小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第四十七話(不朽のモウカ)

 昔と比べ今がどれほど逃げにくい世界であるかを知っているフレイムヘイズはこの世界でただ一人、俺だけに違いない。俺以外にもそのことを知っているフレイムヘイズが居るならば、是非とも交友関係を持ちたいものだ。
 俺が厄介事から逃げにくくなった理由ならそれはきっと、ドレル・クーベリックとか言う厄介事が服を着たような人物のせいであると断言できるのだが、何も逃げにくくなったのはそれだけではない。
 ``紅世の徒``から事前の逃げが出来にくくなってしまった。
 原因は封絶である。
 封絶はこの世とは世界を隔絶し、修復可能で内外部からの干渉を難しくする自在法。簡単に言い換えると、フレイムヘイズと``紅世の徒``ための戦闘フィールドであり、人間を巻き込まないように考慮された結界のようなものになる。
 こうやって何度も何度も封絶に関して思考してきた訳だが、実際にしょっちゅう使われるようになったのはここ最近になってから。神がこの自在法の存在を公知させ、その有用性を世界に知らしめたほんの十数年に広まったばかりの新出の自在法。これが公の封絶の認識だ。
 俺の場合は少し特異な経緯から、知れ渡る十数年前から知っていただけでに過ぎない。
 よって、封絶の対策をと考えてから、実際に封絶を使った戦闘に巻き込まれるようになったのはつい最近、先日のことだった。
 戦闘フィールを大きく張れば、逃げようとしている俺、しいては逃げようとしている場所までもが戦闘フィールドになってしまったり、封絶によって存在の力が感知しづらくなったりとやりにくい世の中になってしまったよ。
 十九世紀も残すところはあと十年と差し迫った今日この頃。十九世紀は俺にとって、今までの人生で最も波乱に満ちて、嫌気の指す日々だったよとリーズに愚痴をたらしている日のことだ。
 ドレルに新たに押し付けられた仕事は一組のフレイムヘイズの面倒を見ること。そのフレイムヘイズは、大戦を知るものには蛮勇を思い浮かばせる『極光の射手』その人。初代『極光の射手』は、契約した``王``──``破暁の先駆``ウートレンニャヤと``夕暮の後塵``ヴェチェールニャヤの証言により、油断と自己の力の過信から``天目一個``によって滅されてしまったことを教わった。
 懐かしくも嫌な記憶しかない``天目一個``の名に俺は冷や汗と苦笑を返すしかなかく、もう跡形も無くなっているが奴に斬られた箇所が、その名を聞いただけで疼く錯覚を微かに感じた。
 あの大戦ですら大きな怪我をしなかった俺に、色んな意味で傷をつけたそのミステス(ウートレンニャヤとヴェチェールニャヤの経験談によりミステスと判明した)。
 気配察知の出来ない彼にはもう二度と会いたくないものだ。ああ、そういえばこの経験も十九世紀か。本当に最悪の一世紀だ。あと十年残っているけど。
 俺と同じく嫌な記憶なのか憎々しげながらウートレンニャヤとヴェチェールニャヤは``天目一個``について語っていた。
 初代の時の活かすつもりのようで、二人はキアラに慎重にフレイムヘイズとしての在り方やらなんやらを教えている。しかし、その教えはあまり上手くはいっていないようだった。
 その原因はキアラが俺に預けられた『極光の射手』の暴走のようだ。
 キアラ本人も上手くいかないことを悔やみ、どうすればいいのか分からずに困惑している。フレイムヘイズの大先輩というだけで俺にどうすればいいか教えを請おうとするぐらい。
 いや、これは普通なのか。一応、経歴上は大先輩に当たるっちゃ当たるから。
 命に関わらない相談事くらいなら乗らないことはない。それに可愛らしく『困りました、どうしましょう』みたいな顔で頼られてしまうと、男として、先輩としてどうにかしてあげたい気持ちにはなるのだが、対応策が全く思い浮かばない。それ以前に、フレイムヘイズの力の暴走って何よ。俺は全く身に覚えがないのだが。

(暴走っていうのは、契約時のショックから起きるパニックの事なんじゃないかな)

 契約時のショック。
 自分が死にそうになった時に、または信じたくないような絶望的な光景を目にした時に高まった感情を``紅世の王``が``紅世``で感じ取り、状況を打開する力を、復讐をするための力を与える。これが一般的な人間が``紅世の王``と契約することになる経緯。これは奇しくも俺も同じだ。
 つまり契約時とは、その人物にとって最も最悪の出来事が起きた瞬間とも置き換えることが出来る。ウェルはその瞬間をフラッシュバッグしたことによって起きるのが暴走であると俺に教えてくれた。
 単純に言うと、嫌なことを思い出して困惑した状態。それが目に見える形となったのが暴走状態と言ったところだろうか。
 でも、それって、

(本当にそうなのか?)
(どういうこと?)
(いやさ。過去の嫌な事を思い出して、慌てふためくというか、思い出しただけで涙がでるというか、気持ちはね、痛いほど分かるんだよ)

 他のフレイムヘイズが``紅世の徒``と戦闘したり、遭遇したりした程度ではトラウマにはならないだろう。むしろ血気盛んに討たんと行動する。しかしながら、俺はその逆で涙を流しながら必死こいて逃げるんだ。俺からすれば``紅世の徒``との遭遇は不幸であり嫌な事で、戦闘はトラウマへと早変わり。
 だからもし仮に、キアラが契約するきっかけとなった``紅世の徒``に襲われた出来事がトラウマで、暴走しているんだとすれば、それこそ俺にも当てはまるのではないだろうか。
 キアラは女の子だし、精神的に俺より余裕がなかった、それこそ個人差といわれれば、そういうものだと納得するしかないかもしれないけど、``紅世の徒``への恐怖を抱いている度合いで言えば、絶対に負けない自信がある。
 うん、威張って言うことじゃないのは分かってるよ。

(モウカは、原因は他にあるって言いたいんだよね?)
(そういうことになるのかな)

 とは言え、じゃあそれはなんだと問われても答えようはなく、結果は分からないとなる。ショックが原因で暴走にあると仮定しても、その対処法はと聞かれたって分からない。どっちにしろ、俺がキアラにしてあげられることはなかった。
 だいたい、悩みの解決どころか世話を出来るかさえも怪しいところなんだ。
 ドレルは俺がすでに女の子と旅をしているからという理由でキアラを任せたらしいが、俺はほとんどリーズに何もしていない。
 フレイムヘイズになった生い立ちさえも普通とは違い、本来であれば心のケアとかも俺がしなくてはならなかったはずだが、放置してた。
 そう考えると、リーズは意外と出来た子だ。頭は少々残念なところを時折見せるが、それを除けば自分のことは自分で出来るし、お金が無い時はよくお世話になった……て、俺がお世話になってないか?
 過去のことはさておき、俺からキアラに言えるのは、

「ごめん。解決策は見当たらない」
「あ、いいんです! 私が自分で解決しなくちゃいけないことなので」

 キアラはそう言うとしゅんと縮こまってしまった。
 彼女の首飾りからは、「もう、そんなに気にしなくたっていいんだから!」と明るい声と「すぐに力を振るえる人はいないから、私達のキアラも焦る必要ないよ」と落ち着いた声が、キアラを励ます。
 彼女は契約した``王``に恵まれているようだ。
 彼女らの声で多少は元気を取り戻したキアラに、俺も先輩として何か出来ることはないかと考えてみる。
 俺が他のフレイムヘイズに胸を張って教えられるようなこと。人より優れいて、簡単に教えられることといえば、すぐに浮かぶのは一つのワード。

「でも、そうだね。俺がキアラに教えてあげらることといえば」

 ウェルが俺を面白いと言う原因であり、ある意味では良好な関係を保っている秘訣。
 最弱の力しかない俺がこの弱肉強食の世界で、生きてこられた理由。
 気づけば数多の戦いをくぐり抜けてきたその判断力の元。

──逃げることの大切さ

 これをおいて他にはあるまい。





◆  ◆  ◆





 嵐の渦中。雨と風が紅の世界内で猛威を振るい視野を完全に遮る。視野が遮るのみならず、``紅世``の者なら必ず持っているであろう気配の感覚をも鈍らせ、敵の位置を把握させない。暴風と豪雨はただの人間の身では脅威ではあるが、``紅世の徒``にとってはなんら問題のないはずのものだ。しかし、それも長期に渡れば身体の疲労を誘い、普段あるはずの気配の感覚を無くされた初体験と違和感によって心の疲労を誘う。
 それだけではなく、この自在法に敵対する``紅世の徒``は身に覚えがあるのか焦燥の色を隠そうともせずに呟く声が俺の耳元まで聞こえる。

「これが『嵐の夜』……くっ、討滅の道具め!」

 中心部。日本で言えば台風の目とも呼ばれる場所、嵐の発生源に俺たちは居る。
 嵐の発生源とは俺のことだが。
 久方ぶりの『嵐の夜』の発動だったが、相手の悔しそうな言葉を聞いて無事に発動できていることを確信し、俺は胸をなでおろしたところだった。
 戦う気がなかった俺に、遠い彼方から何を間違えたのか飛んできて『封絶』を張ったお馬鹿な``紅世の徒``にいい気味だと心の中で愚痴た。
 最初から言動がおかしかったのだ。
 ``紅世の徒``はいきなり、『俺を討滅する気だろ!?』と最初から差し迫ったように怒気を漏らし、『俺の計画がどこで漏れてしまったのだ!?』と意識過剰な言葉を残した。
 お前の計画なんて知らんし、俺は討滅する気もない。感じる存在の力はリーズの内蔵されているそれよりも少ないし、発言からも俺以上の小物臭しかしなかった。
 普段ならこんな状況を愉しんで大爆笑するウェルですら、失笑と苦笑を零した上に、

「モウカ、こいつ、つまらない臭いしかしない。とっとと退散しよう」

 あのウェルをしてここまで言わした程の敵だった。ある意味称賛に値する。
 俺も珍しくウェルの言葉に同意し、そそくさと退散しようと思ったら、キアラが少しびっくりした表情をしつつ俺に尋ねた。

「討滅しなくていいんですか?」
「……え?」

 俺が逆にびっくりした。
 討滅する必要あるの? と問い返しそうになった。

「それが普通の反応だと思うわよ」
「うむ、お主がちと特例なだけだ」
「そうだった、そうだったよね」

 リーズとフルカスの言う通り、フレイムヘイズって本当は``紅世の徒``を滅することが仕事の職業だったね。お兄さんすっかり忘れてたよ、なんて口に出すことはせず、キアラになんて言葉を返そうか悩む。
 俺が戦えないからと正直に言ってもいいのだが、ここは一つ見栄を張って偉いことを言うのもいいかもしれない。
 いや、待て。慌てるな。
 ここでしっかり俺が戦えないことを表明することが出来れば、何故か聞く度に増えていいく勘違いの連鎖を止めることが出来るかもしれない。
 そうと決まれば言う言葉はこれしかない。

「モウカさんは普通じゃないんですか?」
「そう、何と言っても俺は``紅世の徒``とは戦えないからね」

 言った。
 ついに言ってやったぞ。
 これが真実だ。
 知る者がほとんどいない貴重な真実だ。紛れも無い真実だ。
 分かっただろ。俺は色々と噂されているが実は強い弱い以前に、戦えないか弱い生き物だったのだ。『極光の射手』とは比べるべくもなく、隣で俺の発言にびっくりしているリーズにも及ばないほどのちんけな虫けら風情だ。
 だから、戦うなんて冗談じゃない。
 さっさとこの場から撤退して、生き長らえるためにも──

「──モウカさん、敵が目の前にいるのに冗談を言うなんて、すごい余裕ですね」
「これが余裕ってやつなんだねー。カールにも余裕と油断の判断ができたら」
「カールですら一斬りで殺された敵から、生き残っただけはあるわけね」

 冗談。
 いやいや、冗談じゃないよ。本当のこと。これが現実で、事実だ。戯言でも虚言でもない、たった一つの真実だよ。
 何故それを全否定しているんだ。
 ``紅世の徒``がやってくると気付いた時の俺の鬼気迫った追いつめられた顔を見たか? ひどいもんだっただろうに。体中からは冷や汗が止まらず、頭の中では逃げることしか考えてなかった。封絶が発動されてからも、いち早くに『嵐の夜』を発動させて防衛線を張ったんだぞ。自分の命可愛さに。
 それが何故、余裕だなんて言われるんだ。
 俺の数百年の心理状況で、余裕だった時は十分の一もないというのに。

「……ま、この自在法を見せられたらそう思われるのは当然じゃない」
「うんむ、普通は理解し難いだろうな。お主の心情は」

 俺の相方たちは、自分たちの感想をただ言うだけで、

「モウカったら、冗談が上手いよね。そんなに強いのに戦えないだなんて」

 プークスクスと語尾につくウェルの言葉はもはや感想ではなく、俺への追撃だった。
 中々に理解してくれない一行だが、まだ諦めるつもりはない。ウェルに笑われようとも、俺は勘違いを止めてみせる。

「余裕じゃないよ。だからこうやって『嵐の夜』を使って逃げるんだよ」

 逃げるという部分を強調して、そのまま実行に移す。
 リーズとキアラの手を無理やり取り、強引に封絶外へと移動する。それはもう全速力で、油断も隙もなく。
 封絶内からは封絶外の情報は掴めないが、そんなことを気にすることも出来ず、力いっぱい逃げた。封絶の外へ出てからも、``紅世の徒``が気配を感じれる圏外へ出るまで、逃げ足を止めることなく速度を上げて逃げる。
 言葉で理解されないなら、行動で理解されるしかない。
 俺がいかに戦いに恐れているかを、キアラに教えたかった。





◆  ◆  ◆





「お世話になりました。フレイムヘイズはただ戦うだけが使命ではないことを知ることが出来ました」
「時には逃げることも大切……か。カールの時じゃ考えもしなかったもんねー」
「``紅世の徒``は全て俺様が討滅! だったからしょうがないわよ」

 来た時は違って、ゆったりと歩いて行くキアラたち『極光の射手』。姿が見えなくなるまで手を大きく振り続けるキアラを俺たちは見届けた。
 一年の時を使ってようやっと探し人である人物が見つかったようだった。
 ``紅世の徒``を追い求めて、見つけては討滅するしかないフレイムヘイズをたった一年で見つけられるようになったのは外界宿の連携がとれてきた証なのかもしれない。

「行っちゃったわね」

 どこか寂しそうにリーズは小声で言った。
 俺が世話を出来無い代わりに、世話と言うか仲良くしていたのはリーズだった。同じ女の子同士からか、後年になると仲良くしゃべってるところをよく見られた。女の子同士の会話のため、話題はどんなのかは知らないが、女の子二人が普通にしゃべってる姿を見ていると、二人がフレイムヘイズであることを忘れてしまいそうだった。
 ついていけばよかったのに、とさり気なく呟いただけだったのだが、リーズはそれに素早く反応して、「行かないわよ、行くわけない……じゃない」と俺を真っ直ぐ見つめて言った。
 その反応にどう返していいか分からず、お互い無言になりどことなくむず痒い雰囲気になる。
 雰囲気を打破したのはやはりウェルだった。

「結局、誤解は解けなかったね」
「お前がそれを言うか」

 ウェルの助け舟に突っ込む形で乗る。
 誤解を解こうと俺は必死だった。少しでも勘違いが緩和されればと半ば妥協していたが、最終的には何も成すことは出来なかった。
 ウェルは勘違いが相乗するようなことばかり言っていたが、リーズが弁護してくれていたのか、途中からキアラは俺が``紅世の徒``の討滅を第一としていない変わったフレイムヘイズであることを理解してくれた。
 しかし、キアラは俺のことを『使命に囚われない自由奔放なフレイムヘイズ』と受け取っただけ。
 戦闘の出来無い、非戦闘要員であることは最後まで理解を示してくれなかったのは残念だった。

「素直でいい子だったじゃない」
「そうだけどね。もうちょいウェルの言葉に騙されないようにして欲しかったね」

 賢い子だったよ。
 それは間違いない。
 フレイムヘイズはその出生故に復讐者の代名詞で、``紅世の徒``を目の前に逃げるなんて言語道断。ありえないことだ。
 俺はそれを平然と行い、その大切さをキアラに説いたら、キアラもその大切さを理解してくれた。
 頭の硬い連中、というか復讐の一点張りの奴らでは出来ないその判断と選択肢を持つことの有効性を理解できる柔軟性は、賢いと言えるものだった。
 そして、幅広い考え方を出来るものは、

「あの子は将来有望だ」
「『極光の射手』の時点で確約されてるけどね」

 有望な若手が出れば、フレイムヘイズ全体の生存率も上がるというものだ。
 早くに暴走の弱点を治し、第一線で戦える日が来るのを俺は期待する。
 俺が``紅世の徒``と出会うこともないくらいの活躍を、ね。
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