小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第五十話(不朽のモウカ)

 初めてユーラシア大陸以外の大陸へと足を踏み入れた。欧州から出たのは日本に行った時以来となる。この二度目の船旅は、レベッカの加護もあってなのか安全安心の極みであり、``紅世の徒``がいつ出るか分からない恐怖から来る、船の上での不眠症に悩まされることはなかった。
 その代わり、リーズが日本の時と同じように、船酔いして寝込んでしまったが、それは逆に平和を感じる平凡な日常だった。
 ずっとこんな時間が続けばいいのに。そう思うのも仕方のないことだ。
 思っただけではなく、口にも出していたようで、ベッドで寝てたリーズはその言葉を聞き『貴方は鬼ね』と涙目で言われた。不覚にも少しだけ可愛かった。
 リーズにとっては船上は些かも平和ではなかったようだが、俺にとっては平和な時間を過ごした船の時間は終りを告げ、アメリカの大地に足を踏み入れた。けども、ここも通過点にすぎない。
 本来の目的地は大陸を跨いだ先にある、アメリカの西側の海に浮かぶ島。近い将来には、日本人がしょっちゅう観光に行く観光都市となるが、今はそうではない。
 まず、ハワイがアメリカ合衆国に取り込まれたのは最近のことで、それも原住民を大虐殺し、凄まじい量の血を流しての力技での併合だ。大地の四神が怒り狂った原因の一端でもある。
 多くの犠牲のもと、今は落ち着いているが、まだ完全な統治とはなりえていない。
 とは言っても、フレイムヘイズが政治的な関わりを持つことはないので、ハワイの情勢がどうであろうと俺たちには関係ない。レベッカとフリーダーがハワイ周辺に巣食うであろう``紅世の徒``を討滅するのみだ。
 『ハワイ近辺の``紅世の徒``を殲滅せよ』これが、正式に外界宿から宛てがわれた依頼である。このような依頼を、現在世界中に散らばっている同胞たちが貰い受け、今回の``海魔(クラーケン)``の殲滅戦に当たることとなる。
 こう見えても外界宿の重鎮の俺は、本来であれば命令を出す側の立場。それ以前に、このような危険な仕事は引き受けない性質なのだが、色んな理由が重なってアメリカの地に居る。
 その理由だって大本はリーズにも話した、将来の争いごとに巻き込まれないための布石に他ならない。
 そうでなかったら今作戦の大本命。もしくは、最前線で俺が力を振るうわけがない。尤も、今回に限って言えば、大盤振る舞い、出血大サービスで思いっきり力を使うことにしている。これでもかと目立つほどに。
 いつまでも、一人歩きする噂に振り回されるだけでじゃないんだよ。
 ついに、理不尽な世界に復讐する時が来たのだよ。
 そう思うと自然と笑いがこみ上げる。

「ふっふっふ、なんて笑う人初めて見たわ」
「モウカいいよ、その笑み! なんだかすごく小物臭がして、私の中のモウカのイメージにぴったしだよ!」

 リーズとウェルの言葉に、高まった感情が冷めていくのが感じる。

「人がせっかくイイ気分になってたのに……」
「あんまりあんたのことを知らないオレが言うのも何だけど、見てるこっちは不気味だったぞ。あと、なんとなく可哀想になった」

 普段なら二人のダメ出しで終わるのが、まさかのレベッカまで加わり、

「それは僕も思ったねえ。僕は不気味よりも、しょぼいくれた笑みっていう感想だけど」

 バラルのトドメが加わり四人による猛攻になった。通常の二倍のダメだし。
 ちょっと、ほんの少しだけ世界に復讐してやると思っただけで、この有様だ。
 世界が憎い。

「ふむ、まあ落ち込むな」
「慰めるなよ、フルカス。なんか……もっと惨めになるじゃないか」
「……すまん」
「謝らないでくれ!」

 フルカスの気持ちはありがたいものではある。しかし、この場ではそれは慰めにはならずに逆効果。俺を一層に惨めにするだけ。

「……別に私は貴方を馬鹿にしてないじゃない」

 リーズの声は、ウェルの笑い声で何も聞こえなかった。
 フリーダーとの待ち合わせ場所、西海岸に旅立とうという日の出来事であった。





◆  ◆  ◆





 

「お、発っ見~!」

 レベッカは獲物を積みつけたような獰猛な目をし、口の端が釣り上がる危険な笑みをする。彼女の見る先には、百九十を超える背丈と綺麗な金髪を持つスーツ姿の男がいた。後ろ姿しか見えないが、この時点で欧州系の美男子と呼ばれる部類の人間であろうことは間違いない。
 レベッカの声が聞こえたのか、こちらを振り向く。
 その姿は色白で白眉秀麗という言葉が似合いそうな、思った通りの美が付きそうな男。スーツの胸ポケットには小洒落た造花が挿しており、なんとなしに気障さを感じさせるはずなのだが、鳶色の瞳が強烈な眼光を発しており、レベッカと同様に雰囲気は強者のそれなので、気障さを感じない。
 姿だけを見れば、ただのお金持ちの坊ちゃんにしか見えないはずなのに、そうは見えないのはやはり猛者のフレイムヘイズだからか。
 お互いに歩み寄り、会話に支障のでない場所まで近寄る。

「ね、ねえねえやっぱりこの声はレベッカちゃんだったよ!」

 か細い音にどこか喜色が含まれる声。その声が神器と思われる造花より聞こえる。

「ああ、そうだね。ようやく待ち人が来たようだ」

 その声はようやく知り合いが来たと、気苦労を感じさせるものだった。

(そういえば、レベッカとフリーダーはペアになることが多かったんだっけな)
(レベッカの方は、『付き合ってやってるんだ』とでも言いそうだけどねー)

 一匹狼に近い性格を持っているレベッカだが、意外にも意外なことにレベッカの名が挙げられる時には、同時にフリーダーの名が挙げられることも多かった。
 たまにフレイムヘイズ同士、もっと大きくは``紅世``に関わる者同士には、なんとも言えない奇っ怪な縁があったりする。俺であれば``螺旋の風琴``リャナンシーがそれに当たったりするだろう。
 二人の関係が一体どういったものなのかは知る由もないのだが、腐れ縁なのは、眼の前で繰り広げられているお互いに遠慮のない会話が証明している。

「俺は待ちくたびれたぞ」
「うるせえ! 東海岸から西海岸まで思ったより距離があったのが行けねーんだよ」
「地図を見て、『大体一日これくらい歩けばいいんだろ』とか言ってさ。目分量もさることながら、手コンパス、それも動かすごとに支点と長さが変わるから、一日の分量もバラバラだったけどねえ」
「ほら、やっぱりレベッカじゃないか。何が三日以内に着くだよ。一週間も待ちぼうけを食らったぞ」
「ふ、フリーダー君落ち着いて。れ、レベッカちゃんも気にしないでね。その間、フリーダー君も私も退屈しかなっかたら。ほら、アメリカって色々と目新しいし、ね?」
「ふん。実際に歩くのと、地図じゃ距離が違ったんだよ。地図が悪ーんだ。地図が。それにお前だって、十分楽しんでんじゃねーか。私が早めに着くって言ったおかげだろ」
「なんだと?」
「なんだよ!?」
「ふ、二人とも、落ち着いてー!」

 俺、この二人と暫く行動するんだよね。かなり不安になってきたんだけど。
 俺の不安を感じ取ったのか、リーズが俺の顔を覗き込み、目線だけで『大丈夫?』と心配そうに聞いてくる。心配はすごくありがたいが、出来ることならこの二人の口喧嘩というか、子供の喧嘩みたいなのを止めて欲しい。
 挙句には『バカ爆弾』『セコイ詐欺野郎』などという罵倒まで飛び交い始める始末だ。
 彼女の王は火に油を注ぐし、彼の王はあわあわして、頑張って止めようとするものの効果なし。
 そろそろ人の目線も痛くなってくる頃だ。
 傍目から見れば、男女が四つの声で不可思議に喧嘩しているようにしか見えない。遠目から見れば、四つの声の持ち主に俺とリーズも含まれることで団体での喧嘩にしか見えなくなるだろうが。
 このままでは更に注目を集めかねない。
 フレイムヘイズは、基本的には人に紛れ、表立つこと無く、人知れず暗躍する者だ。今の状態はあまり好ましくない。
 目立ちたくない俺にとってはなお良くない。
 さらには、下手にアメリカで騒ぎを立てれば、せっかく鳴りを潜めてくれた大地の四神の怒りも買いかねないかもしれない。度量の狭い方々ではないと思うが、何がきっかけになるか分からないのだ。
 ため息をついてから、意を決して止めに入る。

「お二人さんとも。仲がいいのは分かったから」
「んだと!? いつこの根性なしと仲良くしたって!?」
「俺はこんなじゃじゃ馬な女と仲良くなった覚えはないのだが?」

 俺の心遣いの言葉は火に油を注ぐ結果となってしまった。
 もう嫌だ、こいつら。心ゆくまで喧嘩してください。
 俺が諦めるとポンと肩に手を置いて慰めてくれるリーズ。俺の気持ちを理解して、慰めてくれるのはこの子しかないよ。ウェルは俺の気持ちを理解した上で、爆笑中。声に出して『もっとやれー』なんて言っているくらいなんだから。
 この二人の再会頭の挨拶とも言える喧嘩はこの後十数分にも及び、それが終わってからようやく俺を含めて自己紹介を終わらす。
 リーズは当然だが、実はフリーダーとは俺も初めて会った。
 彼もレベッカと同じように外界宿に好意的に接しているフレイムヘイズの一人であり、今回のようなフレイムヘイズからの要請には積極的に関わっていたりしてもらっている。所謂、外界宿の戦闘面を携わっていると言っても過言ではない。ドレルが言うには、彼には近いうち一つの外界宿の運営や経営も頼みたいと言うほど、親外界宿派である。
 戦闘力もさることながら、そういった頭脳面も優秀なのだろう。多くのフレイムヘイズ特有の一人一党タイプではなく、集団戦や団体戦も出来る『犀渠の護り手(さいきょのもりて)』ザムエルのような珍しいタイプであるのが予想される。
 俺も個人で動くよりは、集団のほうが得意だが、知能面がさっぱりだからな。戦闘指揮は言うまでもなく、組織運営とか出来る気がしない。指示通りに動くのが精一杯だ。
 だがまあしかし、レベッカと喧嘩している姿は、どうも指揮官として優秀になり得るとは思えないんだよな。フレイムヘイズとして優秀なのは、肌で感じるけど。
 ……と、彼のことをよく知っている訳でもないし、俺が考えることでもないか。
 思考を切り上げ、これからのことについて話しあわなければならない。
 ハワイの``海魔(クラーケン)``の殲滅戦実行の日は明日。
 今日は、旅の疲れを取るために、かなりいい宿を取った。個人の部屋の大きさは、四人全員が集まっても余りあるもの。十人程度までは窮屈をしなさそうな作りだった。
 今は、四人全員が集まり明日のための作戦会議中。
 俺とリーズがソファーに隣り合って座り、机を挟んで向かい側のソファーにフリーダーが座っている。そのフリーダーが口火を切る。

「さて、早めに寝たいことだし、明日の『ハワイ解放戦』についてさっさと決めてしまおう」

 その言葉にいち早く反応したのは、フリーダーの隣が気に喰わないためか、自身のベッドの上に足を組んで座っているレベッカだった。
 はっ、と馬鹿にしたような言葉を出してから、口にした言葉は、

「決めることなんてないだろ。正面から喧嘩売って、殲滅。それ以外に何がある?」
「確認されている``海魔(クラーケン)``も``王``とは口が裂けても言えないものだしねえ」

 彼女らしい言葉。
 作戦なんて知ったことか。正面からオレの爆弾で全て蹴散らし、灰にしてやる。
 確かな自信を感じさせる『殲滅』の文字には、とても心強くなる。彼女にはそれが出来るだけの力があり、それは誰もが認めるものだけに、俺は異論がない。是非に、その力の限りを尽くして一人で狩り尽くしてくださいな。
 俺は、レベッカの自信を読み、その作戦でいいんじゃないかなと肯定の意思を示そうとするところに、フリーダーが眉をしかめる。
 フリーダーにとっては、その彼女の彼女らしい方法は不服のようだった。
 俺が肯定の言葉を言う前に、フリーダーが作戦の重要性を言う。

「仮にも俺たちは今回の作戦の部隊長なんだぞ。ハワイにおける戦闘は、この作戦の明暗を分ける物になりえる。だから完璧に仕事をこなさなければならないだ。それを正面から殲滅では、隊長のとる作戦としてどうかと思うが? それだけじゃない。さすがのお前とて、広い海全てを爆破できるわけじゃないだろ」
「そ、それにねレベッカちゃん。この後の作戦ではレベッカちゃんも隊長として戦わなくちゃいけないんだよ? ここで力を使いきっちゃったらダメだよね?」
「そういえば、二人は今回の作戦のあとは他の部隊と合流なのか。大変だな」

 二人は俺と違って部隊長としての戦いがこの後に控えている。
 このハワイはこれからの戦いの先駆け的なものだ。宣戦布告とも言うのだろう。ハワイで宣戦布告というとどうもあの戦争を彷彿させる。
 日本人には馴染み深いあの戦争だ。今から数十年後に起きると考えると、色々と込み上げてくるものがあるな。

「分かってくれるか。ドレルとピエトロも難儀なことを言ってくれるよ。いくらこちらに優秀なフレイムヘイズがいたって、この広いハワイの海戦にたった四人は厳しすぎる。なんだって重要なこの初戦でこんな少ない戦力なんだ」
「で、でもでもしょうがないよ。他の作戦にも人を用意しなくちゃいけないんだから、どこかしらで少数になっちゃう」
「分かってる。だからこその少数精鋭なんだろ。今作戦の最大戦力である俺たち部隊長を一箇所に集めてでも少ない人事で済ませようという」
「別に一人だっていいさ。オレが一人いれば十分。嫌なら、今からでも部隊に戻りな。部・隊・長さん?」

 相変わらずの喧嘩腰のレベッカ。フリーダーも遠慮のいらないレベッカがいるからなのか、感情を素直に表出しているが、もう少し抑えてもらいたいものだ。気持は痛いほど分かるが。
 しかし、これでドレルが俺をこちらへ向かわせた意図が分かった。
 これでもかというほどの実力者を集めた少数精鋭。海という広い戦場で、海戦になれないフレイムヘイズには少ない戦力は致命的だ。
 海に潜む``紅世の徒``を発見するのに探索系のフレイムヘイズを使用しなければならない。それが叶わないなら数によって人海戦術で見つけるしかない。だのに、フリーダーの知るフレイムヘイズであるレベッカはそれとは程遠いタイプであり、俺とリーズの力は知らない。
 俺の名前を聞いた時、「あの『荒らし屋』か」と非常に不本意な噂を知っていたので、その名前からきっと俺がレベッカに近い性質のフレイムヘイズであると勘違いしているのだろう。
 だが、実際には違う。

「二人共冷静になれってば」

 声が震えそうだったが、冷静を何とか取り繕い。まずは二人の意識をこちらへと向けさせる。
 実際にこちらに目線が注がれると、そのあまりの目のきつさからビクッとなりそうだったけどなんとか耐える。

「部隊長のメンツうんぬんは分からないが、殲滅だけなら多分難しいことにはならないと思うよ」

 そう、多分。
 俺の自在法があれば、海戦は苦にはならないはずだ。
 俺の言葉にフリーダーは目を丸くさせ、レベッカは獰猛な笑みを浮かべ──ウェルが小さく笑った。
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