらい言葉だった。なんで偉い人の言葉って、そう難しくする必要があるのだろうか、と場違いな感想を抱いたりもしたが、今は関係ない。
 
「分からないならいいよ。そのうち分かると思うし」
「分かりたくないな」

 これ以上の知名度は正直いらない。全くいらない。全然いらない。
 本当は今ある知名度だっていらないのだ。
 利用できる分には利用しているが、将来的に身も心も疲れ、楽しみはなんてどうでもいいから隠居したいなんてことになった時に支障をきたす恐れがある。
 そうでなくとも、色々と危ういのだ。変な期待をされたり、会う人会う人に勘違いを解いたりしなくてはいけなくなるかもしれない。余計な手間だし、話をするのが気まずくなったりするのは目に見えている。
 
「まあいい。まあいいさ。今はそれよりも早く終わらないかな、アメリカでの戦いは」
「自由に旅に出てた日が懐かしく思えるよね」
「ドレルに会ってからか……こうも縛られてるのは」

 彼が並のフレイムヘイズであれば、俺は力技なりなんなりと、魔の手から逃げ果せることが出来たのに、ドレルはいろんな意味でやり手。俺にあの手この手で仕事を押し付けたり、言いくるめられたりされて、いいように利用されている気がするのは気のせいじゃないはずだ。
 どうして、俺の居場所が分かるのだろうか。すごく疑問だ。
 俺は``紅世の徒``だけでなく、フレイムヘイズに対してだって身を隠すように生きているのに、彼からの連絡はちゃんと行き届く。もしかしたら、俺専用の監視網でもあるのだろうか。
 本当にありそうな所が怖い。
 もうちょっと未来なら、発信機やらGPSやらで居場所を掴める機会があるが、今の時代にはない。あるとすれば、監視するような自在法か……ありそうだ。とてもありそうなのが、更に怖い。

「頼られるのは悪い気はしないんだけどね」

 この身は人外なれど一人の人として。他の人に頼られるのは、中々どうして心地の良いものだ。自分自身で、他の人の役に立てられるような実力がないと思っているから、余計に。
 それでも、厄介ごとが含むのであればなるべく遠慮したい所ではあるのだけど。
 気まぐれで、気分転換に。その程度の気持ちで挑めるような依頼やらお願いごとなら、喜んでとまでは言わないが、暇つぶし程度に手伝うのもやぶさかじゃない。
 だというのに、俺の力が頼られるのは何を間違ったのか戦場やそれに準ずるものばかり。もっとおじいちゃんの肩たたき的な和むお手伝いはないものか。
 ……でも、これでは頼られてもあまり喜べないかもしれないか。お小遣いは貰えそうだけど。
 そうか。部活動の助っ人的なお手伝いが実に良い。命の危険もない、頼られ甲斐もある。達成感まで付いて来そうだ。

「それは命の危険がなければいいんだもんね?」
「ああ、それなら何でもいい。命さえ失わなければね」

 ある程度のリスクならば望むところさ。





◆  ◆  ◆





 一八八○年。いよいよ十九世紀もあと少しで終わりを告げようしている。だのに、未だにアメリカでは戦い──戦いに名をつけるのも馬鹿らしいとされ、単純にアメリカでの身内同士の戦いは内乱と呼ばれるようになり。終わりの兆しを見せつつもまだ終わっていない。
 遠いここ、欧州の地では、今も忙しなく『モンテベルディノコーロ』と『ドレル・パーティ』が平和の為に身を尽くしている。俺も一応は、パーティとコーロの双方の位置に立つ特殊な立場にいる。
 一応、俺がここに居る意義としては、欧州の重鎮たる『不朽の逃げ手』がどんと構えていること自体に意味合いがあるので、何か急用がない限りは特にこれといってする必要はない。
 ここに着任当時は、ピエトロに例外のお願いをされたが、それを俺は難なくかわすことには成功した。
 そのお願いを事を率先して受けたリーズが帰ってきてから、仕事でのエピソードを楽しそうに、自慢するように語っていたのは比較的記憶に新しい。
 女の子らしいというか、子どもらしいというか、「ねえねえ」と笑いながら甘えるその姿は歳相応で、無骨な武者が多い、外界宿では俺の癒しの対象だった。
 だって、フレイムヘイズには女性も多いが、誰も彼もが女傑と言った感じだし、レベッカなど一人称からして俺。特技は爆破。女の子らしさの欠片もない。美人ではあるのだけど。
 そんな彼女らとリーズを見比べれば、そりゃあ天と地ほども差があるというものだ。
 無論、そんなことを猛者たる彼女らに直接言ってしまえば、身を滅ぼされてしまうので言わないが、俺からすればもう少し花を持って欲しい。お淑やかさを身に付けて欲しい。
 ピエトロならそんな彼女らは、戦場に咲き乱れる花もまた美しいとか言うのかもしえないが、彼女らは戦場にしか咲かない花。戦場でこそ咲く花。
 戦場では、散っていくことしか出来ない枯葉のような俺とは相容れないのかもしれない。
 その戦場とは程遠い、この執務室暮らしももう慣れたもので、テーブルやら本棚やらに愛着が付きそうだった。
 十五年。
 このコーロを補佐するためにやって来て、着任した年数でもあるし、内乱が続いている年数でもある。俺の歴史に比べたら非常に短いが、戦闘期間としては非常に長い。つくづく、アメリカに向かわなくてよかった。あの時のドレルの二択で、猛者がたくさんいて俺を守れそうな人がたくさんいるからとアメリカを選択していたら、そんなにも長居時間を戦いに囚われていたらと思うとゾッとする。
 この十五年で、俺の身に危機が訪れることはなかった。
 ウェルなんかは「つまらなーい」なんて駄々をこねる。肩透かしと言われればそうなのかもしれないが、俺はそこにはさすがに待てと突っ込む。そう毎回毎回、何かに巻き込まれていたら身が持たないどころか、命が持たない。
 日常が平坦すぎるのは俺も問題だとは思うが、この時期にわざわざ身を危険に晒す必要もないだろう。今は休息日。戦いに明け暮れた日々で酷使した身体を休めるいい機会だ。
 俺の場合は酷使しているのは、身体よりも精神面かもしれないが。
 リーズはというと、

「平和ね」
「ああ、そうだな」

 俺と平和であることの喜びを共有していた。
 ウェルとは大違いだ。
 アメリカでは内乱だ、ここでは平和だなんだと言っているが、たった十五年で世界は大きな様変わりを見せている。この世界とは人間社会ではなく、フレイムヘイズと``紅世の徒``の世界だ。
 理由は言うまでもなく一つの自在法。封絶によって。それも良くも悪くも。
 封絶によって一般的にフレイムヘイズと``紅世の徒``の双方に良い影響が出たのは、本来の用途通り人間社会との隔離が上手くいき``この世の本当のこと``の露見をより確実に防げるようになったこと。``紅世の徒``は人間にその暴挙を気付かれなくなるし、フレイムヘイズは人間への影響を減らすことが出来る。
 これらが一番に現れた成果であり、封絶の存在意義が証明されたことにもなった。
 これは俺にとっても、悪く無い話ではある。
 何と言っても、これで『嵐の夜』で人に被害を出すことが無くなるのだから。人目を気にせず気負わずに使えるようになる。使う場面かこれからも、厳選していくけど。
 しかし、良いことばかりではなかった。
 一種の宗教とでも言うべきか。
 彼らは自らを『革正団(レボルシオン)』と名乗り、運動を始めた。
 
──反封絶運動

 人間に、世界に自らの存在を知らしめようとする``紅世の徒``の大集団である。

「俺にとってはどうでもいいんだけどね」

 平穏を望む俺にとっては、実はそんなのはどうでもいい些事に過ぎないとこの時は思っていた。
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