小説挑戦


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【投稿版】不朽のモウカ

第六十話(不朽のモウカ)

 こんな事態になることを坂井悠二は想像することは出来なかった。
 それも当然である。
 ほんの数ヶ月遡れば、彼は至って普通のありふれた日常を送る少年でしかなかった。桜吹雪の中、これから訪れる高校生活にこそ想像は絶えなかったが、命の駆け引きを繰り広げる非日常が出迎えているなどと誰が予測できようか。
 いや、その命すらも彼女らからすればすでに無い。駆け引き以前に、賭けるべきである坂井悠二の命はすでに無い。
 彼女──悠二自らがシャナと名付けた少女は、不躾に愛想もなく、実に清々しい潔さで言ってくれた。
 本物の坂井悠二はすでに死に、残ったこの意識はそれの残りカスに過ぎず、人ですら無い、モノである、と。
 そうして知った自分の本当の正体。本物の残りカスでトーチと呼ばれる存在であり、いずれは世界から消えてしまう存在であること。それから一つの出来事を境として、特殊な宝具を宿すミステスであったために、消えること無く、悠二は日常と非日常の境界を跨ぐことになった。
 ``この世の本当のこと``。知りたくなかった、知らなければよかった、真実を知った日から。
 名前すらもなかった少女であるシャナは、その``この世の本当のこと``を守る存在であるフレイムヘイズだ。あまりに小さな体躯からは、その見た目以上の身体能力と他を圧倒する存在感を放ち、彼女が戦う時に真紅に染まる髪と瞳と同様に、燃えるような熱い使命感を携えている。
 悠二はそんな彼女に世界を守るヒーロー(ヒロイン)を連想させる。
 人知れず、人を喰らう化け物である``紅世の徒``から世界を守り、どんな敵にも臆しない強い心を持っている。彼女自身が何より、フレイムヘイズであることを体現しようとしている。
 だけど、年端もいかない少女に見える時もある。夢中でメロンパンを頬張っている時なんて、それの最たるものだ。
 フレイムヘイズは人間とはかけ離れた力を持っているが、人間と変わらない存在であることにも、つい先日ある人物に思い知らされた。
 気高かった彼女は思ったよりも身近で、フレイムヘイズは完全無敵のヒーローではない。
 そんな彼女を想うと、彼女は絶対に負けないという想いと、彼女の力になりたいという想いが、気付けば悠二の中で芽生え始めている。
 悠二には戦いのイロハは分からない。
 ほんの一瞬で命を散らしかねない危険なものであることは想像に難しくないが、むしろ危険なものという認識でしか理解出来ていない。
 それでも悠二はシャナの力になりたかった。
 フレイムヘイズである彼女は強く、無力に等しい自分の力など必要としないかもしれないが、それでも何か彼女の為になることはないか、と考えを止めることは出来ない。
 ある意味、恵まれてもいた。
 はたしてその力は自分固有のものだったのか、それとも身に宿す``宝具``のおかげなのかは見当もつかないが、その鋭敏な感覚を用いることによって、時には敵の真意に、時には敵の計略に嗅ぎつけることが出来るのだから。
 シャナの負担にならないため、困らせないためという想いから始まった強くなりたいという願いは、この内なる``宝具``の力もあって、道のりは楽ではないが決して不可能なものではないと思い始めている。
 それなりの修羅場だって乗り越えた、はずである。が、やはりそれは一人で乗り越えたものではなかった。
 傍ら、とはとても表現できないが、常に悠二よりも前ではシャナが戦い、悠二はそれに必死こいて付いて行くのが精一杯だったに過ぎない。金魚のフンと言われる方がまだ正しい。
 今日だってそうだった。
 ``紅世の徒``の自在法の仕組みには気付くことは出来たが、言ってしまえばそれだけであり、個人でその自在法を打ち破ることすら叶わない。
 マージョリー・ドー。『弔詞の詠み手』と呼ばれるもう一人のフレイムヘイズの力を借りて、ようやくここまで辿り着くに至った。
 結局は他人頼り。最後は人任せと言われても仕方がないのかもしれない。
 現実逃避に華が咲いたが、この状況こそ人任せの極地だったりする。
 最初はどうしようか困った。
 予期せぬ遭遇に自分では対応しきれないと考えた。``紅世の徒``との対峙は、すぐさま死を彷彿させる。悠二はこの空間、封絶(正確には今置かれている状況下は封絶とはやや異なる)を初めて認識した時、``紅世の徒``にも満たないその下僕の燐子にさえ、足がすくみ、何も出来ずに情けない姿を晒して殺されようとした。それがまして、``紅世の徒``との遭遇であるなら、一も二もなく容易く自分は殺されてしまうだろう。
 しかし、殺されるのは容易だが、生き残る術は何かないかとすぐに考え始める事が出来た。
 こんな状態ではあるが、不思議にも自分は冷静で、どうすればこの場を凌ぎきる事ができるか、全力で脳が働く。
 ``紅世の徒``を倒すことは自分には出来ない。ならば、倒すのは誰かに任せないといけない。
 逃げることも出来ない。相手の力は未知数であり、どんなに低く見積もってただのミステスである自分よりは強く、速いはずである。
 つまり、ここで自分が出来る最善手は、時間稼ぎ以外にありえない。
 延命処置である。
 そして、悠二は結果だけを見れば、ものの見事に時間稼ぎに成功することが出来た。
 内包する宝具``零時迷子``が露見しただけの悠二にとってはおおよそ最高の結果──尤も、その結果は悠二だけの満足するものではなく、対峙していた``紅世の徒``である``千変``シュドナイにとっても十分な成果であったことは、悠二の知る所ではなかった。





◆  ◆  ◆





 マージョリー・ドーは生粋のフレイムヘイズと言える存在であった。
 簡単な話が復讐者である。
 フレイムヘイズのその多くは、どす黒い感情の下に``紅世の王``と契約する。知人友人、家族、大切な人を理不尽な``この世の本当のこと``によって失い、その元凶たる``紅世の徒``への怒りをエネルギーに替え、憎しみを糧にフレイムヘイズとして``紅世の徒``に復讐を誓う。
 典型的とも言える彼女は、その大きな殺意を剥き出しにして数多の``紅世の徒``を葬ってきた。
 ``紅世``に名だたる殺し屋であった。
 憎しみは原動力だ。それは多くのフレイムヘイズに共通することであり、これを失ってしまえばフレイムヘイズ、復讐者足り得ない。
 それを彼女は身を持って体験した。
 牙を抜かれた状態で、ある主の因縁とも言える``千変``との対峙に至ったが、彼女が自在師として名を馳せた所以である即興の自在法を組むことが出来なかった。
 それには思わず、やっぱりねと言葉を零すしかなかった。激情家で、敵を見れば敵もろとも心をも燃やし尽くしそうになるのだが、心が滾ることもなく、また文字通り火をまともに扱うことも出来なくなっていた。
 フレイムヘイズも脆い。
 たった一つの想い、あるいは感情を失っただけで、こうも人間と同じ無力に成り下がる。
 こんな自分にさえ嫌気が差す。こんなやさぐれ状態なら普段以上にお酒もすすむというものだ。
 復讐もまともに出来ないフレイムヘイズに、果たして生きている意味はあるのだろうか。
 ──しかし、まあどうにもこうにもフレイムヘイズは単純に出来ているらしい。
 いや、今までだってやっぱりたった一つの感情で生きてきたのだから、単純であることは見事に的を射ていると、マージョリーは思わざるをえない。
 マージョリーは初めて、今まで抱えてきた憎悪以外の感情で、この場へとやってきた。
 何故だか得体の知れない奇声を上げて喜んでいる``千変``と、無謀にもあの炎髪灼眼の討ち手の力になりたいと言っていたミステスの少年の居る戦場に。
 今のマージョリーの姿はまさしく獣。
 欧州系特有の鼻筋の通った美貌も、スラリと長い脚や女優顔負けのプロポーションも、艶やかな栗色の髪も、その全てを覆うずんぐりむっくりした群青色の着ぐるみじみた獣の形状こそ、マージョリー・ドー『弔詞の詠み手』の炎の衣であり、『屠殺の即興詩』の戦闘態勢だった。
 御崎市での三度目の``千変``との衝突は、手応えの感じ無いものだった。
 一度目と二度目は違う意味(自身の力がそもそも十全ではない)で全く手応えを感じなかったが、三度目は敵が、かの``仮装舞踏会(バル・マスケ)``の三柱臣が相手だというのに、強さをいまいち感じられない。例え、腕の一本を``千変``が失っていたとしても、だ。
 どうにも、焦っている感じがある。

(……おかしいわね)
(連戦ちゃあ、連戦かもしれねーが、ちぃーっとばっかし手応えが無さすぎだぜ)

 マージョリーが感じたことを彼女と契約した``王``、``蹂躙の爪牙``マルコシアスも同調する。
 戦いの主導権をマージョリーが完全に握る。
 ``千変``は将軍と呼ばれていることもあり、``紅世``屈指の戦闘能力を持つ強大な``王``である。マージョリー自身も、引けを取らない力を持っていると自負しているが、それでもここまで戦いで優勢を保つことが出来るだろうか。
 自分の調子が絶好調で、相手が絶不調、地の利が完全にこちらで、周囲の戦況もこちらが完全有利。ここまでの圧倒的な攻勢でない限り、こうも主導権を握れるとは思えない。
 何より、マージョリー自身は何度も``千変``と戦闘を交えているのだ。相手の実力を見極め間違えるとは考えられない。
 
(ま、関係ないわね)
(ヒッヒ、そういうこった! 我が非情の殺し屋、マージョリー・ドー)

 ようは討滅してしまえばいい。
 敵側の都合なんてお構いなし。
 ``紅世の徒``は殺してなんぼで、今までだってそうやって戦ってきたのだ。何を今更考える必要があろうか。
 敵は殺す。
 ``紅世の徒``は殺す。
 それだけなのだから。
 とは言え、

「ん!?」
「なぬっ?」

 この行動にはさすがに驚きを隠せなかった。
 あの``千変``が逃げを打ったのだ。
 ──が、それも

「なっ!?」

 ``千変``のさらなる驚きに上書きされる。
 兆候などは無く、唐突にそれは起きた。
 身体を海蛇のように変化させ、物凄い勢いで逃げようとした矢先、``千変``ごと水が急に浮かび上がり、その周囲に風が巻き起こり、あっという間に一つの竜巻のようになり完全に包囲する。

「これは……自在法ね」
「どーも、こいつはあ、臭う自在法だなあ。どこぞのお気楽自己中な同胞の臭いがするぜ」

 竜巻はなおも拡大を続け、周囲の物を巻き込みながら風の層が分厚くなっていく。中に閉じ込められているはずの``千変``の様子は、外からは丸っきり見ることは叶わない。
 マージョリーはトーガを解かずに戦闘態勢こそ崩していないが、その様子を眺めるのみ。
 見たことがない自在法ではあるが、推測が正しければ、この自在法の予測は難しくはない。
 ``紅世``においては有名である。特に集団戦においては。
 この嵐は敵味方関係なく飲み込み、味方を優勢に、敵を劣勢へと一気に陥れ、形勢をひっくり返す戦略級の大型の自在法。
 活躍の噂は定期的に流れ、つい最近まではとある外界宿で長をやっていると聞いていたが、なるほど。その外界宿はこの国にあるのだから、いつも大きな戦いの中心に居た彼がここ(闘争の渦疑惑のかかっている)に居ても不思議はない。むしろ、必然とすら思えるくらいだ。
 推測は案の定当たっていた。

「それでいつまで観戦してるつもり? 高みの見物だなんていい性格してるじゃない」
「そういう訳じゃなかったんだけど。さっきのタイミングで出て来なかったのは悪いとは思うけどさ」

 声を投げかけてみれば、スッキリと聞き取りやすい声が応答し、希薄だった存在が明確に感じ取れるようになる。
 姿を現したのは、濃い青色のローブに包んだマージョリーと然程身長の変わらない黒髪黒目の男。その男を守るように立ち並びながら現れた、甲冑を装備した大きな盾、ランスに部類されるだろう太く大きな槍を携え、金が焦げたような髪色に青色の瞳の少女だった。

「えーと、とりあえず、自己紹介を──」

 男のその言葉にマージョリーは軽く手を振って遮り、呆れながら言う。

「いらないわよ。あんた達のことは知ってるし、そっちも私が分からない訳じゃないでしょ」
「ヒッヒ、お互い長生きしてんだあ、色々と噂は聞いてるぜ。大戦の立役者殿ってなあ」
「モウカ良かったね! 有名人になれて!」
「あー、うーん、良くはないかなーと俺は思うんだけど」

 フレイムヘイズらしくない男だった。
 確かにこの場で放っている存在の力はかなりのものであるのだが、本人から漂う雰囲気はそれと相反している。正直に言えば、ミステスの少年と大差ない平凡な人間のような雰囲気だった。
 しかし、だからといってあのミステスとこのフレイムヘイズでは、積み上げていたものが違いすぎる。生きてきた年数であれば、マージョリーと同等であり、自身よりも早く名を馳せらせている。
 事実、目の前ではかなり大規模の自在法が展開しているにもかかわらず、本人はまるで苦にしていない様子。噂を信じきるつもりはないが、少なくとも噂になる程度の実力はあると見ていい。

(『炎髪灼眼』に『不朽の逃げ手』、敵側では``千変``がいる。それに、まだもう一人同業者がいるようだしね。はあ、戦でも開戦できそうな面子じゃない)
(ヒッヒッヒ、さらには我が戦乱の歌い手、マージョリー・ドーってか。敵は``千変``と``愛染``兄妹だけじゃーちょーっと、物足りなゴフッ!)
(おだまりバカマルコ。その``千変``だけでも下手したら私たち全員を相手できるんだから十分よ)

 それはさておき、これだけの戦力が居るのだからマルコシアスの言葉も理解できなくはない。
 本来は、一箇所に留まることにないフレイムヘイズらが一つの街にこれだけ集まるのは異常である。
 さらに疑問を重ねるのであれば、

「それで、あんたは何で逃げようとした``千変``を捕まえるようなことをしている訳?」

 逃げる敵は放おっておけばいい。
 一時期は固執して``紅世の徒``を追っていたマージョリーが自分で言うのもおかしな話だと思いながらも、『不朽の逃げ手』に尋ねる。
 相手はあの``千変``だ。ヘタに突いて手痛い反撃を食らう可能性だってある。さっきは、``千変``との戦闘の感触に疑問を持っていたが、それでもやはり敵の存在は大きいのだ。
 それに『不朽の逃げ手』は、心底嫌そうな顔をしながら答えた。

「大戦を開戦させる訳にはいかないから、ね」

 その言葉の意味をマージョリーが理解するのは、もう少し後になってからであった




皆さんがモウカとシュドナイの戦闘シーンに期待していたようで、すみません……
次回へ持ち越しです。
とはいえ、そろそろ悠二くんを出さなければいけなかったので、後半のラスト以外、本当に説明回のようになってしまいました。
悠二君を間違ってキャラ付けされるのもまずいと思った結果、かなりデリケートに書きました。
うまく原作の彼らしさが出ていれば幸いです。
次回更新は未定ですが、最低月一を保ちたいとは思ってますので、来月の今頃に覗いていただければもしかしたらがあるかもしれません。

いつも感想、拍手などありがとうございます。

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プロモーションじゃぁPRだww
プロポーションですね。
#79[2013/03/30 20:07]    URL  [Edit]

青ローブとかギルド職員のモブ臭いwwwさすがやでえ
#80[2013/04/03 00:03]    URL  [Edit]

ようやく本編始まりましたね。悠仁と主人公組の掛け合いが楽しみです!
#82[2013/04/12 14:00]  のぶ  URL 














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